第一話 始まり
よくあることだが
目が覚めたら、野原に寝転んでいた。
空が青く、お日様が眩しい。
……いや、そんなことがあるわけがない。
俺は、さっき眠くなってベッドにごろんと転がり込んで、夏掛け布団をかぶったんだ。それがどうして知らないうちに野原に寝っ転がってるわけがあろうか。ンなことがあるわけはない。
つまり、これは幻覚なのだ。
ヤバい。
とてもヤバイ。
原因がわからないし、凄くリアルな、ということはそれだけ強烈で強力な、幻覚だ。
チクチクするし、草の臭いが感じられる。
幻聴だけ、幻視だけ、ならまだしも、これはヤバイ。
こういう時は、頭をうっかり上げようとしてはいけない。リアルで転倒して怪我をする惧れがあるからだ。
だから、そのままじっとして、幻覚が去るのを待つ。ひたすら待とう。
それにしても、一体どうして……薬物なんだろうか、全く心当たりがない。
もしかして、麦茶に麦角菌がついていて、それでLSDの幻覚を見てるとか？
それとも、中国製毒ギョウザ事件のようなことが我が身に降りかかって、強力な幻覚作用のある毒物が混入していた食品を口にしたとか？
待つ。
ひたすら待つ。
だが、首筋を這い登ってきた蟻っぽい虫の幻覚が、耳の穴に近づいてくると、さすがにガマンできなくなって、
「うわっ」
と虫を潰して払うようにして、思わず頭を上げてしまった。まあ、腰はまだぺたっと地面についてるから、セーフだ。
野原と青空とお日様が、さっきのまま、眩しく、美しく広がっている。
素晴らしい幻覚だ。
すごい。
マジで凄い。
成程、ドラッグに手を出してはいけないわけだ。
ちゃんと理性が働いてる今の俺でさえ、うっかりするとこれが幻覚なのだということを忘れて
「これが現実！異世界転生！」
とかいいだしてハマりそうだもんな。
アヘ顔で。
怖い、怖い。
現実逃避っておっかないねえ。
でも、これは幻覚。
現実ではない。
だから、もう一度寝る。
そこにある筈の枕の上に、ちゃんと頭が降りているといいんだが、幻覚が強すぎて、わからない。
というか、体感では、首の角度からして、なんだか枕に乗ってる気がしないのだが。
残念なことになってないといいなあ。
ベッドから上半身がずり落ちて、頭をフローリングにごっつンコしていて、涎が喉に詰まって窒息しかけている、とかだったら最悪だなあ。
そうなってたら俺の人生もじきに終わるわけだが。
こうなる前に病院に行っておけば…… ノ∀`アチャー
