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閑話 今更戻ってきて助けてくれと言ってももう遅い! 前編

たっぷりとお楽しみの後、夜更けにやっとお腹の上から降りて、荒い息を落ち着かせた金髪碧眼容姿端麗な青年が、

「ハスウィサ、お前との婚約を破棄する」

と仰った。


「ゴドウィン殿下、それはあんまりな・・」

「いいや、もう決っているのだ。 お前は聖女シルベータに繰り返し暴行を加えたそうだな。 目撃者も居る。 以前にもお前は聖女に暴行したが、父上は禁錮刑を科されたお前を放免した。 お前にはもう既に一度はチャンスをくれてやったのだ。 なのに、懲りずにまたやったそうだな。 お前には失望した。 今更チャンスをくれと言ってももう遅い! お前は国外追放処分だ!」

「…………」

「ハスウィサを逮捕し、投獄せよ! 追放は明日未明だ!」


そうして私、ベンディ伯爵二女ハスウィサ(33歳)は、暗く悪臭漂う凸凹の廊下を、むすっとした顔の物言わぬ若い兵士たちに左右から拘束され、前後も兵士に警護されて、地下牢へと連れてゆかれた。



翌早朝、汚物まみれで悪臭紛々たる私は荷馬車に放り込まれ、兵士に監視されながら国境まで連れて来られた。

そして突き飛ばされると、

「もう二度と王国に戻るなよ。戻ればヴァンタンの丘で公開処刑されるだけだ」

無表情な若い兵士はそう言い捨てて、荷車で待っている仲間の許へ戻っていった。


私は、諦めて、国境線を踏み越えて、出て行った。

ここから隣国までは、歩いてまだ二日もかかる。

この先には隣国との緩衝地帯の荒野が広がっている。

食糧も水も無しに、汚物の悪臭を振り撒きつつ、自分の足で歩いて行かねばならない。



私を追放した王国では、私が国境の線を出た途端に、阿鼻叫喚の地獄が出現した。


何故なら、死霊術の作用範囲から術者自身が出てしまったからだ。


先の大戦の後、頻発した自然災害と周辺諸国から数十年間の長きにわたり繰り返されたテロ工作により、王国では社会が機能喪失を起すほど生存者が少なくなっていたので、しかたなく私が死霊術で死者を起こして生者のふりをさせていたのに。


限り有るリソースを有効に用いるべく、死者は一度起したら後は自律的に自己メンテナンスするようにしておいた。

それでもまだ私自身の研鑽が足りないのか、ごく僅かながら術者による制御が必要な部分が残っていて、術者が居なくなると制御が完全に失われてしまい、生者を襲ってしまうことがある。

タイミング次第で必ずしもすぐにそうなるとは限らないのだが、なにしろ今回は絶対数が多い。

国民の八割は私が墓場その他から起して動かしていたのであるからして。


ちなみに私の家族では私が唯一の生存者であり、私が暮していたベンディ伯爵家の屋敷には私しか生者は居なかった。

多くの貴族は再興不能で潰れたままとなっており、僅かに生存者が居れば私が死者を起き上がらせて助けていた。

王宮はまだマシな方だったが、それでも六割が死者で賄われていた。


そこに死者の暴走が起きたのである。


私の目の前でも、荷車とともに戻っていった無表情な兵士たちが、早速近くの村からふらふら出てきた彷徨う死者に襲われて、戸惑いつつ抵抗していたが、やがて多勢に無勢で引きずり倒されて動かなくなった。


村の中から悲鳴が響いてくる。

家から走り出して逃げていた男性が、囲まれて、掴まれて、倒された。

断末魔の叫びがあがる。


犠牲者に多数の彷徨う死者の手が集中した隙に、逃げ切っていづこかへ姿を消した者もちらほら見えた。


生者を襲って貪っていた死せる村人たちは、血塗れの顔や手、衣もそのままに、私の方にも近寄ってきた。

血塗れでなければ、一見すると普通の穏やかな村人である。

ちょっと興奮している様子もあるようだが。

近くまで来て、いきなり私に掴みかかろうとして、私の目の前で急に力を失って倒れた。

もうぴくりとも動かない。

術が作用するように設定した領域から一歩でも出るとこうなる。

この場合には国境線だ。


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