49.ロイヤルファミリーとまったり?前編
終わらないので、分けました。
………ねえ、何故こんな事になっているのかしら?
王太子の生誕祭が無事終わり、王宮に用意されているオブ=ナイト公爵家の控室にて、ゆったりまったり渋滞の解消を待つ筈が。
オブ=ナイト公爵家一同。王族の休憩室にご招待され、国王陛下、王太子、更には正妃殿下に姉姫にセレナータ妃までお揃いになったカオス空間にて、お茶を振る舞われております。いえ、大人はお酒ですけれど。
……打ち上げ?
これは、前世で言うところの打ち上げでして?
「どうした?疲れたのか?」
ええ、疲れております。大変疲れております。そして、更なる精神的疲労が現在進行形で募っております。
とか何とか、隣でにっこにこの王太子にぶっちゃけてやれたら、どんなによろしいでしょうか。
「……ほほ。とんでもありませんわ。殿下こそ、あれほどの儀式をこなされて、お疲れではございませんの?」
「わたしは大丈夫だ!」
胸を張る王太子にちょっとイラっとします。
――え?こんなに気遣ってくれているのに?
わたくしの心労の半分は、この頭ネジ飛び王太子に隣の席へ引っ張ってこられた所為ですわよ!!!
周りがこの顔ぶれでは、さすがに正面切って王太子に注意する訳にもいかないのですけれど。
公爵令嬢のわたくしが、国王陛下の側室第一位のセレナータ妃より上座って、どう考えてもおかしいでしょう!?
まあ、婚約者の公爵令嬢を差し置いて、男爵家の庶子をエスコートするような方に育つ攻略対象ですし?この程度のマナー違反は基本スペックなのですかしらぁ??
「あの……殿下?わたくし、そろそろ自分の席に着きたいのですが」
「ここでいいだろう。それより、いつまで“殿下”と呼ぶつもりだ?」
よくないですし。“それより”とか流していい事じゃあありませんわよ。
……ここで叱責なさるべき方々は、皆様沈黙していらっしゃいます。
国王陛下は面白そうに見守っていらっしゃいますし。正妃殿下は、能面のようなお顔でじっとこちらを見ていらっしゃいますし(怖い)。このお二方が何もおっしゃらない所為で、姉姫も、セレナータ妃も、口を出せないご様子ですの。
お兄様の下座に逃げたいと、お父様に目で訴えようとしましたら。
お母様の笑顔が“王族に恥をかかせるな”と、無言の圧力を掛けてきました。
……お兄様。笑みを深め過ぎです。頭の後ろで口の両端がくっついていませんか?
こんな環境だから、攻略対象に育つんですのよぉおおおお……!!
――え?乙女ゲームよりも、転生悪役令嬢溺愛物の世界説が濃厚じゃあなかったのかって?
だから何ですの!!?
相手が“星花”のヒロインから悪役令嬢に変わっただけで、結局王太子は攻略対象思考ゴーイング非常識ウェイのままじゃあありませんの!!
それもこれも、あなた達が“如何に常識を捨てられるか”で愛を計っている所為ですわ!
日常を考えたら、“如何にマナーを守れるか”の方がよっぽど愛に決まっているじゃあありませんの!!お馬鹿!!
「ここは私的な場だ。気にするな、アリア嬢。我らの後継が睦まじくて、何よりだ」
……陛下が、実にいい笑顔でトドメを刺してくださいました。
この配置、決定です。
わたくしが口から出かかる色々諸々を必死に飲み込んでいると、正妃殿下が、すうっと立ち上がられました。
「――陛下。わたくし、気分が優れないので、退室させていただきます」
抑揚のないお声に、王太子が青褪めます。
ええ。以前に聞いたお話からすると、セレナータ妃親子と同席とか、内心怒り狂っていらしてもおかしくありません。自分だけはしゃいでいたとか、気まずいでしょう。
……まあ、子供にそんな気を遣わせる親もどうかと思いますけれど。
“神の兄弟”である第一王女を、正妃より下座に配してごまかしたつもりの国王陛下?
あなた様の事も申し上げているのですわよ?
「パルティータ」
わたくしの非難を知ってか知らずか、陛下はゆったりと微笑みます。
「私の隣を譲るのか?」
愛されて当然ですか!!!
その背中を見て、王太子が“星花”の王太子に育ったのだと理解しましたわよ!
正妃殿下がお使いの扇子が、小さく軋みます。
王家の修羅場アゲインを予想しましたが、正妃殿下ご自身は何もおっしゃる事なく、そのまま身を翻して部屋を出て行かれました。
「父上」
「怒るな、クァルテット。理由はある」
そういう問題じゃねえ。
子供に気を回させる親に呆れ果てるわたくしですが、次の瞬間、ホラーな事に陛下の視線がこちらに移りました。
「アリア嬢、そなたの活躍は私も耳にしている。頼もしい事だ」
「ほほ、勿体ないお言葉ですわ……」
何でしょう。何をお耳に入れられたのでしょう。
――え?フィガロをひっぱたいた事?
それでは嫌味じゃあありませんの!セレナータ妃に叱られた行動なのを忘れまして!?
……わたくしは悪くありませんけれど!
「子供ばかりの茶会で、見事に場を取り成し、収めてみせたそうだな。既に三大公爵家きっての令嬢だと、皆感心しておるぞ?」
オーッホッホッホッホ!
それほどでもありましてよ!まあ、比較対象に若干問題がありますけれどね?
「お褒めにあずかり、きょうしゅくです。わたくしは当然の事をしたまでですわ」
「うむ。これからも期待しているぞ」
満足なさる陛下に、満足するわたくし。
まあ、実際わたくしが唯一の本家の娘だから、当然と言えば当然ですのよね。
それでは片付けられない年齢差ですけれど☆
「まあ、コルプスの事は諦めろ。あれは女に甘える事しか知らん。――成人して尚そういった性格なら、見込みはない」
お゛う゛。
ステラ・トゥインクルの将来性、ばっさり全否定です。これはお兄様の婚約解消、待ったなしでして?
困ってお母様を見ると、艶やかな唇が、くすりとお笑いになります。
「否定できませんわね。あちらの一族は、女性とは“お姫様”であり、“母”であるというお考えのようでしたわ。余程ご本人がしっかりしていないと、セレナータ妃のようにはなれませんわね」
「身内としては恥ずかしい話ですが、確かに」
一見なごやかに笑みを交わす、お母様と妃殿下ですが。
わたくしは冷や汗だらだらです。
話を振る相手を間違えました!!!
――え?何の話かって?
「そうだな。国としては、あの男がそなたの婿となるのが最適解であった」
「あらあら。うふふ」
陛下ぁ!!!
……そうですわよ。お母様の“お友達”を妊娠させて平民落ちした、お母様の元婚約者。彼は、コルプス派もコルプス派。当時のコルプス公爵家次男。
つまり、宰相の実弟ですの。
一時はその下の弟という代替案も出ましたが、婚約者解消の経緯が経緯なだけに、お母様とお父様の結婚が許されたのだとか。
ええ。それで良かったと思います。
でないと三男も……(ガクブル)。
――え?
ええ、そうですわ。その代わりの縁をコルプスと結ぶ為に、お兄様とステラ・トゥインクルの婚約がありますの。
でなければ、あのお茶会の時点で切られておりますわ。
まあ、あれを理由にすると、ミサのレヴィン侯爵令嬢も選び辛いという事情もありますけれど。
「中々難しいお話ですね。次期オブ=ナイト公爵夫人の格をこれ以上下げる訳には参りませんが、当家にも、代わりにコルプスに嫁ぐ娘がおりませんから……」
「何!?」
お父様のお話の途中で、関係もないのに騒ぎ出したのは王太子です。
「“コルプスに嫁ぐ”とは何だ!?アリア・クインはわたしの妃だぞ!?」
「勿論です、殿下。アリアには妹がおりませんので、コルプスとの縁は、息子に繋いでもらうより他ないというお話でして……」
「その事だ」
唐突にぶった切ったのは、国王陛下です。
親子揃って、お父様の台詞を途中で遮るのが趣味ですか?
「コルプスに、ステラ嬢よりも高貴な令嬢が現れればよい。そうであろう?」
「それは……宰相閣下に、縁談があったので?」
「夜の令息は今年で十三。産まれるかもわからぬ令嬢を待てというのも酷であろう」
笑った陛下がちらりとご覧になった方は………オイ。
ま さ か。
ぎこちなくそちらを振り返ると、お父様からはお顔が隠れるように扇子を離した姉姫が、諦め切った表情でわたくしに微笑みます。
その隣のセレナータ妃は、いつも通りの冷厳な表情……と見せかけて、眉間に一本皺が入っていらっしゃいますの。
……まさかの姉姫とお兄様の縁談が、陛下から持ち込まれました!?
「恐れながら、陛下?これ以上、王家と当家の結び付きが強くなる事は、他家が黙ってはいないのではありませんの?」
ほんのりと笑みを浮かべたお母様が、珍しくお父様を押し退けて口火を切られます。
明らかに只事ではありませんが、陛下は泰然そのもので笑みを返されました。
「なに、“ノットゥルナ侯爵令嬢”との縁であれば問題なかろう?」
「まあ、驚きましたわ。遂に決断なさったのですね」
「セレナータは返せんがな。養子に取らせる」
……陛下、姉姫になにか恨みでも?
「落ち着いてくださいませ、陛下。お気を確かに」
「キリエ」
「あなた?わたくし、とても大事な事を申し上げておりますのよ?」
些か毒が過ぎるお母様のおっしゃりようにお父様がストップを掛けますが、真正面からお母様の圧迫を受けて、見事撃沈です。
………ねえ。わたくし、もう帰ってよろしいですかしら。
生誕祭だけでもくたくたですのに!!
どうしていつもいつも誰も彼も!王家の黒い部分を見せつけてくるんですのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
一瞬たりともまったりしてない。




