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26.生誕祭の裏側で?



 ―――色々ありましたが、ようやく生誕祭です!

 あと一頑張りで帰れますわぁ!!



「王妃殿下方の、御入場です!」



 呼ばわる声に、奥の大扉が開く重い音がして――。


 ……何も見えないんですけど?


「お父さまぁ?」


 邪魔過ぎる人垣に、お父様へ不満を訴えようとすると、エスコート役のお兄様が、横からストップを掛けてきます。


「施しだよ、アリア。前にいるのは、王族を目にする貴重な機会を得た、下位貴族だからね。私的にお会いになれるアリアは我慢だよ?――そうでしょう?父上」

「そうだな」


 わたくし、軽くお兄様を睨みますが、周りの令嬢は、「そうですわ」「直接お会いになれるなんて、羨ましいです」と囀ります。

 仕方ありませんわねぇ……。


 それよりも、読み上げられる名前の多さが気になってきました。


 国王陛下……意外と子沢山?側室、五人もいらっしゃいますの?

 “星花”では出てきませんでしたわよね?

 天才チャラ男――いえ、天才魔術師の婚約者は、確か王太子の姉姫でしたけれど、他はまったく……あら?


 チャラ男フィガロルート以外で、姉姫、出ていらしたかしら……?


 ……出てませんわ!!

 王太子ルートでの王太子!まるで三人家族のような振る舞いです!?

 チャラ男のルートでは、ヒロインの前に立ちはだかるライバルな、完全無欠の姫君でしたのに!

 王太子ルートでこそ、“王族とはこういうもの”と見せつけるべきでしょう!?どうなってますの!!


 ――え?王太子ルートからフィガロルートへ行った人の声?


 『クァル様に姉が生えたw』『それな』


 ――フィガロルートから王太子へ行くと?


 『姫様が消えた!?』『絶対シスコン&ブラコンだと思ってたのにぃ!』


 そういえば、お兄様も新ルート解放で生えるキャラでしたっけ。

 ――え。ファンの間では平行世界パラレル説が濃厚??


 ……運営が適当過ぎて時空が歪んでますわぁ!!?



「国王陛下の、御入場です!我らが国王、シンフォニイ・ヴォルフガング=アマデウス=モーツァルト陛下!」



 わたくしの密かな混乱など関係なく、祭典は恙無く進みます。

 周囲の視線につられて見上げると、高みに設えられた玉座の奥から、ゆったりと歩み出てくる、国王陛下のお姿。

 ……謁見の時は、割合ラフでしたのね。

 今日はもうキンキラキンに着飾られて、燦然と輝いていらっしゃいますわ。


「――皆の者、よく来てくれた。我が“兄弟”に、感謝を。次世代を担う“神の兄弟”が、地上に於いて新たな年を迎えた事に、寿ぎを」


 朗々とした陛下のお声が、大広間の隅々まで染み渡ります。

 そうして、満を持して。


「王太子殿下の、御入場です!――我らが王太子、クァルテット・ヴォルフガング=アマデウス=モーツァルト殿下!」


 先程の陛下同様、玉座の奥から。

 小さな体で堂々と歩いてこられたのは、王太子です。

 王国全土から馳せ参じた貴族……この大広間を、恐らくは埋め尽くしているであろう人々を、余裕のロイヤルスマイルで睥睨し、沸かせます。

 お堅い装束に負けず、幼いながらも王者の風格とか漂わせちゃっているのに若干イラっとしますが……それよりも。


 わたくし……衣装のデザイン、被ってません?


 ――ええ、赤で揃えるお約束ですわね。知っていましてよ?

 ただね、差し色が白と黒。宝飾が金。


 それは男子の装束としてはまともでしてよ?

 寧ろ、わたくしのデザイナー!何故差し色なんて入れましたの!?赤一色でよろしかったじゃあありませんの!

 いえ、そもそも赤が被り過ぎ?

 もっと明るいとか暗いとか薄いとか濃いとか!!

 もうちょっと何とかなりますわよね!?色調が同じって、どういう事ですの!?


 そして、致命的なのが……。

 先刻のドタバタでは王家の紋章がクローズアップされていた、王太子の胸の円盤プレート

 今、わたくしの腰には、黒地に金でオブ=ナイト家の紋章を掘り込んだ円盤があります。白黒ストライプのリボンで飾った物です。

 なんと紋章以外の全てが、王太子の円盤と被っています。


 ……こうして遠目に見ると、紋章がわからなくて同じ物に見えますわね~……。


 ――え?違いますわ。

 正装で義務付けられているのは、“紋章を付ける事”だけですわ。色や形の指定はありませんわよ。周りを見ればわかるでしょう!



 …………。



 やっだぁ☆今日の主役と衣装被りなんて、アリア大・失・敗☆

 さっさと帰らなくっちゃ☆


「――アリア?」


 さりげなく離脱しようとしたわたくしの手を、エスコート姿勢のお兄様に捕獲されました。

 何この人間トラバサミ!!


「お……お兄さまぁ……」


 後生だから逃がしてくださいお願いします。

 この際、拾い食いして腹痛になったとか言っちゃってもいいですから!


 ――え?婚約者同士が被ってるなら、ペアルックで許される?



 ぺあるっく言うなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!



 だから逃げるんでしょう!!

 痛いですわ!かゆいですわ!恥ずかしいですわ!!…………恥ずかしいですわ!!!


 ちょっと!これ、「色を合わせただけ」と言って、誰が信じるんですの!?

 示し合わせて同じに仕立てたか、本当に王太子が揃いで作らせた物を着てきたようにしか見えませんわよね!!?

 取り巻きの令嬢が目をきらっきらさせて、わたくしと王太子を見比べているじゃあありませんの!!


 おねがいすぐに帰らせてぇえええええええ!!!


 もうプライドかなぐり捨ててしがみ付き、“可愛い妹の涙目による無言の訴え”を決行しますが、お兄様はにっこり笑って、わたくしの耳元に口を寄せます。


「――ダメだよ☆王太子へのご挨拶、楽しんでおいで」


 ……知ってましたわねぇえええ!!?


 生誕祭における貴族代表の祝辞は、当然の事ながら序列に従って行われおりまして。

 昨年までのトップバッターは、国王陛下から王太子、姉姫まで、全ての生誕祭で、宰相が務めていたそうです。

 ところが、今年は、わたくしが正式な貴族として参加する事になりました。

 わたくし、王太子の婚約者です。

 国王陛下や姉姫の生誕祭はともかく、王太子の生誕祭では、婚約者わたくしがトップバッターを務めるべきだろうという声が上がったそうで。

 わたくし。宰相からトップバッターの座をかっさらってしまいましたの。


 想像してみなさい。

 ただでさえ皆様ご清聴の祝辞の儀式の中、宰相を押し退けて呼ばれる五歳幼女。

 はい。注目の的ですね。

 そして、オブ=ナイト公爵家の長女にして、この国唯一の公爵令嬢。

 はい。注目度アップです。

 そして、貴族でありながら、王太子の唯一の婚約者。

 はい。更に注目度アップです。

 ついでに、この前お茶会に出始めたばかりの、ほやほやです。五歳で国王陛下への謁見を許され、正式な貴族と認められたのが、まず異例なのですけれど。


 ……そのド注目の中で、アホみたいなお揃いコーデを晒せと!!?


 国家公認プロジェクト“バカップルに見える化計画”を甘く見てましたわぁあああああああああ!!


 折角、王太子の扇子を仕舞って、お兄様いただいた扇子を持ってきましたのに!

 無意味!!


 そうしてわたくしがじたばたしている間に、王太子から一言の時間が終わってしまいまして。


「栄えある“神の兄弟”に、臣より祝辞を捧げる事をお許しください。――ご婚約者、アリア・クイン・オブ=ナイト公爵令嬢、前へ」


 ……んにゃあああああああ!!?



   *



 他数名が祝辞を終えるまで、玉座の壇の前で、人垣に巻かれて待たなければならない……とは聞いていたのですが。

 最後に司祭が呼ばれて、まさかの、そのまま御祈祷に入ってしまい。

 わたくし、ほぼ祭典終了まで、前列で晒し者でした。


 ……屈辱!!

悪役令嬢すごろく

『全国の貴族にバカップル認定されてふりだしに戻る。』

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