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異世界転生ですって?馬鹿馬鹿しいですわ!  作者: 細蟹かなめ
ヴォルフガング王家はどーろどろ?編
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33.ティータイムにしましょう?



 ―――ふわりと、頭の中にまで広がるようなリンゴの香りに、疲れが癒されます。



 主に勉強以外の点でストレスの溜まりまくった王太子との合同授業を終え、穏やかな陽の差すバルコニーで、まったりティータイムです。


 眼下に広がるのは、一分の隙もなく刈り込まれた緑の迷路園。曇りがちな空からの天使の梯子が、幻想的な趣を添えています。

 王家の紋のデザインされたテーブルに、磨き抜かれた最高級の茶器で用意されているのは、意外にも、アップルティーとチーズケーキです。


 フレーバー茶って、香りの弱い低ランクの茶葉に香り付けして箔を付けた物ですから、高位貴族の茶会ではあまり好まれないのですけれど……。

 こっくりしたチーズケーキと合わせると、ケーキの後味にアップルのフルーティーが加わって、二度美味しいんですのねぇ☆


 これは素敵センスのアピール?

 いえ、“素朴な味を好む親しみ易い私”演出かもしれませんわね。この方の場合。



「どうかしら。わたくしの好きな物を用意させたのだけれど……口に合って?」



 高貴の文字が背後に輝く、控えめな微笑み。

 我らが王太子の姉姫が、わたくしの対面に座していらっしゃいます!


「ええ、たいへん美味しゅうございますわ」

「よかった」


 微笑み合うわたくしと、ヴォルフガング王国が第一王女殿下。


 ……どうしてこうなったのでしょうか?


 お茶のお約束など、綺麗さっぱり忘れて授業を終え、部屋を辞して。

 廊下の先に目をやった瞬間、横からメイドがスライドしてきました……。


 ちょっとしたホラーでしたわよ。


 思わず誰何した為に、第一王女付きを名乗られてしまい、そのまま強制連行です。

 まあ、ね。

 “お約束”ですから、お茶は仕様がないのですけどね。


 どぉして、バルコニーなのでしょうねぇ??


 普通、庭園では?応接室だってありますわよね?

 何故、ちょっと可愛らしい、まるで私室のようなお部屋のバルコニーに案内されてしまったのでしょう。


 ――え?「まるで」じゃなく、マジでお部屋に招ばれたからじゃないのかって?


 そんな異常な事ってあります!?

 権力者のモラルを理解なさい!敢えて私室に通すとなれば、それは「自分に近しい存在である」という表明になりますのよ。

 ご自分の婚約者ならわかりますわ。けれどわたくし、弟王子の婚約者でしてよ!?

 私室にお招ばれしていい立場ではありません!!


 せめて……せめて、シュタードラー先生に同席願えたら……!!

 なんで先生だけ控えの間に通されちゃうんですのぉ!!?


 二人で内密のお話なんかする間柄じゃあありませんわ!

 顔を合わせるのも四回……いえ、同日を一カウントとすれば、わずかに二回目!!まともにお話した事なんか一遍もなくてよ!?


 内心パニックのわたくしですが。


「あまり畏まらないで頂戴。()()()ごく私的な話だから」


 雅な仕草でカップを傾け、優しい笑みを浮かべてくださる姉姫。


 ……ええ。ぎこちない優しさが怖いです。


 お髪までぴしっとした、怜悧な容貌の所為もあるかと思われますけれど……ご本人が微妙に緊張していらっしゃいます。

 ひょっとしたら、小さい子供が苦手なタイプの方じゃあありません?


 これなら意外と早く終わるかもしれないと考えつつ、気付かないフリで小首を傾げます。


「あの、お話とは……?」

「ええ。先日の事だけれど……姉弟揃って、見苦しい所を見せました。王族として恥ずかしく思っています」


 そう来ましたか。


「本当に恥ずかしい話ですけれど、わたくしと弟は、あまり仲が良くなくて」


 冷静に観察しながら、アップルティーを味わっていたわたくし。

 伏し目がちに姉姫が言い放った爆弾発言に、危うく口の中の物を吹き出しそうになりました。


 ――え?見れば誰でもわかる事じゃないか?


 そこを見て見ぬフリをするのが臣下ですわ!!

 王族自ら認めてどうするんですの!!?


「実はわたくし、弟の事を心配していました。――弟がわたくしと母を良く思えないのは、理由のない事ではありません。ただ、国を背負い、臣民全ての上に立つ、王の器であると言えるのか……気掛かりでした」


 聞かせないで聞かせないで、語らないで!!


 私室ここに呼ばれた理由はよぉくわかりましたけれども!!

 そんな王家の内輪話を、婚約者に過ぎないわたくしにしないでくださいまし!この似た者姉弟!!!


「まだ幼い故かもしれません。ですが、あまりも思い込みが強く、狭量ではないかと……。けれども」


 すっと、真っ直ぐに見つめられ、息を飲みます。


「弟は、変わったわ」


 わたくしの所為じゃあありません。

 わたくし関係ないですわ。


「気に入らない相手を、()()事を覚えたの――。だから、教えてほしい。あの時、弟と何を話したのか」


 わたくしが何年も掛けて出来なかった事だから――とまで付け加えられてしまえば、黙秘権などありません。


 ……だからってどうしろと!?

 王太子が一方的に王家の内情しゃべり倒して、セレナータ妃を下賜前提公務用側室と察したわたくしが王太子の無理解を哀れみましたと!そう、白状すればいいんですの!?

 わたくし、生きて帰れます!!?


「何を、とおっしゃられましても……わたくし、特には……」


 ええ、本当に。王太子が寛容になったとすれば、お兄様の“落とし物事件”を目の当たりにして、色々馬鹿らしくなったからだと思いますの。


 そこまで思い返して。

 蘇った性教育もどきトーク(主にお兄様のほじくり返し)に、赤面するわたくし。


 ――え?


 言いませんわよ!!

 どこの愚者が第一王女殿下相手にセクハラトークかますんですの!?

 なんなんですの!その最悪手のごまかしは!!



「……愛」



 ぽつりと零れた姉姫の呟きに、わたくしきょとんです。


「そう……そうなのね。愛の力なのね……」

「あの?」


 妙に力強く、噛み締めていらっしゃる姉姫。

 まるっきりお一人の世界に旅立ってしまったご様子なので、声を掛けようとしたのですが。


「いいえ!いいわ、そういう事なら、明かすべきではありません。二人の秘め事にしておきなさい」


 きっぱりと制されました。


 いえ、話さなくて済むのなら、それがいいのですけれどね……。

 一体何なんですの!?


 混乱するわたくしを余所に、眼下に広がる迷路園へと視線を向けられて。

 姉姫は、妙に潤んだ瞳で、熱っぽい溜息をつかれます。


「愛が人を成長させる……素敵ね」


 お・ま・え・も、か!!!


 わたくしの中の姉姫のイメージが、物凄い勢いでガラガラ崩れていきます。


 冷徹で、気高く、色事に興味を示さない孤高の姫――それが、“星花”を見たわたくしの抱いたイメージです。


 婚約者が目の前で女の肩を抱いていても、眉一つ動かさない姉姫はどこへ!?恋愛とか一切軽蔑している訳じゃあありませんでしたの!?


 十歳も下のお子様政略婚約者とか、対象外ですか?

 単にヤツに興味がなかっただけなのですか?そうなのですか??


 結局、この方も恋愛馬鹿?この方まで恋愛馬鹿なんですの!!?


 正妃殿下が王太子に悪影響を与えただけだと信じてましたのに!!

 王族って、みんな恋愛脳のお花畑ですの!?

 国王陛下!!

 陛下の“バカップルに見える化計画”は、政治的策略だとわたくし信じておりましてよ!!?


 テーブルに伏してしまいたくなる衝動を、必死に堪えるわたくしの心中など知らぬ気に。姉姫はゆったりと、アップルティーを口にしていらっしゃいます。



「……感謝します、アリア嬢。これでわたくしも、心置きなくこの国を出られるわ」


 え?


「国を……?殿下、国を出られるのですか?」

「ふふ、気が早かったかしら?わたくし、学園を卒業したら、他国へ嫁ぐ事になっているの」



 ――は?



 はああああああああああああああああああああああああああああああ!!?

 ちょっと、庶民女!これどういう事!?

 姉姫って、攻略対象で王宮お抱え魔術師な、チャラ男フィガロの婚約者……ですわよね!?


「えと、無知をおゆるしくださいませ……。殿下は、他国のお方と、婚約していらっしゃいますの?」

「ええ。二歳の時から、シベリウス王国の王子と婚約しています」


 “星花”の設定が、木端微塵ですわぁ……。


 ――え?転生悪役令嬢物だとなくはない?

 ゲーム制作の元になっただけの、全然別世界パターンとか?でなければ、別の転生者がとっくの昔にシナリオぶっ壊してるタイプ?

 絵は確かに、このお方でしたものね。

 出戻りの可能性もありますけれど、フィガロが八歳からの婚約者と言っていたのだから、姉姫は十八歳で…………。


 学園三年の、年。

 卒業、以前。


 え?まさか婚約解消?

 そして、十歳年下のチャラ男を王家に繋ぐために婚約させられる??


「……あの、殿下。殿下は、その……ご婚約者さまとは、うまくいっていらっしゃるのでしょうか?」


 恐る恐る尋ねたわたくしに、姉姫は一瞬、きょとんとされました。

 そうしておかしそうに、少しくすぐったそうに、くすくすとお笑いになります。


「心配させたかしら。大丈夫。わたくし、あの方をとても尊敬しています。ただ、わたくしがこうしてここにいた事で、次期国王の器を狭めたのではと――それだけが気掛かりだったの。でも、もう安心ね。シベリウスに嫁ぐ日が、わたくし、待ち遠しいわ」


 はにかんでいらっしゃる姉姫に、わたくし、もうどんな顔をしたらいいのかわかりません。


 死別か破局か王命……王命は、他にも姫がいるみたいですから、さすがにないと思いますけれど!!

 傷心の娘にそんな縁談持ち込みます!?

 嫁ぎ先のシベリウス王国の方が何かやらかして、愛想が尽きるパターン?

 シベリウス王国と言えば、かなり遠方の北の果ての国で――そうですわ!フィガロルートのハッピーエンドで、姉姫が飛ばされる国じゃあありませんの!!


 それ、どういう状況!?


 再縁か、元婚約者の兄弟に嫁いだのか……どちらにしろ、三十歳にもなってそんな事になって!シベリウス王国での姉姫の扱いって、どうなりますの!?

 仮にシベリウス側が縁を切望した結果だとしても、国民感情として、どうなのでしょう?

 何やら針のむしろの予感が漂っている気がいたしますわ。


 ……いたしますわぁ!!


 セレナータ妃を側室に迎えられた時点で、姉姫はほぼ用済みだったかもれませんけれど!その扱いはあんまりじゃあありません!?


 やっぱり王家なんて、血も涙もないですわ……。



   *



 ……ところで。


 わたくし、密かに胸に温めていた計画があります。

 もう少し大きくなって、諸外国の方とも顔を合わせられるようになったら。


 王太子の婚約者の立場を利用して、他国の姫君と仲良くなりまくって。

 そして、王太子に紹介しまくってやりましょうと!


 その中の一人くらいは、イケメン攻略対象のお顔に惚れて、父王に「あの方のお嫁さんになりたい!」とかおねだりしてくださる事でしょう。


 後はその国の外交力次第ですが、なにせわたくし、貴族です。

 王族同士が縁を結ぶとあらば、国益の為、身を引くのが世の習い。


 晴れて婚約解消です!!


 そうしたら、お二人が婚姻を済ませる前に、適当な令息を捕まえて、婚約!結婚!!

 側室ルートを完・全・に、叩き潰すのですわぁ!!!


 ――え?そうそうフリーの令息がいるのかって?


 わたくし、この国唯一の公爵令嬢でしてよ?

 貴族が王族を前に身を引くように、下位の令嬢がわたくしを前に身を引くのも、また世の習いですわ。


 ――略奪婚?

 そうとも言いますわね☆


 そこはどうでもいいですのよ。

 問題は、似た者姉弟のやらかしによって、わたくしが王家の確執やら何やらを知ってしまったという、事実。


 ――え?周囲にはバレバレの話じゃないかって?


 単なる“噂や憶測”と、“本人の口から聞いちゃいました”では、重みが全然違いますのよ!


 もしもわたくしが、この計画を実行したとして……。

 わたくし、生きて行かれます!?

 “病死”とか“事故死”とかしませんわよね!?

 二択じゃありませんわよね?

 死か側室かの二択だなんて、そんな事ないですわよね!?



 ………………どうして黙るんですのぉ!!?

いつの間にやら、断崖絶壁。

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