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異世界転生ですって?馬鹿馬鹿しいですわ!  作者: 細蟹かなめ
悪役令嬢溺愛物疑惑☆編
55/70

40.通信魔法のお勉強?前編

長くなったので、前後編に分けます。



 ―――本日は、通信魔法の授業です!



 これも王妃教育の一環という事で、王宮にて、王太子との合同授業となりました。


 ええ。この世界の魔法は生活に根差したものですし?誰にでも教えられるものですから、これまでは教え上手なシュタードラー先生に見ていただいて、それでよいというお話だったのですけれど。


 何事にも、一つ上の技術というものがあります。

 通信魔法も、それ。

 ただ風を発生させるだけの風魔法と、風を使って音声を伝達する通信魔法では、難易度が異なりますの。

 ですが、緊急連絡手段として、王太子妃ともなれば必修科目。

 まあ、これは高位貴族全体に言える事で、使えるに越した事はありません。実は、シュタードラー先生も普通に授業できるのですが、精度が高い方が良いのと……その…………。


 魔法の波長が合った方が通信し易いので、どうしても王太子と一緒に習わせたいそうです。


 イヤですわ。

 緊急連絡先第一位が王太子だなんて……。


 その上、わたくしが釈然としない事がもう一つ。

 どのような機密があるのかわかりませんが、今日の授業では、我が家からの付き添いが退けられまして。

 なんと、セレナータ妃殿下が付き添いです。


 理解できませんわ!



 ――え?何がわからないのかがわからない?


 この国のマナーでは、貴族が異性と二人きりになるのはアウトですの。

 例外は、親兄弟と、夫婦のみ。直系の祖父母と孫はまだ許容範囲ですが、傍系の叔父叔母従兄弟となると、余程の事情がない限り眉を顰められます。

 それに対応するマナーは、男性に関しては、貴族として認められている人間がもう一人いれば問題ありません。既婚女性は、貴族として認められている女性がもう一人いれば大丈夫ですの。

 しかし、令嬢に関してはかなり厳格で、同席者は、令嬢の保護者となり得る貴族でなければなりません。

 基本は親兄弟。

 それが難しい場合は、家庭教師。

 それも難しい場合は、親戚の既婚女性。

 何某かの事情で血縁も教師も持たない令嬢であれば、その後見人か、後見人の親類筋の既婚女性。


 そう!親類でもない令嬢の付き添いが国王陛下の側室第一位とか、とんでもない異常事態ですの!!


 国家機密を守る為にしても、まるでセレナータ妃がわたくしの後見になったかのような構図です。



「……公爵家のれいじょうだの、客人だの言っていたくせに、あいつ……!!」



 ぶつくさ王太子が、わたくしの手を掴んで離さなくなっちゃったんですけど。

 どーしてくれるんですの?これ。


 ええ。どうするつもりもなさそうに、部屋の隅で報告書(らしき物)片手に見学モードですわね。

 なんてマイペース!!


 こうして、極めて空気の悪い中、通信魔法の授業が始まりました。



   *



「――通信魔法の習得には、凡そ三年掛かると言われています。本日はまず、その原理と、必要な技術についてお話しましょう」


 のっけから考えられない数字が出てきましたわね。

 魔力なんて自由自在に使える物なのに、習得に三年ですって?


「原理としては単純で、相手の所まで魔力を飛ばし、風を発生させ、自分の口元に発生させた風と共鳴させる――それだけです。すると、微細な風の振動である“音声”を、離れた相手の元で再現する事ができるのです」


 ……ふぅん?


「先生」

「はい、オブ=ナイト公爵令嬢」

「何故、わざわざ離れたところに風を作って、共鳴させますの?風で、声をそのまま届ければよろしいのではなくて?」


 小首を傾げるわたくしに、教師は微笑ましいものを見るお顔です。


「そうですね。その方が簡単なので、場合によっては、そちらを使うべきです。実際に使うと――このようになりますが」


 拡声器!?

 いきなり拡大した教師の声が、部屋に響きます。


「風を広げた範囲内の人間全てに声が届きますので、演説などでよく使われています。相手を定めず助けを求める場合も有効でしょう」


 わかったから止めてください。うるさいですわ。

 心の声が届いた訳でもないでしょうが、教師がぱちんと指を鳴らして、魔力を霧散させます。


「ただ……これは、壁などで風が遮られると聞き取れなくなってしまいます。隙間風にしてまた拡大する事は、技術的には可能ですが、音声の細部があやふやとなり、言葉として伝わらなくなります」


 同じ空間にいないと、意味不明な大声になるだけって事ですわね。


「よって、これは付近に護衛などがいない場合――具体的には、誘拐されてしまったケースでは、効果がありません。……尤も、お二方の警護を物ともせず攫う程の相手となると、通信魔法も警戒しているでしょうから、口元に魔力を展開させた時点で口を塞がれますがね」


 ……は?


 いきなり目的を足蹴にする物言いに、王太子も不信感を露にします。


「おい。じゃあ何の為に習うんだ」

「いやぁまあ、奥の手として?うまく相手を油断させつつ、見張りの目を掻い潜って使ってください?あはははは」


「――プラハ教授?」


 ひんやりとした妃殿下の呼び掛けに、教師が凍り付きます。


「いや、だって。実際に誘拐犯に囲まれた状態で助けを求めるとか、危ないでしょう?私はただ、お二方の安全を思って……」

「無駄話はやめて、授業を進めなさい」

「ハイ」


 やっぱりカッコいい妃殿下に、首を縮めた教師(?)が、いそいそとこちらに向き直ります。


「えー……ともかく、通信魔法とは、会話を主目的としたものです。日常に於いても、遠距離通話や、礼儀を守った耳打ちが可能となるものですので、是非マスターしてください」


 教師としての体裁を立て直したのは幸いですが、言っている事がちょっとわかりません。


「礼儀を守った耳打ち……でして?」

「ええ。通信魔法の音声は、相手の耳元と、自分の口元だけで発するものです。間にいる人間には一切聞き取れません。よって周囲に聞かせたくない指摘――具体的には、式典の只中、お年を召した未来の王太子殿下のお髪が乱れている時。妃となった公爵令嬢は、姿勢を保ち、かつ誰にも聞かれる事なく、“かつらがずれていますよ”と指摘できるのです」


「僕は、かつらになんかならないぞぉ!!!」


 何故これを、教師役に選んだのかしら……。

 一応、王宮お抱え魔術師の一人らしいですけれど、他に適任はいませんでしたの?


 ――え?イケメンだから良し?目の保養?

 お黙り。面食い無節操女。


「何をおっしゃるのですか殿下!男というものは、年を取れば須くハゲるのです。我々に出来るのは選ぶ事。ずれる恥を圧してかつらを被るか、それとも永らえた勲章として輝かせるか!それが男気というものです!!」

「そうなのか……!?」


 まだふさふさの若者が何を言っているのでしょうか。


 そして王太子!ちょろ過ぎましてよ!?


「……プラハ教授。授業。」


 うわあ。

 セレナータ妃のこめかみに、血管がぷっくり。


「ハイでは実際に必要となる技術についてご説明いたしましょう!」


 ……声が裏返ってますわよ。


「使う順で申しますと、まずは魔力の“長距離放出”です。個人差は大きいですが、公爵家以上の方の平均的な魔力量ですと、全周囲放射で王都全体。指向性を持たせれば、大体次の辺りまで飛ばす事が出来ます」


 黒板に記されていくのは、どれも王都に近い町の名前ですが……間に森とかありませんでしたっけ?


「そんなに?」

「ええ。相手の片耳を覆う量が届けば十分ですので。……尤も、認識できないと制御できないので、通信以外には使い道がありませんが」


「……師よ。通信なら、遠くの魔力でも認識できるのか?」


 不思議そうな王太子に教師が、いい質問ですと頷きます。


「通信用の魔力を放出する時、同時に行うのが、“波長調整”です。通話したい相手の魔力に合わせて、波長を変えるのです。この、相手用に調整した魔力が、相手の魔力にぶつかった時――双方の魔力を、はっきりと感じ取る事が出来るのです」


 暗闇に石を投げて、壁や床に当たったら音がするようなものなのだそうです。


「そうして存在を把握したら、当該地点に魔力を収束。口元にも同じ波長の風を“二点同時展開”――これで、通話の準備が完了となります。同時展開が成功すれば共鳴は自然と起きますので、後は風を保ちつつ、口元の風に音声を“伝達”。これにより、通話が成ります」


 ……うーん。やっぱり人選ミスじゃあありません?


 真面目に話し始めたら始めたで、マニアっぽく堅苦しい言葉並べちゃって。

 わたくしは翻訳記憶力のお陰で理解できますけど、六歳相手の授業がこれって、どうなんですの?


 そう思って生粋の六歳児を横目で窺うと、少し眉を険しくしつつ、意外にも聞き入っているご様子です。


 ……もしかして王太子って、わたくしよりお勉強できます?


 イヤですわ。阿呆の癖に!

何をしても評価が上がらない王太子。

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