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20.悪夢のお披露目会?前編

話が終わらない…。後編オチは明日には投稿したいです。



「――えいっ!やあっ!とおっ!!」



 パシッ、パシッ、パシッ!と、魔力の風が、木の葉を叩きます。

 一枚は揺れただけ。でも、一枚はぽろりと落ち、もう一枚は、風に乗って枝から舞い飛びます。


 ……ふう、爽快ですわぁ。


 快晴の空の下、きりりと巻かれた縦ロールと、真っ赤なドレスの裾を風に翻し。

 わたくしは、いい汗を拭いました。


 小雨そぼ降って室内に籠るしかなかった昨日のお披露目会が嘘のように。

 本日は晴天なり!本日は晴天なり!お日様ぴっかぴかですわぁ!!


「……アリアお嬢様」

「!?」


 おどろおどろしい声に、慌てて振り返りますと。そこにおわすは、シュタードラー先生。


「せ、先生。ごきげんよう。本日は午後からの予定と伺っておりましたが……お早いお着き、ですのね」


 まずいです。まずいですわ。

 朝、お泊まりのお客様方を送り出すのに、バタバタしておりましたが。それも終わりまして。

 お父様は出勤、お兄様はそれに付いて、王宮へ。お母様は、他家のお茶会へ。

 すなわち、先生がいらっしゃるまでは、この屋敷にわたくし一人!

 自由だと思ってはっちゃけてた所を、よりによって、ばっちり見られまして!?


「はい。アリアお嬢様におかれましても、ご機嫌うるわしゅう。――実は、昨日のご様子から、嫌な予感がいたしましたもので」


 片眼鏡を光らせて、先生がすいっと、わたくしに詰め寄ります。


「アリアお嬢様……決してお一人で魔力をお使いにならないよう重々申し上げた筈でございます。先程の風はどういう事でございましょう?加えて、淑女としてあまりななさりよう。お袖で額を拭われるとは何事ですか。大きな声もはしたないと幾度も申し上げた筈。そもそも、ご令嬢が日傘もなしに日の下にいらっしゃるとは、一体どういう訳でございますか……!?」


 ―――おかぁあさぁん!!?


 口を挟む隙もない怒涛の追及によって、強烈にフラッシュバックした前世の母のガミガミ姿に、おののく、わたくし。

 反射的に飛び出しかけた『だって』の日本語こえを、懸命に抑えます。


「よろしいですか?使用人は“人”ではありません。飽くまでもお嬢様に属する“もの”でございます。仮令、事が起きた後に処罰される事があろうとも、使用人にアリアお嬢様をお止めする権限はございません。何が起ころうと、全てはアリアお嬢様、ご自身の責任にございます」

「は、反省しておりますわ……」


 ええ。後片付けの為に人数控えめとはいえ、使用人は、わたくしの周りにおります。


 ――『どこが一人?』とかつっこまないでくださる?先生のお話聞いてまして?


 邪魔だからと、日傘を下げさせたのはわたくし。

 ハンカチだって、なんなら三枚くらい持っていると思いますが、声も掛けずに腕を使ったのは、わたくしです。


 だって、やってみたかったんだもの!


 ……くっ、なんてこと。庶民女の悪影響は受けるまいと、頑張ってきたつもりでしたのに。


「アリアお嬢様。先日の魔力枯渇もそうでしたが……昨日、耳にしたところによると、お庭を走り回って、池に転落された事もあったとか」


 ……あらぁ?


 それってもしかしなくとも、前世の記憶が戻る直前のお話でしょうか。

 何故そんな話に!?

 親戚が集まると赤子時代の恥までほじくり返されるのって、前世日本の庶民の風習じゃあありませんでしたの!?

 昨日のお披露目会の出席者、全員現世の貴族でしたのに……適用されるのですか。その法則が。


「お転婆が過ぎます。一度、ご自身を見つめ直してくださいませ……!」


 ……そんな馬鹿な。

 この国で最も高貴な令嬢である、このわたくしが!元からお転婆だったと言うの!?


 ――え?何ですって!?テンプレ悪役令嬢がお淑やかな訳がない!?


 そんな事ある訳が……!!

 ある訳が……。

 ある、訳が…………。


 ……あるかもしれませんわね。


 わたくしもついやってしまう、the 悪役令嬢の、高笑い。

 淑女的に、よろしくありません。笑い過ぎです。

 そもそも、テンプレ悪役令嬢は、概ね感情に素直で、よく怒ります。声高らかに、はっきり物を言います。ヒロインをいじめるのも、それ故です。何だったら、平手打ちとかしちゃうレベルです。


 ええ。駄目ですわね。


 転生悪役令嬢物でたまにある、完璧令嬢が非常識ヒロインにお小言を言っているだけで、いじめている事にされる(そんな乙女ゲームあるの?)パターンの完璧令嬢と比べてみれば、わかります。


 淑女とは、物静かで淑やかなもの。

 私情を面に出さず、常に穏やかに微笑んでみせるのが、あるべき姿ですの。


 ええと……そうすると、わたくしは?


「よろしいですか?アリアお嬢様。お嬢様は、我ら一族が誇る、この国で最も高貴なご令嬢なのですよ。いい加減、自覚をお持ちくださいませ!」


 ……あ゛。


 その形容、“ふさわしい振る舞いをしなさい”って、お叱りの言葉でしたの?

 わたくしてっきり、“だからわたくしの全てが素晴らしい”という誉め言葉かと……。


 え?わたくしお転婆令嬢!?

 見るからに高貴な、貴族令嬢の中の貴族令嬢じゃあありませんでしたの!?

 まさか、先生の中のわたくしって、問題児!!?


 だからって、まさか先生が予定を繰り上げてお目付けにいらっしゃる程だなんて!

 わたくし、昨日、そんなにまずい振る舞いをしましたかしら……?



   *



「――紹介しよう。これが、我が娘だ」


「みなさま、はじめまして。わたくしが、当こうしゃく家がちょうじょ、アリア・クイン・オブ=ナイトですわ」


 ふわふわの姿でお披露目の席に引き出され、観念したわたくし。

 黒地に銀がちりばめられた、まるで夜空のような扇を広げて、い並ぶ一族に向けて、優雅に挨拶をいたしました。


 ……ええ。使いましたわよ。王太子の扇子。


 ――王太子。

 ――わたくしの、婚約者。


 どちらか一つでも断れないやつなのに、王太子で、かつ婚約者とか!!拒否権ありませんわよ!!!


 そんなこんなが内心色々渦巻いておりましたが、きちんと、扇子の陰でも淑女スマイルをキープしておりましたわ。


「――閣下!我らの姫が慎ましくお育ちなのは喜ばしい事ですが、我らはいわば身内!姫とて、まだ成人前ではございませんか!是非、お顔を拝見させてはいただけませんか?」


 ……いかにもお調子者なおっさんが、ヤジみたいなのを飛ばした時もです。

 まあ、エスコート役のお兄様に、「あれ大丈夫ですの?」とか囁いちゃいましたけれどね。


 だって、姫ですわよ、姫!

 わかってますわよ?“オブ=ナイト一族で最高位の令嬢”と言いたいのですわよね?

 でも、この国の王の娘がいるのにそれは、叛意ありとも取られかねない発言じゃなくて?そもそも、オブ=ナイト公爵であるお父様に、ヤジ紛いの声の掛け方するって、ないでしょう。

 いくら内輪の宴だからって……。


 お兄様だって言ってましたわよ?


「まあ、いつもの事だけど……さすがにまずいなぁ」


 あのおっさん、失言製造機らしいです。

 どこにでもいるんですのねぇ。そういうの。


 お父様も慣れたご様子で諸々スルーされて、わたくしに振りました。


「そうだな、どうする?アリア」

「おゆるしください、お父さま。本日これを使うようにと、わたくし、婚約者から言い付かっておりますの」


 ……わたくし、頑張りました。

 殊勝に目を伏せて、意味深長に扇子の親骨をなぞりましたの。


 ええ。王太子殿下の瞳と同じ色の、あれを、です。


 演技指導は、お母様です。

 王太子にもらった扇子だと、直截に言うのは、やはり品が無いのだそうです。

 ですから、ええ。頑張りました。

 お兄様が笑いの発作に痙攣していようが、庶民女が魂の中を笑い転げていようが、眉一つ動かさないで耐え抜きました!!


 ざわりと、微かな驚きの波が広がったのは、無論、お披露目前のわたくしが、王宮に通っていない事は明らかだからでしょう。


 王族である王太子は、赤子の頃から公に出されますが、王宮の外に出るのは、さすがに生誕祭のパレードくらいです。それが慣例であり、常識です。

 いくら王家の帆船が我が家を訪れようと、そこにとんちんかんな理由で定例会をぶっこんだ王太子ご本人が乗られているなんて、誰も想像もしないでしょう。


 つまり、招待客から見れば、わたくしと王太子は、わたくしの誕生日に、謁見の場で、たった一度会ったきり。


 そんな書類上の婚約者が、言付けを添えて贈り物をしてきたというのですからね。

 王家の側もこの婚約に力を入れている事が、わかるというものですわ。


 ……まあ、実際は、宴のちょっと前に、こそこそ潜り込んできてたんですけどねぇ。ふふふ。



 こうしてわたくしは、一族と傘下の貴族に、王太子との婚約が大変順調であると印象付ける事に成功したのでした。

 ―――忘れたぁい!!

お父様ってば、こんなに素とキャラが違うアリア像広めちゃって、後どうするんでしょうね?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「いじめている事にされる(そんな乙女ゲームあるの?)」 そうなんですよ!さらにヒロインが濡れ衣を着せてきます からね。乙女ゲーどこ行ったとw そもそも、自分の婚約者に近づく不埒者に灸を据え…
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