32.王太子とお勉強?
「―――ふむ。アリア嬢は中々、飲み込みがよろしいですな」
政治学の授業を受けていると、教師に感心されました。
やりました!!
王宮お抱え教師に褒められましたわよ!オーッホッホッホッホ!
「きょうしゅくですわ。わたくしの教師は、政治学もたしなんでおりますの」
「そうでございましたか。博学なる侯爵夫人のお噂は、わたくしもかねがね」
「いえ、素人の物好きでございますので。高名なる学者の方にそのようにおっしゃっていただくのは、恥ずかしゅうございます」
丁寧に謙遜なさるシュタードラー先生ですが、前世のわたくしが政治学に、全然。全く。完璧に!興味がなかった為、翻訳記憶が使えず、お勉強が本っ当に大変なのです。
先生が予習復習してくださらなければどうなっていた事か!
ちょっと、庶民女!聞いてますの!?
「――師よ、ここがわからない」
偉そうに声を上げたのは、勿論、王太子です。
言葉遣いに制限があるのは、身分を考えれば仕方ないのですけれど……人に物を教わる態度じゃあないと思いますわよ。
「ああ、こちらは○○が×××の△△△△で……」
oh……。
ちんぷんかんぷんで、ヒヤリング不可能です。習得レベルが違い過ぎて、予習にもなりません。
もうこれ、合同授業の意味ないですわよね?
個別授業を同じ部屋でやっているだけじゃあありませんの。
いくら誉められても、追い付ける気がしませんわぁ。
資料として渡された書籍……これまでの政治の歴史をつらつらと読みながら、思わず溜息が零れます。
「……“神の兄弟”と謳われていても、害をなそうという、ふとどき者は現れますのね……」
ぴくりと顔を上げた王太子が、真剣な眼差しで……ちょっと。
わたくしの手に、手を重ねて握り締めやがります。
令嬢にほいほい触り過ぎですわよ!?
「安心しろ。わたしは、誰よりも強くなる。どのような敵が来ようと、かならず守ってやるから……心配するな」
なんですの。そのファイターな台詞は。
「めったな事をおっしゃらないでくださいまし。もしも王や王太子が剣を抜かなければならなくなったとしたら――この身を王の盾にするか、自害するのが、妃の務めでしてよ?」
「!?!?」
常識であしらうと、何故か、こちらがびっくりする程に驚く王太子。
……え?この方、大丈夫?
「殿下?将来は、この国のちょうてんであらせられる王……現在でも、その世継ぎにあらせられる王太子たる御身に換えられる者など、この国におりませんわ。妃が、我が身を守らせる為に王を戦わせるなど、あってはなりません。――違いますか?」
「それは……、だが!!」
「わたくしを守るのならば、強くなるよりも、政治しゅわんでもって、敵がおそって来ないように立ち回っていただきたいですわ」
だがもしかしもありません。ぴしゃりと言わせていただきます。
――え?冷たい?折角いい雰囲気だったのに??
教師二人に見守られながら恋愛ごっこしようだなんて。さすが、乙女ゲーム愛好者の言う事は違いますわねぇえ?
大体!これくらい言わないと、わたくし、近い内に“病死”させられるかもしれないじゃあありませんの!!
王族が我が身を顧みず、妃の為に剣を取る――。
フィクションならロマンチックで済みますけど、普通に許されませんわ。妃が。
――え?せめて、『私も殿下を守りたいのです』とかなんとか言えなかったのかって?
口が裂けても言いません!!!
王太子のロマン思考の所為で、こちらは生命の危機でしてよ?
この後、近衛に「殿下の為に」とかさっくり斬られてもおかしくないレベルの問題発言されましたのに!
嘘でも言いませんわよ。そんな事。
ヒロインでやれ!!!
「……怒っているのか?」
しょんぼり眉を下げられて、わたくし絶句です。
王宮の一室。同席するは、王宮お抱え教師。壁際に控えるは、王宮使用人並びに近衛。
この状況で「怒ってます」なんて言えるとでも……?
ねえ、庶民女。前々から疑問だったのですけど。
この方、なんでこんなにお子ちゃまなんですの!!?
――乙女ゲーム“星花”の王太子。
誇り高き次期国王。頼れるリーダー。文武両道。完璧王子。尊大なのが玉に傷――。
普通、このタイプの攻略対象って、六歳にもなれば大人顔負け頭脳明晰腹黒注意な完璧王子に仕上がってますわよね?
まさかこのまま!?
将来お子様バカ太子に育って、地団駄踏みながら婚約破棄してきたのを、なんかチート令嬢に育ったわたくしがざまぁする、転生悪役令嬢ざまぁ物でしたの!?
――え?それ、“星花”が原形留めていない?
ええ。そうよね。
恋愛面の感性はともかく、統治者としては大成されると信じておりますわ。
多分。きっと。
本当に、お願いしますわよ!?
「……怒ってなどおりませんわ」
「だが!」
「殿下?殿下は、わたくしが生きるこの国を――この国の全てと、未来をも、守る事のできる御方なのです。守るべきは妃の身でもなければ、御身一つですらございませんわ?目先の争いを切り抜ける為に、御身を危険にさらすなど、お考えにならないでくださいまし」
……というか、先のご発言が原因で、わたくし、正に命の危機でしたのよ。
いい加減、身分(の高さ)をわきまえてくださらないかしら。
わたくしが、憂いの溜息をつきますと。
「――これはこれは。素晴らしい婚約者を得られましたな、クァルテット殿下」
「そう、か?」
何故か感嘆する政治学教師に、何故か目頭を押さえているシュタードラー先生。
さすがに王太子は釈然としないご様子ですけれど。
急になんですの??
――え?口に出した台詞だけまとめると、忠義者っぽかった?
そんな羽目に陥るとか冗談じゃない。てな内面が見えないと、王太子と国を守る為に自ら命を擲つと言っているように聞こえる?
しかも、立場自覚しろよ。の念も聞こえないから、「全てと未来を守れる御方」とか、王太子を敬愛していると思われたかも??
ちょっと待った!!!
逆!!
逆ですわ!!こいつが将来の王とか大丈夫かって、先行き不安なんですのよ!?
…………とは、言゛え゛ま゛せ゛ん゛わ゛!!!
何やら結局教師に言いくるめられたっぽく勉強に戻る王太子を眺めながら、心の中でハンカチをギリギリするわたくし。
――え?いっそヒロイン的健気ビームを出してやったら、王太子とラブラブルートにいけるんじゃないか?
絶・対・イヤ!!!
貴族に生まれた以上、側室落ちは免れないじゃあありませんの!
正妃の影に隠れて国に尽くすなんてイヤです!役不足ですわ!!
目指せ、高位貴族の第一夫人!!社交界の華!!
わたくしが!!!一番なの!!!
実況『おおーっと!ここで王太子が攻略対象ムーヴ手裏剣を投げたぁ!!対するアリア嬢、床を叩いて……畳返しだぁーっ!!!世知辛現実たたみが宙を舞い、手裏剣を遮る!!トキメキの欠片も届かないーっ!!』
解説『いえ、これも一つの受け止め方です。将来が楽しみですね』




