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3.前世チートで無双、リトライ

 



 ―――ごきげんよう、前世のわたくし。

 やっとあなたの使い道が見つかりましたわ!光栄に思いなさい!!


「オーッホッホッホッホ!」


 ――え?いいから早く使用人に頭を下げろ?

 イヤよ。

 わたくしが嫌われ者だとしても!陰で主人を悪く言うなんて、使用人失格よ。クビにするのが当然でしょ?


 え。なあに?叱られるようになっても、全然変わっていない?


 変わったわよ?最近のばあやの口癖、“お嬢様いけません”になっているけど、ちゃんと聞いているじゃない。


 ――効いてない?変わってなかったらどうだったのかって?

 いくらばあやでもクビにしていたわ。わたくしに口答えするなんて、許さなくってよ。当たり前じゃない。


 ……ちょっと!!魂は一つなんだから大袈裟に嘆かないでちょうだい!わたくしまで悲しくなってくるじゃないの、鬱陶しい!!



   *



 さてと。気を取り直して、書庫に入りますわよ。


 立ち並ぶ本の塔……ひんやりとした静謐な空気……素敵ですわね。胸がときめきますわ。

 そうね。前世は書店員だもの。


 さあ、何をしにきたと思います?

 わたくし、この日のためにみっちりお勉強して、文字を覚えましたの。ほんの三ヶ月で、もう読みはばっちりですわ!!


 ――え?どうして書く方は駄目なのかって?


 いえ。どう書けばいいのかはわかるのよ?わかるんだけど……。

 手がうまく動かないのよ。

 しようがじゃないじゃない。まだ子供なんだから。


 え?違うわよ。それがどうにかなるなんて思ってませんわ。

 そんな矯正が可能なら、


「まじゅ、この舌をおねがいしてまちゅわ」


 第一、あなたみたいな下賤な魂に、わたくしの高貴な体がどうにかできる訳ないじゃあありませんの。


 ――え?もうさっさと処刑されてしまえ?


 あら、そう。わたくし、あなたの来世だけどね。


 まあ、そんな事はどうでもいいのよ。チートで無双したら、断罪なんて回避できるんだから!


 わたくし、お勉強をしていて気が付きましたの。

 初めて聞いた言葉でも、教わった瞬間に日本語に翻訳されて、()()()()()()()として記憶できるんですわ!

 つまり、一回聞いただけだからわからないとか、覚えられないという事がないの。


 スーパースペシャルでデラックスな、理解力と記憶力!!これがわたくしのチートですわ!!


 まあ、制限はありますわよ?

 前世のわたくしが知らない事は翻訳できませんから、歴史とか、神話とか、貴族名鑑とか、マナーとか、魔法とか…………。


 ……くっ、使えませんわぁ。


 けれども!!今日はこのチートで現世について学び、前世知識で改革すべきポイントを見つけ出してみせますわ!!

 易しい言葉は覚えましたし、辞書も用意してあります。手始めに生活環境から確認していきましょう。



 なになに?

 上下水道は完備されてますのね。まあ、トイレもお風呂もシャワーもありますしね。予想はしてましたわ。

 電気の代わりに、魔力が使われているようね。


 移動手段は……馬車もありますけど、風魔法を利用して空路が確保されてますの?転移魔法は存在してないみたいだけれど、王都と辺境の行き来が日帰りですの……。


 通信手段は……へえ。風魔法で音声の振動を遠方まで直に伝えられますの?範囲は国内をカバー?王宮お抱え魔術師ならば、隣国との通信も可能ですの……。


 医療も発達してますのね……。

 ファンタジーの定番治癒魔法が貧困みたいですわ。魔法は自然現象を因果を無視して発現させる力で……生き物や精神には、直に作用しない?

 魔力を送り込んで、冷気や熱、水分をなど、治癒の手助けをする現象を起こすだけ……代わりに、薬学が非常に発展した、と。

 ……へ、へぇ。その応用で、化粧品も肌に優しいの。そぉお。



 ああ。食材も色々ありますのね……。

 ええ、知ってましたわ。知ってましたわよ。ゲーム内で、バレンタインチョコとか、カレーが好物の攻略対象とか出ましたものね。

 ――え。ラーメン?カップ麺?


 あなたゼロから作れますの?


 和食系はないけれど……正直、魚の頭とか目玉とかそのままにして食べるって、グロテスクですわ。

 味噌とか醤油とか、まあ風味に魅力はありますけど、発酵ってちょっと。

 ――え?日本人の魂はどこいった?

 そんなもの、この世界に生まれたわたくしに関係なくてよ。

 ――え?チーズやヨーグルトも発酵食品?

 やめなさい!食べ辛くなるでしょう!!


 ――なあに?手作り料理で愛されチート?

 イヤよ。それ、転生令嬢が、作中でも“変な令嬢”とか言われているヤツじゃない。

 大体、あなた目分量で作れるの?


 まあ、わたくしなら、クック〇ッドを見てる瞬間の記憶もくっきり見られますけれど。


 嫌だったら!!厨房になんか入りませんわよ!!


 あのね、前世で書店で働いてたときに『忙しいでしょうから、自分でやりますよぉ』とか言って、レジの中に入り込んで会計しようとする客がいたら、どうよ!?困るでしょう!?

 令嬢が使用人の仕事場スペースに割り込むなんて、あり得ませんわ!



 もう。話が逸れすぎですわぁ。

 とにかく、生活環境に関しては改善点がなさそうですわね。あとは流行……ファッションとか?


 でもわたくし、今のドレス生活が好きですのよ。


 そもそも、高貴なるわたくしが、異世界とは言え、庶民のファッションに身を包むって、なんか嫌ですわ。

 ――え?日本の歴史では、小袖なんかも、庶民から貴族へ取り入れられて流行った?


 そんなこと言って、あなただってお母様やわたくしのドレス姿を見てときめいているじゃない。わたくし、知っているのよ。

 わたくしはね、小さくても淑女なの!

 将来はお母様みたいな立派な貴婦人になるんだから!


 ――え?貴腐人?


 い……いやぁああああああああああああっ!!いたいけな三歳児になんてもの見せるのよ!!!

 閲覧権限!閲覧制限をつけてぇええええええええ!!!



   *



 …………目覚めてませんわよ!!

 わたくし、腐の道になんか目覚めないんだから!知らないったら知らないの!!


 ……オトナコワイ。


 でも、ヒントにはなりましたわ。

 この世界、娯楽小説が無いんですの。


 ――違うったら!!うすい本は作りません!!


 我が国は、辞書や辞典、専門書に富み、教科書やノートすら存在する教育大国ではあるけれど、量産体制が拡充されているのは紙だけで、書籍自体――印刷技術は、手書きの写本なの。

 だから、娯楽小説までは手が回らない。

 演劇にしても、歴史劇や神話を元にしているものだから、そもそも創作という概念がないとも言えますわ。

 そこで、前世チートで改革よ!!


 カモン!書店員!!あなたの専門分野だわ!!

 わたくしに情報を捧げなさい!!


 え?作品?


 ……異世界のを、そのまま出せばいいじゃない。


 ――なんですって。大手書店の下っ端?入荷した本を並べるだけ?

 製本業の領分?

 販売とは畑違い?

 印刷とか、パソコンとプリンターが無いと無理?

 活版技術とか輪転機とか、歴史は知らなくもないけど、構造については文系にわかる事じゃない?理系に聞け!?


 っこの、役立たず!!!


 じゃあ何?わたくしの前世知識は、一体どこに使えばいいの?

 ……あ。目から汗が……。

夢想、玉砕。

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