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7.いざ王都へ



 あいる・びー・ばぁあああああっく!ですわ!!



 ――え?気合い入り過ぎですって?

 入りもしますわ。

 わかってますの?とうとう王都の屋敷に移る日が来ましたのよ!?

 わたくし、必ずや二股王太子の魔の手を逃れて、ここに帰ってきてみせますわ。

 あいる・びー・ばっく!

 あいる・びー・ばぁああっくですわ!!


 ――え?アホやってないで、いい加減、破滅回避になんかやれ?


 何言ってますの?今やる事なんて、何もありませんわよ?

 ――え。改心して、好感度を上げる?

 そんな無駄な事しませんわよ。要は、一学年のうちにサクッとヒロインを片付けてしまえばいいんでしょう?


 ――暗殺者?ごろつき?犯罪者になって処刑コース(ガクブル)??


 馬鹿も休み休み言ってくださる?蝶よ花よと育てられたこのわたくしに、そんな伝手がある訳ないじゃない。

 ならどうするつもりか、ですって?


 お父様にチクりますわ。

 傘下の男爵家が、娘を使って王太子を籠絡しようとしてるってね。

 そうしたら男爵家ごと、平和に政治的に始末できますわ。

 王太子が邪魔するようなら、国王陛下にもチクりますわ。男爵家の庶子なんて、寵姫にも問題ありありですもの。王太子が入れ込んでいるなどと知ったら、寧ろ王家の方で消してくださるかもしれませんわね☆


 ――なんですって?ゲームより酷い?


 当たり前でしょう?あれはどう見てもわたくし、ヒロインに身の程を教えようとしているだけじゃなくって?


 ……まあ、排除するにも値しないと侮っていたんでしょうね。

 明確に害があると分かっているなら、話は別ですわ。きちんと対処しますわよ?

 それより問題は王太子ですわ!お父様の力じゃ駆除なんてできやしない!


 ――は?ヒロインが可哀想?


 こっちだって排除しなきゃ処刑なんですのよ!!文句ありまして!?

 そうやって安全圏から物を言われるのってムカつきますの!!

 町に降りた熊が撃たれるの可哀想とか、農作物食べる鹿が撃たれるの可哀想とか……熊に脚かじられながら言ってなきゃ、説得力ないんですのよ!!!


 ……魂は一緒なんだから、巻き添えで処刑?他人事じゃない?


 ああ、そう。

 そんなにヒロインが好きなら、ゲームの通りに処刑されないとね?

 ハッピーエンドのルートを辿れば、ヒロインと攻略対象は幸せで、ヒロインの母親が()()()助かるんですのよ?

 自分だって、保身のために人を犠牲にしようとしている自覚がおありかしらぁ?


 ――え?

 ヒロインが悪役令嬢イベントを回避し続けると、エンドで王家がオブ=ナイト家を擁護?悪役令嬢わたくしは神殿送りで済む?

 それって…………


 そのうち還俗させられて、側室にされるヤツでは?


 やっぱり王太子はわたくしの人生最大の障害てきですわぁあああああああ!!



   *



 ばあやに連れられてお庭に行くと、そこには日傘を差し掛けられたお母様と、見た事もない大きな物体が待っていました。


 ――――帆船ふねですわ。


 どっかのアニメに出てきそうな、キャラベル船のマストを取って、代わりに翼のような形で帆を左右に広げた帆船そっくりの物が、草の上に座しています。

 現物を見るのは初めてですが、帆船・空式くうしきです!

 この草原って、前世で言うヘリポートだったんですのね……。

 なんだかちょっと、わくわくしてきましたわ。


「ふふ、アリアとお出掛けなんて初めてねぇ。楽しみだわ」

「はい!わたくしもうれしいですわ」


 お母様と仲良くタラップを上がって乗り込みます。

 ……そう言えばわたくし、公爵邸から出るのは初めてですわ。

 庭も広いし、書籍と前世で外界を知っているから、失念してましたわね。いよいよ楽しくなってきましたわ!


 通されたのは、深紅のベルベッドの空間です。

 固定式のソファが二つ、向かい合う形で据えられています。その間にはやっぱり固定式の、飴色のローテーブル。

 そこここの装飾がマットな金で統一されている、華やかながらも落ち着いた、公爵家の旅にふさわしい内装ですわ。

 そして、完璧な挙措でソファに腰を下ろすお母様。

 美しい!!美しいですわ!!

 ホホホ!よろしくって、前世のわたくし?これが現世ですのよ!!


 ……あら、怯えてるの?貧乏性ねえ。


 下品だからいたしませんけど、鼻歌を歌いたいぐらいの気分で、窓から外を眺めます。

「――アリアちゃん、お座りなさい?揺れますわよ?」

「飛び立つところが見たいんですもの!ダメですの?お母さま」

「あらあら、仕方がないわねぇ」

 お母様のお許しが出たので、そのまま窓にはり付きました。


 ――魔力の高まる気配がします。

 さらさらと草が四方に揺れて、ゆっくりと帆船が浮き上がります。

 これまで過ごしてきたお屋敷の二階が見えて、屋根が見えて、屋根しか見えなくなって――草原の全体が見渡せます。反対側にある噴水や花園が見えます。お屋敷を囲う木立が、塀が、一目で見通せます。

 公爵邸の上空に展開する結界が、開門します。

 結界が閉じると、すべてが白く覆われて見えなくなってしまいましたわ。でも、更に上っていくと、そこにオブ=ナイト公爵家の紋章が描かれているのがわかりました。

 ……まだ上がるんですの?

 なんか、ちょっと、ガタガタするような……。


 は、速いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?怖い怖い怖い!!


 お、落ち着きなさい!わたくし!

 こういう時こそ前世を思い出すのよ!色んな高速の乗り物があったでしょう!!


 自転車?自動車?高速バス?急行列車?新幹線?

 いいえ、これは――飛行機!!

 離陸直後の、ベルトしてなきゃいけない時間の感じですわ!!


 ……って、なんで乗り慣れてないんですのぉ!?


 乗ったのは数える程?

 確か三回目の着陸時、気流が安定してなくてめっちゃグラグラして墜ちるかと思ったのにやり直しで滞空時間が伸びたのが恐怖体験……。


 そんな記憶いりませんわぁああああ!!


 いやぁあああああああっ!!余計に怖いぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!


「ばあやっ!ばぁあやぁっ……!!」

「はいはい、どうされました!?」

 役立たずの前世に見切りをつけて、困った時のばあやを呼びました。

 控えの間から飛び込んできたばあやが、腰を抜かしていたわたくしを抱きかかえてソファに座ります。


「大丈夫でございますよ、お嬢様。ばあやがついておりますからねぇ」

「うぅ~~……」


「……あらまあ」


 お母様が、若干ひいたお顔で目を逸らします。

 ええ。わたくし涙でぐちゃぐちゃですわね。お見苦しいものをお見せして申し訳ありませんわ。

 ばあやが頭を撫で付けてくれるので、遠慮なく胸に顔を埋めます。

 ええ。涙でぐちゃんぐちゃんですけども。


 やっぱり、おむつの世話からしてきたばあやは何でもありさいきょーですわ。


 ――え?なんでお前はそうなんだ?

 なんの話ですの?



   *



 気流に乗ってからは帆船も安定して、そこそこ快適な空の旅となりました。

 降りる時はまた恐怖体験でしたけど、わたくし学習しましたので、ばあやに抱っこされてやり過ごしましたわ。

 可愛いお顔で到着でしてよ!


「ようこそ、地上へ。我が美しき女神」


 優雅にタラップを降りるお母様に、待ち受けていたお父様が手を差し出します。

 お母様は、微笑んでそのエスコートを受けました。


「私の天使もよく来てくれたね。初めての旅はどうだった?」

「快適でしたわ」


 ちらりとこちらにも顔を向けてくださるお父様に、にっこり笑って返します。


 ……怖くて泣いたとか、言う訳ないじゃありませんの。


 ばあやがわたくしに手を差し延べるため、一足先に降りようとした、その時。

 お父様とお母様が移動して空いたその空間に、お父様の陰から現れた小さな人影が立ちました。そして先程のお父様同様、わたくしに対して手を差し出します。

 わたくし、思わずぽかんとして、棒立ちになってしまいました。


「……おや?どうした?そんな顔をして」


 ()()()は紳士めかした顔で、にっこりと邪悪に笑います。


「お兄様の顔を忘れてしまったのかい?僕のかわいい妹」


「…………ほほ。とんでもありませんわ゛」



 忘れてましたわぁぁああああああああああああああああああああ!!

一難去ってまた一難。

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