第十一話 粥を食す
そのうちに、幻覚の中で、
「マリア様、どうも申しわけありません」
「いえ、かく運良く行き合わせたのも神のお導きなれば、恐縮なさらず、疾くお連れ下され」
そんな遣取りが聞えてきて、少しして俺の居る藁葺き小屋に、品の良い白装束に朱の袴姿の小柄な婆さんがやってきた。
「これ、そなた、生きておるか」
「これはまた妙痴奇厘な登場人物が、この幻覚の夢にも現れたものだ。 我が国の衣裳なのに異国の宗門の名前とは恐れ入る。 そんな下らない幻覚を観るのも、俺の愚かしさの表れなんだろうなあ」
「之は、話に伺った通り。 すっかり幻覚と思い込んでおる。 そなた、食わねば死ぬぞ。 死んでそれきりぞ。 死んでも良いのか」
「夢の中での死など、これまで味わったことの無い事だ。 この長い幻覚の中で死ねば、俺の現実に帰還できるかもしれん。 いっそ死んでみるのも一つの手かもしれん」
「これ、死ぬ前に一口喰ってみぬか。 己の舌で食物を味わってみよ。 さて、寝て喰えば喉に詰まる。 身体を起せ」
そう言うと、周囲に来ていた男たちが、俺を抱えて引起こした。
「こうなったら一つ喰ってみるとするか。 案外、リアルでも誰かが一生懸命に食わそうとしているのかもしれない」
口元に差し出された匙を一口しゃぶった。
じんわりとした滋味をたしかに感じた。
舌の裏側に入れたり、唇の方へ動かしたり、左右に揺らしたり、確かに其処に在る感じがする。
もう少し味わってみる。
旨い。
もう一口呑み込む。
呑み込む事で腸が振動し、おならが (゜∀゜ ヤア! 出たくなってきた。
ぷう~
臭い。
実に不思議にリアルな幻覚だ。
この幻覚の中で排泄する度に思う。
「腹の中まで斯くリアルに感じられる幻覚が本当に幻覚なのだろうか?」
夢の中でおしっこして、リアルでおねしょしてしまっている場合もあるから幻覚でないとは言えないが、それよりも遥かにリアルな感覚だ。
といっても、俺は幻覚性薬物を一度も試した経験が無いから、判断がつかない。
少なくとも夢ではない。
脳梗塞でも無いのかもしれない。
脳梗塞の体験を聞くと大抵は意識が無く何も覚えていないようだし。
もっとも、覚えていないだけで、意識が無い間に幻覚を見ていなかったとも断言できない。
或は、中枢神経に昏睡と同時に活発な感覚再現を齎すような何らかの物質が外部から注入されたのかもしれない。
それこそ中国産毒餃子事件みたいに。
或は……
物を腹に入れたら、飢えと空腹が収まった。
身体が温まると、痛みも和らいだ。
点滴でも打たれているのだろうか、リアルでは。
それとも毛布で包まれたりしているんだろうか。
何かしらリアルで肉体に良い作用が及ぼされたからこそ、幻覚内でもそれが反映されて、苦痛が減ったりするのであろう。




