閑話 今更戻ってきて助けてくれと言ってももう遅い! 後編
私を追放した王子殿下は、朝食の最中にスープの皿を下げに近づいた侍女が、その時点で制御を失って王子殿下に襲い掛かり、同時に他数名の侍女や兵士も周囲に襲い掛かって城内が混乱に陥っていて、誰もゴドウィン殿下を助けることなく、王子殿下は生きながら侍女や兵士に貪り喰われる悍しい最期を遂げたという。
それを私に伝えてくれたのは、身一つで逃げ延びてきた聖女シルベータだった。
彼女は特殊なオーラを放っていて、死者は近づけないので、制御を失った多数の死者に襲われることもなく、無事に単身脱出してきたのだ。
人は彼女を聖女と称揚するが、私にとっては、ただの変質者だ。
思いっきり何度もぶん殴ってやったのに、懲りもせず、何度でも忍び寄ってきては貞操を狙って襲ってきたので、その都度何度でも実力行使で排除してきた。
数少なくなった生者は彼女の不埒な振舞いを止める余裕などなかったので、この痴女は王宮内に野放しであった。
他の不埒者ならば私の手足となって働くアンデッドサーバントがインターセプトしてくれるのだが、聖女様には近づけない。
今もまた、私の腕に勝手に腕を絡ませて、べたべたひっついて人の肌を撫で回したり、匂いを嗅いだりと、鬱陶しい真似をし続けて私を疲れさせている。
一体何でこんな変態女に見込まれたのか、さっぱり分らない。
言いたくも無いが、随分数少なくなった生者の中にも、私よりも可憐な美少女、愛嬌の有る娘、美しい女性は何人も居た。強い女性兵士や女騎士も居た。
私は大雑把に言って、それなりの美女でしかない。
だが、シルベータは何故かいつも私だけに近寄ってきた。
彼女は女神さまとやらに与えられたと称する特殊な力を幾つか有しており、ひとの居場所を嗅ぎつけて、隠れている者を探し出せるらしい。
こちらは多少鍛えられただけの、普通の人間に過ぎない。
偶々死霊術だけは資質と環境に恵まれていたので、控えめに言っても人並み以上の能力があるが、怪しい聖女とは違って、そんな女神様とやらの有難いご加護などありはしないし、女神様とやらの働きをこの身に感じたことも一切無い。
季節に関係なく発情する牝につきまとわれる日々に耐え続けて、お父様お母様、その他皆の遺志を継いで、国を再興すべく微力を尽くしていたのが、いまやこの体たらく。
皆も草葉の蔭で泣いていよう。
哀しい。
「今の私の臭いなんか嗅いだところで、汚物の臭いしかしないだろうに」
と言ってやったら、
「そうでした! 遅くなってごめんなさい! ……はい、これでいいですね!」
と女神の加護とやらの力であっさり汚れを取り除いてくれた。
珍しい。
初めてこの女が役に立った。




