ニュージーランドへ
あたしが空を見上げると、飛行機が高いところを飛んでいた。あたしのために飛んでいるのだと思った。
でもそれはあたしを乗せてはいなくて、どこか知らないところへ飛んで行く。あたしは手を振って見送るけれど、きっと飛行機に乗っている誰からも見えてはいない。
「ニュージーランドへ行くのかな」
何の根拠もなく、そう思った。
どっちが南かなんてわからない。太陽の位置を見ると、ちょっと真ん中から右のほうにある。時刻は正午を過ぎたとこ。よくわからないけど、たぶん、当たってる。
あたしは制服のスカートを回して飛行機に背を向ける。きっとこっちは北だ。
ニュージーランドへ行くことはたぶん一生ないだろう。
特に好きでもないし。
ただ名前がとても新しいものを絞り出す国みたいで、ちょっといいなと思っただけ。
世界にいくつあるか知らないけどたくさんある概念の中で、今、あたしに選ばれたニュージーランド。
数瞬後には選んだことも忘れてるあたし。
世界はテキトーだ。
でも、あたしのためにあることは間違いなくて。
緑色の高いフェンスの上によじ登ると、あたしは飛んだ。
とうっ!
チェックの黄色いスカートひらめかせて。
フェンスの向こうにはだだっ広い牧草地があって、ジャージー牛がまばらに草を食べてた。この牛達も、あたしのために、ここにいてくれるんだ。
っていうか、あれ?
ここ、ニュージーランドじゃね?
いつの間にかあたしは9,300kmを飛び越えていた。