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異世界転生ですって?馬鹿馬鹿しいですわ!  作者: 細蟹かなめ
ヴォルフガング王家はどーろどろ?編
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34.愛のこもったプレゼント?



 …………あ~あ。どうにか自由になる道ってないですかしら?



 ――え?いい加減諦めろ?


 イヤですわ。王家に飼殺しにされる未来なんて、まっぴら御免です!

 あまり外聞の宜しくないお話を聞かされてしまったとは言え、別に国家機密に触れた訳ではありませんし。王家の意向を無視して電撃結婚やらかさない限り、まだ貴族夫人として生き長らえる目はあるはずですわ。

 王家にとっても、わたくしが他家に嫁ぐ方がいい……。

 そうね。王太子とその正妃になる姫がバカップルになって、子宝にも恵まれ、下手に側室を入れて波風立てるな!的な空気に持って行く――とかですかしら。


 ――え?それなら素直にヒロインを応援して、お助けキャラにジョブチェンジすればいい?


 イヤですわ。


 ――え。お助けキャラにもハイスペックな恋人が涌いて、幸せになるのがお約束?


 イ……イヤったら、イヤです!!


 だって、ヒロインムカつきますの!!

 色々苦労とか事情とのかあるのはわかりましたけど!それにしたって、なんですの、あの態度!!

 何かと言うと「貴族だからって、そんなのおかしいです!」!?

 攻略対象ども!!「お前の常識を押し付けるな」って。その言葉、そっくりそのままヒロインにお返ししますわ!!

 貴族学園で、男爵令嬢きぞくに、貴族の振る舞いを求めて、何が悪いんですの?

 平民育ちだからって、こちらに学んで馴染もうとする努力くらい出来るでしょう?何故に、ゴーイング平民マイウェイの挙句にこちらを批判!?

 クズ男爵をどれだけ恨んでいるのか知りませんけれどね!それで、学園の規律を乱すのは八つ当たりでしょう!!?

 こちらを引っ掻き回しておいて、被害者面するんじゃあありませんわよ!!!


 ……なんですって?

 言ってる事は尤もらしいけど、八つ当たり常習犯が言うな??


 うるさいですわよ。



 丁度、庶民女を黙らせたタイミングで、メイクルームの扉がノックされます。


「――お嬢様。“支度が終わり次第、庭に来るように”と、ご主人様が」


 お母様からのお呼び出しです。

 念の為、ドレスを整えているメイドに目を遣ると、こくりと頷きます。


「すぐに行きますわ」



   *



 お庭を吹き抜けた風に、深紅のリボンで飾った、白いつば広帽子ピクチャーハットが煽られます。


 ……歩きにくぅい!


 軽く風魔法を使って周りを安定させながら、林立するテーブルの間を更に動き回る使用人の間を抜けて、お母様を探します。

 「邪魔だから全員どきなさいっ!」とか言いたいところですけれどね。我慢しますわよ?

 お茶会の準備に、皆忙しい最中ですもの。


 どう?この気遣い!


 ――え?常識?

 わたくしまだ六歳でしてよ!?偉いでしょう!?


 本日は、お母様主催のお茶会です!

 わたくしの出席は、初です。お披露目会から随分経ちますのに。オブ=ナイト公爵家ともなると、お誘いが多くて、中々開けないものなのですわねぇ。

 そして!

 わたくし、この日を待ち望んでおりました。

 お茶会には、“主催より目立つ格好をしない”という不文律があります。

 無論、格上の客が目立つのは仕方ありませんし、衣装の質を落とす事はありません。

 ええ。()()服を着るのは構わないんですの。

 ただ、色や形は、大人しい物にするのがマナー。

 わたくし好みのドレスは、派手だからと、お母様ストップが掛かります。

 そして、週一ペースの王妃教育もまた、勉強会らしい控えめな服装……。


 わたくしお気に入りの深紅のドレスが、部屋着と化している事実!!


 ああ。早く成人して、夜会でがっつり着飾れる身になりたいですわぁ。


 まあ、そちらはまだ遠い未来のお話ですけれど。

 今日は特別です!

 だってわたくし、主催者の娘。当家を訪れる客が、気兼ねなく華やかな装いを楽しめるよう、盛装するのが礼儀というもの!

 お母様オッケー、出ました☆

 純白のふんわりとしたプリンセスラインに、真っ赤な蝶結びのリボンを飾った、六歳美幼女だから許される、お子様全開ドレスです!!



 ……………。



 わたくしが求めていたのは、これじゃないですわぁ……。


 それもこれも、お兄様の所為ですわ!!

 お母様は最初、わたくしの好きに作っていいとおっしゃっていたのに!

 相変わらず、公爵令息として非常識にも仕立屋との打ち合わせに混ざってきたお兄様が、余計な事を言いやがりまして!!


「――アリアももう六歳なんだし、今しか着られない、子供らしいドレスにしてみたら?」


 その瞬間、お母様のわたくしを見る目が、着せ替え人形を見る目に変わりました……。


 ……いいですわ。

 それなりに似合ってますし?今しか着られない物をというのも、一理ありますし?

 ええ。ベルベット調の深紅のリボンが、意外と大人っぽさを備えているので、まあ素敵だと思いますわ。


 ――え?


 うるさいですわよ!!

 お母様が手ずからデザインしてくださったドレスに、文句を言える訳がないでしょう!!?



「お母さま!ただいま参りましたわ」


「……あらあら。アリアちゃん?このくらいの風で魔力を使っていると、また倒れるわよ?」


 苦笑なさるお母様の姿に、わたくし雷に打たれました。

 赤いつば広帽子ピクチャーハットに、純白のリボン。落ち着いた深紅のプリンセスラインは、前が割れて。袖口と高い襟にはレースがあしらわれて。それぞれ白が覗いています。

 そう……わたくしと、配色をひっくり返した感じで。


 こ、これは、夢の親子コーデですの!!?


 お母様は普段、空色や紫の寒色を好まれているので、赤を纏っているのを見るのは初めてかもしれません。

 感激です。文句を言ってすみませんでした。

 今日は親子コーデ記念日です!!


「さあ、お客様をお迎えしましょうね」

「はい!」


 ……この時、舞い上がって浮かれまくった事を、わたくしはすぐに後悔する羽目になりました。


 お出迎えが終わり、お茶会が始まった直後の事。

 主催者側は、礼儀として全テーブルを回るのですが、その順番にも、序列や親交のアピールが含まれておりまして。

 わたくしは子供同士、まずは“お友達”の集まるテーブルに着きます。

 お互いのドレスを誉め合ったり、自分の宝飾品について語ったりと、楽しい時間を過ごすつもりでいたのですが。


「――オブ=ナイト公爵令嬢。先程使っていらした扇子、わたくし、初めて拝見いたしましたわ。新しい物ですの?」



 ……???



 おしゃれの目敏さに定評のある令嬢が、しょっぱなから繰り出してきた一撃に、背筋を嫌な汗が流れます。

 そーっとポケットの中を確認してみると、先日の誕生祝いにもらったばかりの扇子がいらっしゃいました。



 ……誰の仕業ですのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?



 ――え?自分で使ったんだろうって?

 それは使いますわよ。

 お母様の開くお茶会は、淑女限定ご招待ですが、紳士のエスコートで送られてくる方もいらっしゃいます。

 まあ、格差カップルや婿養子を取った方が、円満アピールやオブ=ナイト公爵家への顔繫ぎに、夫や婚約者を連れてくる訳ですわね。

 よって、お出迎えでの扇子は必須。

 ただ。わたくし、いつもの通り去年お兄様にもらった扇子を使うつもりでしたのよ!

 どうしてこれがわたくしのポケットに入っているんですの!?


 ――え。出した時に気付け?

 お母様との親子コーデに浮かれてよく見てませんでしたわよ!!悪い!!?


 などと、わたくしが脳内で争っている間に。


「まあ!わたくし気が付きませんでしたわ」

「是非、拝見させてください!」


 きゃあきゃあと盛り上がってしまう場。


 ……次のテーブル行っていいかしら。


 まるで、わたくしの心の声を聞いて牽制するかのように。給仕がわたくしのカップに紅茶を注ぎます。

 一杯を空にしてから立つのが礼儀ですが……一気飲みは無理そうですわね。


「こ――こちら、ですかしら゛?」


 なんとか淑女の笑みを貼り付けて、扇子を取り出してみせます。


 途端に“お友達”の間にざわめきが広がったのも、無理はありません。


 前世日本のマニキュアか飴細工のような、とろりときらめく赤い薔薇。それを透明な樹脂の中に閉じ込めた――かのように見える、不思議な立体感のある親骨。

 まるでそれ自体が宝石みたいで、とても美しいです。

 はっきり言って、自分から見せびらかしたいくらいの素晴らしい一品です。


 ……土台と言うのか、背景と言うのか。薔薇を浮かべるその色が、()()でさえなければ!!


 ええ。ざわめきの理由は、感嘆半分、あからさまな王太子の贈り物に対する驚き半分でしょう。


「なんて素敵なんでしょう!広げて見せてくださいませ!」


 い゛や゛ああああああああ!!追い討ちぃ!!


「あら、ちょっと図々しいのではなくて?」

「そうおっしゃらず!お願いしますわ!」


 面白くなさそうにしてみせても、六歳児では迫力が足りないのか、それとも美に興奮した女子の前には無力なのか、牽制にもなりませんでした。

 周囲も目をきらきらさせているので、焦らしと思われているのかも知れません。


 カップを……!早くカップを空にしなければ……!!


 一口飲んだところで視線に耐えられず、はらりと扇子を広げます。


「まあ、美しい!」


 薄くて粗目のレースを重ねた扇面は、色違いの裏を透かして、黒い薔薇の隙間に赤色が覗いて見える……筈です。皆様からは。

 実は三層で、こちらは紺色のレース。とか、気付かれないようにしたいです。


 ――え?彼の色を口元に寄せてるとか、バレたらより一層恥ずかしいヤツ?


 わたくしまだ六歳ですから!!!


「よくお似合いですわぁ」

「オブ=ナイト公爵令嬢の、雪のようなお肌が引き立ちますわね」

「それに、なんと言っても“薔薇”ですわ。王太子殿下って、本当に素敵なお方ですのね!」


 ……羨ましいなら代わって差し上げましてよ。


 ちなみに、やっぱり紺色の仲骨。仲彫りに、男性が()()贈る場合オーソドックスな、“貞淑”の紋が使われているという、恥ずかしいにも程がある代物です。


 もはやバカップルアピール通り越して別の何かになりつつあるのですけど!!

 これ、毎回誰の仕込みなの!!?


「まあ、要にサファイア」


 ごほっ!?


 気付いてなかった事まで指摘され、わたくし危うく紅茶を気管に入れそうになりました。


 お母様のお茶会ですから、耐えねばなりません。耐えねばなりませんが……!

 きゃあきゃあと嬉しそうな“お友達”に、今すぐ紅茶をカップごとぶつけてやりたいです!!


 わたくしを辱しめて楽しいか!!!



   *



 拷問にも等しいお茶会がどうにか平和にお開きとなった後。メイド一同を集めて、怒りを爆発させたわたくし。

 当然、この扇子を持たせた理由を問い質しましたけれど。


「いえ、その……他の扇子はもう小さいからと、ぼっちゃまが、回収されてしまいましたので……」


 選択肢はなかったそうです。



 ……あぁああああああにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!

怒髪衝天アリア様。遂にお兄様に復讐か!?

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