50.ロイヤルファミリーとまったり?後編
――――えーと。信じ難い事ですが。
“星花”では王女として攻略対象のチャラ男の婚約者を勤めていらした筈の姉姫が。
母君の生家ノットゥルナ侯爵家の養女にされた挙句に、侯爵令嬢としてうちのお兄様の婚約者となったらどうかというお話が。
父君である国王陛下から齎されました……。
そして、養子公爵のお父様を常に立てているお母様が、自ら陛下と対峙していらっしゃいます。
確かに、お父様では二つ返事してしまいそうですけれど!
これは一体何事!?
そして、わたくしや王太子がいるこの場で、これ以上続ける必要あります!!?
わたくしの心の悲鳴は不幸にも届かず。静かに陛下と睨み合っていたお母様が、お口を開きます。
「我らが偉大なる国王陛下?実の父が国王であり、実の母が王妃であり、“神の兄弟”として我らが崇めてきた御方を、ただ籍を書き換えただけで一介の侯爵令嬢として扱えると、そうお思いですの?」
お母様がお怒りですぅう゛う゛う゛う゛う゛!!
「わたくしどもの信仰を“神の兄弟”御自らが粗略に扱うなど、甘受できませんわ」
「ならば何とする」
もしや、陛下もお怒りです!?
「アリア嬢は返さぬぞ。そもそも、夜の公爵家には次男すらいないのだから、早く子を成すべきであろう。それが婚約から三年、懐妊の報せすらない。どうなっているのだ」
ハラスメントぁああああああああ!?
陛下!!それ、日本では言っちゃいけない奴ですわ!!
「キリエ・イントロイトゥスよ。オブ=ナイト公爵家の使命を忘れたか」
え?使命??
――知りませんわよ!あなたこそ、何か知りませんの?
戸惑うわたくし(達)を余所に、お母様は毅然とお答えになります。
「無論、肝に命じておりますわ」
「ならば一人でも多くの子を成せ。光属性の公爵家を、ヴォルフガングから絶やしてはならぬ」
ええぇえ!?
何ですのそれ!何かファンタジーの王道的秘密が、我が家に隠されておりましたの!?
そう!わたくし、やっぱり選ばれし存在ですのね!!
――え?
……そうですわね。“星花”のハッピーエンドでは、他ならぬ王家のご決断で、オブ=ナイト公爵家全員処刑でしたわね。
しかも、わたくしの生死の分かれ目が、底辺ヒロインをいじめたかいじめていないか……。
どうせ、陛下のご都合でどうにでもなる政治的使命ですわ。フン。
「陛下。ご心配なさらずとも、当家には立派な跡継ぎがおりますわ?」
「先々代はそなた一人しか遺せず、先代に至っては子を成せぬまま早世したではないか。そなたが産まぬと言うのであれば、ジュピターの婚儀を急げ。妻は何人でも構わん。第一夫人など、後から決めればよい」
なるほど。それで、お体が出来上がっていらっしゃる姉姫を推してこられたと。
外道か!!!
――え?違いますわよ。
第二以下の夫人は、必要に応じて後から求められるものですの。のっけから正当なる夫人を定めずに重婚なんて、あり得ませんわ。
うふふ。そこまでして産めよ増やせよとか、陛下ったら、ブリーダーみたい☆
――は?血統だけで偉い貴族なんて、そもそも血統書つきの犬猫と変わらない!?ですって!!?
冗談じゃあありませんわ!!!
本当に血筋だけのペットと、その血で派閥と領民、何千人もの名誉と生活を背負って立つわたくしを、一緒にしないでくださる!!?
「陛下、それはさすがに……」
「夜の公爵家のみの特例だ。他に影響ないよう計らおう」
お父様までお口を出しますが、陛下は有無を言わせない構えでいらっしゃいます。
……王太子は困ったお顔でちらちらこちらを見るんじゃあありません。わたくしだって何が何やらわかりませんわよ!
子供が口を出せる領域ではないのか、当事者であるお兄様さえ黙っております。
張り付けた笑顔が引き攣っていらっしゃるので、“公認ハーレムだぜ☆”とか考えているのではなさそうですけれど。
まあ、一応乙女ゲームの攻略対象は、ヒロイン一筋と相場が決まって…………。
あら?
そう言えばお兄様のルートって、恋が成就すると、公爵家嫡男でありながら何故か男爵家の跡取り娘と結婚なさる、超展開でしたわね。
……通い婚?
もしや、公爵家には正当なる夫人が―――。
バッドエンドじゃあありませんの!!
「……ジュピターの婚儀は急ぎましょう。アリアの婚約解消も、決して求めません。当家にはシカネダアの姉妹がついております事をお忘れなく」
癒し系乙女ゲームの恐るべき真相に目眩を覚えていると、なんか流れ弾が着弾しました。
お母様!?わたくしの婚約解消は、機を見て求めてくださってよろしいのではありませんこと!?
いえ、待って。
コルプス公爵家との縁を……という先程の話からすると、次の婚約者候補は、コルプスの医学オタク攻略対象??
……悪役令嬢設定ぇえええええええ!!
ちょっと、庶民女!!あなた達、どこまでわたくしの人生を邪魔しますの!?
「ほう、分家を頼るか。そなた達は折り合いが悪いと思ったがな」
「我らの血の存続には代えられませんわ。ですから、どうか第一王女殿下には、“神の兄弟”として相応しいご縁を。……ねえ、旦那様?」
「陛下、妻の言う通りにございます。オブ=ナイト公爵家当主の名に懸けて。オブ=ナイト公爵家の存続と、王家への変わらぬ忠誠を、ここに誓います」
――享年二十五歳の直感!
お父様、そのちょっと嬉しそうな無駄な力み……“存続”に向けて励むおつもりですわね!?
男ってさいてー。ですわ。
わたくしは内心引きますが、陛下は少しく苦笑されまして。
「そうか……。ならばよい。この話はここまでとしよう」
杯に口を付けられた陛下に、ようやくほっとした空気が流れたのですが。
「長生きしてくれ、夜の一族。アリア嬢は返せぬが……世継ぎ以外の子に関しては、こちらも配慮しよう」
がふっ!!
だ、だから何故わたくしに流れ弾……!というか、七つになったばかりの息子とまだ六歳の子供になんという話題を振ってくださいますのぉ!!?
こういう話は余所でやってくださいまし!!!
*
「それでは、殿下。これにてお暇させていただきます。尊き王太子殿下に、よき朝がありますように」
お酒の入った大人が、ご機嫌にぐたぐた盛り上がっていらしたお陰で、すっかり夜が更けてしまいましたけれど。
何故か馬車の乗り場までお見送りにいらした王太子に、改めて礼を取ります。
「……“クァルテット”」
ぶすっとした口調に顔を上げると、まんまの表情の王太子が口を尖らせております。
「わたしももう七歳だぞ。そろそろ名前で呼んでもいいだろう…………アリア」
うへぇ。
照れ臭そうにそっぽを向いて初めての呼び方をなさる王太子に、わたくしげんなりです。
これ以上、疲れさせないでくださらないかしら。
「畏れ多い事ですわ。どのような間柄でも、礼儀は必要とぞんじましてよ」
「それは公式の場の話だろう。父上だって、私的な場ではわたしを名前で呼ぶぞ?」
笑顔でかわしたつもりが、即座に追撃を食らいました。
しかし!まだ甘いですの!!
「国王陛下なればこそ、ですわ」
王太子のお顔が大変面白い事になっておりますが、正論で勝利!!ですわ☆
――え?クァル様が可哀想?
知・り・ま・せ~ん☆
「……わかった。だが、忘れるな。そなたには、わたしを名前で呼ぶけんりがあるのだぞ」
権利って、権利放棄もできましたわよねぇ。
……とか、上の空だったのがいけなかったのでしょうか。
不意に引っ張られたと思ったら、ほっぺに変な感触がありまして。
「おやすみ、わたしの妃。よい朝を」
目の前には、勝ち誇った笑顔の王太子。
いや、歯抜けだけど。
わたくしも、歯抜けだけども。
思わずホワイトアウトしていると、侍従がさり気なくわたくしを馬車に押し込みまして。
扉が閉まった瞬間、わたくしは両手両膝を床につきました。
……星空の下、お城を背景に、ほっぺに、ちゅー。
これもう絶対に悪役令嬢溺愛物ですわぁああああああああ!!
どうしましょう。これ、ヒロインや乙女ゲームのスチルを粉砕するだけではどうにもならないかもしれませんわ。
と、とりあえず縦ロール!!縦ロールをもっとしっかり巻きましょう!!
――え?意味不明ですって?
悪役令嬢溺愛物と言えば、縦ロールを解いてイメチェンが王道でしょう!これ即ち、本物令嬢のアイデンティティー!!
それに、考えてもみなさい!
攻略対象がヒロインとか溺愛令嬢の髪を一房すくい上げて口付けとかする、ありがちシーン!!
あれを一房のドリルでやったらギャグシーンですわ!!
ふふ。ねばーぎぶあっぷ……ねばーぎぶあっぷですのよ……。
わたくしが不屈の闘志を燃やしていると、ガタガタと音を立てて、馬車が走り始めます。
ともあれ席に座ろうと、ふらりと顔を上げたところ。そこに誰かさんの足がありました。
「――え?」
「や☆」
爽やかな笑顔で手を上げたのは、お兄様です。
ええ。今年は一人一台、別の馬車に乗っている筈のお兄様です。
「お兄さま、何故わたくしの馬車に……」
「うん。アリアならわかってくれると思うんだけど、今日は僕もうストレスが貯まってストレスが貯まって……ねえ」
ひいっ!満面の笑み!!
「かわいいアリア☆慰めて☆」
………こうしてわたくしは、王太子七歳の生誕祭の夜、お兄様と二人仲良く帰りました。
え?コブラツイスト?ギブ連呼?
してませんわ。わたくしは、ねばーぎぶあっぷですので。
していないったらないのです!!
エンドレス追い討ち。




