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15.王太子の突撃家庭訪問?後編



「申し訳ありません、おうたいし殿下。たいへんお見苦しいところをお見せいたしました」


 つーんですわ。


「ああ、いや。わたしにも、至らないところがあったようだ……」


 向かいに座る王太子は、割と本気でしょげているようですけれど。

 まったく!信じられませんわ!

 まさか、本当にまさかだったなんて!



 ――捨てわんこなクァル様可愛いですかそうですか。萌えるんですわねそうですの。わかりましたわ。


 引っ込んでらっしゃい。


 ――え?わたくしも、わんこ属性が好みだったんじゃないのかって?

 わたくしは、わたくしに忠実で、従順な崇拝者がいいの。次期国王だなんて、格上過ぎて論外ですわ!

 ――何よ。執事物?主従恋愛おいしいって……。

 使用人なんて!そんな格下、もっと嫌ですわよ!?



 ……妄想を暴走させている庶民女は捨て置いて。

 多少の不敬は許されそうな今のうちに、一言ぴしゃりとやっておきましょう。


「いたらないとは申しませんが、名乗った臣下の家名くらい、覚えていただきたくぞんじますわ。いくら相手にきょうみがなくとも」


「覚えていたに決まっているだろう!ただ……ジュピターから妹の話など、聞いた事がなくて……」


 なくて良かったです。

 顔もみくちゃにして遊んでるとか、タバスコチョコで泣かせて面白かったとか。

 公爵令息としてあるまじき行いを自ら触れ回っていたりしたら、もうどうしようかと思いましたわ。


「オブ=ナイトは、我が一族だけですわ」

「……いとこ同士でも、結婚できるではないか」


 できますけどね。

 法律上許されているだけで、白い目で見られましてよ?


 ええ。我が国は遺伝子強化に貪欲らしく、王家でさえも純血主義ではありませんの。血族結婚はあまりありません。

 そういう国だから、伯爵家出身でも天才魔術師だからって、王家に取り込もうとかするんですわよねぇ。

 逆に、降嫁の多い公爵家と王家の縁組みは、わたくし達で何代ぶりかの、稀なお話。


 ……くっ、祖父母世代が王族であれば、周囲の猛反発で流れたかもしれませんのに!


 本当の本当に、こんな怪奇生物、付き合っていられませんわ!

 お兄様の悪ふざけの為に近親相姦の濡れ衣を着せられたかと思いきや、まさか、間男を引き込んだと思われていただなんて!

 わたくしまだ五歳でしてよ!?


「……よりによってお兄様だなんて。赤の他人でも御免ですわ」


 思わずぽそりと溢した瞬間、隣から圧が掛かります。


「うん?アリア、今何か言った?」

「……いいえ?」


 さりげなくお庭の花へと目を逸らしながら、紅茶を一口いただきます。

 いい天気ですわね~☆

 王太子のずっこけ発言を契機とする、公爵家兄妹の取っ組み合いを収めるべく。当家の使用人が素早く用意した庭園のテラス席で、何の因果か、王太子、お兄様と、三人でお茶をしております。

 ……本当に、何の因果ですの?


「ところで、殿下。本日のご用件は」

「ん?あ、ああ」

 取り繕ったように咳ばらいをした王太子が、しゃんと背筋を伸ばして、わたくしを見据えます。


「こうしゃくが、な。父上に、王妃教育の延期を申し入れをしているらしいのだ」

 痛いところを衝かれ、思わず手が止まります。

「……本来、王宮に上がるのを許されるのは、七歳からですわ。それからでも、遅い事はないでしょう?」

 鉄壁の淑女スマイルでごまかそうとしますが、王太子は口を尖らせます。

「そなたは、父上へのえっけんを済ませたではないか」

「披露目がまだですもの」

「さっさとやれ」

「来月、兄の誕生日なので。そちらをつつがなく終えてから、と考えております」


 ……嘘です。


 実際は、今頃一族への披露目を済ませ、他家の茶会に飛び回り、王宮へも通うという、多忙な日々を送っている予定でした。

 それがこうして屋敷に籠る生活をしているというのは、他でもない、謁見の場でのわたくしの直言に、お父様が多大な不安を抱かれたからです。

 教師陣は、わたくし以上に厳しく叱られ、現在、気合いの入りまくった彼女らに、みっちりしごかれております。

 ああ、なんか誰かの身の上に想定して、ぷーくすくすとかしてた事が、我が身に……。


「こうしゃくはな、わたしの生誕祭に、婚約者として列席させるから、その後にしろと言ってるんだ!」


 テーブル叩かないでくださいませ。お行儀悪い。


「それで問題ないのでは?」

「なっ、来年だぞ!?それまで僕に会えなくていいと言うのか!」


 うーん、なるほど。

 この方、素では“僕”で“お前”なんですのね。公式の“わたし”とか“そなた”とか、頑張ってはいるけど、つい外れちゃうみたいですわぁ。未熟者め。


「よろしいじゃありませんか。結婚まで顔を合わせない婚約者も、ままおりましてよ」

「そんなのは駄目だ!!ちゃんと好きになると言っただろう!!」


 王太子殿下。ウチの兄を痙攣させないでください。


「殿下、王妃教育は遊びではございませんのよ。当主である父が、そのレベルに達していないと判断したのであれば、わたくしはそれに従うまでですわ」

「わかっている」


 そうおっしゃる王太子ですが、露骨に不満顔です。

 くすくすと笑い出したお兄様が、睨む視線を受け流して、優雅にカップを傾けます。


「畏れながら、殿下。我が妹は、こういった事でわがままは申しません。もう率直におっしゃられては?」

「うむ、そうか……そうだったな」

「?」

 何やら勝手に納得し、王太子はこちらに身を乗り出します。


「そういう訳で、これからは定例会を開くぞ」


 どういう訳ですの!?


「わたしも忙しいのだがな。喜べ、月に一回はこうして会ってよいと、()()()許可を出してくださったのだ」


 わたくしの拒否権が消滅しました!


「それは良いお考えです。何しろ、我が妹は、一年会わないだけで実の兄の顔も忘れてしまう強者ですからね。少し話しただけの婚約者と一年間を置くなど、忘れてくれと言っているようなものです」

「何!?」


 焚き付けるな、兄!!

 乗せられるな、王太子!!


 なんてこと。この国の王太子が、鬼畜お兄様におもちゃその二としてロックオンされております……。


「お待ちくださいませ……きゅうな訪問は困りますわ。せめて、次回は事前にお知らせください」


 一矢を報いようと足掻くわたくしに、王太子はぴくりと片方の眉を上げ、お付きの方を振り返りました。

「どういう事だ」

 意外にも、叱責の調子です。

「いえ、確かにお知らせしております。公爵家ご当主より、外せない会議がある由と、名代でご嫡男に迎えさせる旨、ご回答いただいております」


 ………………。


 ぎ、ぎ、ぎ、と振り返ると、そこにはお兄様の満面の笑みがありました。

 その輝く笑顔が全てを物語っております。


「た、大変失礼いたしました。こちらに連絡ふゆき届きがあったようで。心よりお詫び申し上げます」


 わたくしが謝罪だなんて!屈辱ですわ。

 王太子!何かを察したように憐れみの眼差しを向けないでくださる!?逆にムカつきますの!!


 ……ああ。考えてみれば、思い当たる節の多いこと。

 侵入者にも関わらず、様子を伺いにも来ない護衛。やたら身形を気にする使用人。すんなり開いた結界に、着陸現場に居もしない警備。

 そうなると問題は、お兄様が()()()()()()()聞こえる音量でほざいた、「領空侵犯」とかいう寝言。


 ……落ち着きなさい、アリア・クイン。

 お兄様ばかりを責める事は出来ないわ。

 寧ろ、何故信じたの?一国の王太子が、事前連絡もなしに突撃だなんて。

 ラノベの読み過ぎです。本人がやろうとしても、出立時点で火急の知らせが参りますわ。

 だって、町や平民のボロ家ならともかく、ここは公爵邸。不審船として迎撃しちゃったらどうするんですの?

 ――死刑ですわ。

 全員無傷だろうが、王太子の独断が原因だろうが、関係ありません。王族への攻撃、すなわち死罪です。それを赦せば、事故を装おった攻撃全てを許す事になります。

 王太子への教訓トラウマにする為にも、死刑一択です。

 警備だけじゃありませんわよ?公爵家全員が。

 だからこそ、周りが必ず知らせてきます。それこそ命懸けで、こちらに先触れを出します。


 ええ。だから、ぜぇんぶ庶民女が悪いんですわ。

 前世でそういう、突撃俺様攻略対象者様な話を読みまくってるから……!!


 と、必死で怒りの矛先を逸らしているわたくしの頭に、お兄様の手が、ぽんと置かれます。


「失礼をいたしまして申し訳ありません。どうか勘弁してやってください、王太子殿下。()()()()()()()()()()()()妹なので☆」


「……お兄さまぁあああああっ!!!」



 二度も醜態を晒すまいという、わたくしの努力も虚しく。

 怒髪天を衝くわたくしの声が、晴天に響き渡ったのでした……。


 ―――攻略対象なんて、みんな大っ嫌いですわぁ!!

王太子、とばっちり。

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