31.姉姫様とお茶の約束?
暑さで作者がバテてます。
アリア様は元気です。更新遅くなるかと思いますが、忘れ去らずに見にきていただけると嬉しいです。
―――ゆ・う・が~☆な、朝風呂ですわぁ☆
バスソルトだったかしら。香油でしたかしら?
透明なのに、華やかな香りたっぷりのお湯に、薔薇の花びらまで浮かべた、目にも楽しい、薔薇のお風呂ですの。
う~ん。嫌な事なんて、みんな飛んで行ってしまいますわぁ☆
周りでは、三人のメイドが、わたくしを磨く為に立ち働いています。
公爵令嬢に生まれてよかったですわね?
――え?せめて体を洗うのは自分でやってくれ?羞恥心が火を吹く??
使用人は人じゃないって、何回も言ってるじゃあありませんの。
あなた、スポンジやタオル相手に恥じらいますの?
そもそも、わたくしまだ子供ですわ。あなただって、小さい頃は、親に洗われていたでしょう?
――さすがに、六歳近くなってそれはない?この年になってとか考えると、より一層恥ずかしいですって?
もーっ!わたくしの気分が下がるから、あなたも満喫しなさい!!
エステやスパだと思えばいいでしょう!?
――は?せめて服の着脱は自分で?
それこそ、メイドの仕事でしてよ?
ワンピースじゃあありませんのよ?ドレスの脱ぎ着が、自力でどうにかなる訳ないじゃあありませんの。
――え?寝間着?下着?
知りません!メイドの仕事ったら仕事なの!!
わたくしは仕事を与え、雇用を確保する、いい主人なのですわ。
いい加減に慣れてくださる?
美容室で髪をカットされている最中に、気を利かせて反対側の細かい切り屑をパタパタ払い始めてご覧なさい!
美容師大困惑の、大迷惑でしてよ!?
見ていなさい!!
メイドの手をすり抜けて、ちゃぷんと顔を湯船に沈めます。
「お嬢様!?」
「どうなさいました!?」
「ご無事ですか!?」
「ちょっと自分で顔を洗ってみただけですわ」
案の定大騒ぎするメイドに、きりりと答えてみせますが。
……ほら。全員微妙な表情じゃあありませんの。
「あの、お嬢様。もうすぐ済みますので」
「どうか、今しばらくご辛抱くださいませ」
「何か、お召し上がりになる物をご用意いたしましょうか?オレンジジュースなど如何でしょう?」
……ちょっとあなた達。
庶民女との脳内会話で、少しばかりムキになってしまったが為に。メイドに、全力であやされてしまいました。
オレンジジュースは美味しくいただきましたけどね……。
そこまでする事ないでしょう!?
まあ、それはともかくとして。
爪の先まで磨き上げられ、かっちりと黄金の縦ロールを決めまして。
赤いドレスを纏ったら、いざ、出陣!
王妃教育のため、王宮に向かいます!!
……はあ。一気に盛り下がりましたわぁ。
ボリューム抑えめ。装飾控えめ。色調も落ち着いた、お勉強スタイルです。
正直不満ですが、わたくしTPOは弁えておりますし?我慢いたしますわよ。
はぁ、大人の分別があるって辛いですわぁ。
……だからって、サファイアのブローチは着けません!!
絶対拒否ですわ!
真珠にしてちょうだい!真珠に!!
――え?王太子の好きな色?
しまったですわ!!?
い、いえ。知らない事になっているのだから、セーフですわ!セーフ!!
宝飾品選びだけでかなり疲労しましたが、どうにかシュタードラー先生と、馬車に乗り込みます。
……庶民女、ぶーぶー言わない!
毎回お兄様が付き添いだなんて、わたくしのメンタルがもちませんわ。
第一、月一の定例会をこなしたお陰で、お兄様のお勉強が少し遅れていますのよ。あなた聞いてませんでしたの?
――え?音楽教師?
王太子との、合同授業の立ち会いでしてよ?
家格からしてシュタードラー侯爵夫人一択ですわ。
それに、異性との会合をふしだらと言わせない為の付き添いに、あんなセクシー美魔女をぶっ込んでどうするんですの?
品と威厳の溢れる、シュタードラー先生の姿をご覧なさい。これが“お目付け役”というものですわ!
……そう言えば、先生は、オリーブ色のドレスを好んでいらっしゃるようですわね?
「ねえ、先生?先生は、いつも同じお色のドレスですのね?他の色はお召しになりませんの?」
「え……ええ、そうですね」
退屈な道行きの、話題のつもりで。
何気なく尋ねると、随分うろたえた反応をなさるので、思わず見入ってしまいました。
そんなわたくしの視線を避けるようにお顔を横に向けられますが、窓が覆われているので、何の誤魔化しにもなりません。わたくしの好奇心がツボ押しされるだけです。
「……せんせぇ」
「アリアお嬢様。いつまでも人をご覧になるのはマナーに反しておりますよ」
ぴしゃりとおっしゃる先生ですが、わたくしが黙って見ておりますと、ほんのりとお顔が赤らんでいかれまして。
「…………夫の、瞳の色にございます」
wow。
まさかの、バカップルでした。
*
「――あら。奇遇ですね、アリア嬢」
どこが奇遇ですの!!!
道中、シュタードラー先生をからかった罰が当たったのでしょうか。
到着するなり、明らかに待ち構えていた姉姫に捕まりました。
一瞬の硬直に先生の片眼鏡が光るのを感じて、慌てて臣下の礼を取ります。
「尊き第一おうじょ殿下に、お目にかかれて、光栄です。オブ=ナイト公爵家が、第二子にして、ちょうじょ。アリア・クインが、ご挨拶申し上げます」
「楽にしなさい。今日は、王妃教育かしら?」
「はい。おっしゃる通りです」
「丁度よかった。わたくしも、未来の義妹との親交を深めたいと思っていたの」
えぇ……姉姫と王太子の間柄は、姉弟とは呼び難い状態では……?
「アリア嬢?授業の後、わたくしとお話しましょう?お茶を用意させますわ」
王族からのお誘いとか、拒否権ありませんわね!?
十代半ばのお姉様が、五歳児とお茶して、何が面白いんですの?
これは、あれですわね……。
ハチャメチャなスタートとなってしまった、王妃教育初日。お兄様の乱入で気分が切り替わったのか、王太子が謝る気になって、セレナータ妃の所に戻れたのはよかったのですが。
何故かそこに留まっていた姉姫に、王太子との関係について質問攻めにされる羽目に陥りましたの。
まあその時は、授業が控えているからと、セレナータ妃が止めてくださったのですけれど。
その続きでしょうねぇ……。
王太子が暴力を謝罪したのが、よっぽど衝撃だったらしいですわ。
イヤですわ。それは謝るのが当然でしょう?
今までどんな扱いを受けてましたの?
――え?よろめかせたくらいで暴力とか、大袈裟ですって?
何言ってますの。
あなただって、あの陰険店長にぐだぐだイチャモン付けられた挙句に押し退けられてよろけた時、『暴力店長』だの『パワハラ』だの、散々怒って友達に愚痴っていたじゃない。
――あれと一緒にするな?
何が違いますの?やった事は同じですわ。あなたが王太子の肩を持つ理由はただ一つ。
顔がいいからですわ!!
「……先生、授業の後の予定は――」
「はい。問題ございません、すぐ公爵家にお伝えいたしましょう」
何か詰まっていてくれないかしらという一縷の望みは、先生の即答で木端微塵にされました。
……できればパスしたいのですけれど。
だって、何を話せばいいんですの!?
王太子が何をしようが、わたくし関係ありませんわよ!?
……そんなわたくしの心の叫びが、届いた訳ではないでしょうが。
「おい、何をしている」
現れたのは、王太子でした。
その問い掛けは、場の全員に向けたと受け取れるものでしたが……。
姉姫――第一王女殿下。王太子の姉、かつ王族。
わたくし――公爵令嬢。王太子の婚約者、だけど貴族。所詮貴族。
深々と臣下の礼を取って、王族同士の会話を前に沈黙を選びます。
が!!
王太子ときたら、ずかずかと近付いてきたかと思えば、わたくしの手を取り、引っ張って、後ろに隠すじゃあありませんの!
この前からちょくちょくお手々繋いでますけどね、この世界……いえ、平民はどうか知りませんけども、貴族社会では、エスコートが常識でしてよ!?
王太子と公爵令嬢が手を繋いでいるとか、かなりの椿事です。
――攻略対象って、前世の日本人女子の何某かが植え込まれているのでしょうか?やっぱり。
「わたしの妃に勝手に話し掛けるな。何の用だ?」
「特に何も。偶然に行き合ったから、挨拶をしていただけです」
……マッチポンプも甚だしいので、感謝する気はありませんけれど。
王太子が相変わらずのこの通りなので、姉姫とはかち合いを避けて、授業の日が設けられているようです。
お陰であれから二月、こうした状況を免れていたのですが。
生憎、今日は休日です。
まあ、公爵令嬢にして王太子の婚約者であるわたくしが決まった曜日に馬車で出るなんて、襲ってくれと言うようなものですし。ランダムになるのは仕方ありませんわ。
――え?ランダムに出ても襲われてるじゃないかって?
警備の外周で収まってるから、ノーカンですわ。
……まあ、わたくしも、ちょっとびっくりしましたわよ?
お父様が「滅多な事を考えないように」とおっしゃって見せてくださった、襲撃リスト。
お父様の政敵から、公爵家への私怨・逆恨み、公爵領の交渉相手から、貴族憎しの集団に、婚約発表以降は、身元不明の異邦人集団が加わって……。
ほぼ毎回襲われております。
まあ、ランダムにしたところで、週に一度は王宮へ行くのですからね……。
待ち伏せは楽な方だと思いましてよ。
単なる金目当てだと、公爵家は却って敬遠されるのか、「誕生日、神殿から出てきた箱馬車に目を付けたごろつきが、警備の物々しさに誘拐を断念」とか書いてあったのが唯一でしたわね。
でも、これって一体……?
実質、ただ馬車を見てただけですわよね?公爵家の警備には、AI分析付きの監視カメラでも搭載されているんですの?
そもそもお父様……「滅多な事を考えないように」って何ですの!!
いくら襲撃騒ぎが馬車まで届かなくて安全に思えても、わたくし、公爵令嬢でしてよ!“馬車から飛び降りて町を探検”とか、やりませんからね!?
「――行くぞ。授業があるので、失礼する」
姉姫の返事も待たず、勿論、わたくしの返事など待つ筈もなく。
ずるずるとわたくしを引き摺って歩き出す王太子に、シュタードラー先生が、お説教を堪えた渋面になっております。
「アリア嬢、それでは、また」
つい振り返ると、姉姫が優雅に微笑んでいらして……。
――ええ、そうですわよね。
第一王女殿下からのお茶のお誘いとか、貴族に拒否権ありませんわよね。
言った時点で予定は確定って事ですの!!?
約束ってか強制イベント?




