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14.王太子の突撃家庭訪問?前編

3.5人が我が道を行くと、収拾がつかないと知りました。

長くなったので、後編オチは明日投稿します。



 ―――攻略対象って、なんですの?



 わたくし、常々思っておりました。婚約破棄物の婚約者って、なんであんなにクズなのかと。

 いえ、原作無しの話ならいいんですけれどね。

 乙女ゲームの攻略対象だった婚約者。何故にクズなのかと。

 だって、設定にないでしょう?

 前世日本の女子が憧れる、ステキ恋愛対象な設定じゃあありませんの?

 正義感とか溢れて、人気者だとか言いません?ヒロインが迫害されるのも、女子の嫉妬ありきですわよね?

 ヒロインが術や薬で魅力してるとか、謀略で演技してるだけとか、現実になったら悪役令嬢一筋とか、まあ、悪役令嬢とは友情エンドで他とくっつくとか、パターンは色々ありますけど……。


 結局、ゲームのシナリオ通りに行動するのはクズって事ですわね?


 ――え?ゲームでは、悪役令嬢が悪辣だから?

 悪役無しで話を進めれば、溺愛か友情?強引にシナリオに合わせれば、クズとかアホとか謀略に?

 まあ、それも一理なくはないですけれど……。

 わたくし、声を大にして言いたいです。


 日本人女子の理想像がおかしい!!と!


 愛の為なら倫理も常識も吹っ飛ばす男の、なんと多い事か!!

 強引でヒロインの拒否もお構い無しの俺様とか、ヒロイン以外の人間とコミュ障のオタクとか、ほぼストーカーのヤンデレとか、前科山盛りの殺し屋とか、鬼畜ドS眼鏡おにいさまとか!

 もう、恋愛感情とか抱かれた時点で、人生終わりレベルの代物ですわよ!?

 そして、転生主人公(悪役令嬢に限らない)の、よくある台詞。


『二次元だから許されるけど、現実に遭うのは勘弁』


 そんなもんを国の重鎮に据えないでくださる!?

 生涯現実として付き合っていかなきゃいけないこっちは、迷惑極まりないんですのよ!!!


 わたくし、断言いたします。

 攻略対象とは、非常識ではた迷惑な生物であると!



   *



 クソいらんサプライズをかましてくれた王太子がタラップを降りてくるのを、臣下の礼で待ちながら。わたくしの内心は暴風雨です。

 一方、当主代理のお兄様は、ようやく地上に降りた王太子を、頭を垂れたまま出迎えます。


「ようこそお越しくださいました。尊き王太子殿下を、オブ=ナイト公爵家が歓迎いたします」

「うむ。皆の者、楽にせよ」


 お兄様のご挨拶に、王太子が偉そうに頷くのを、後方で神妙に待っているわたくし。

 できるのならば、転生悪役令嬢物の主人公のように、格好よくスパァンと殺ってしまいたいところですが……。

 そこは臣下の哀しさ。丁重にお迎えするしかありません。

 ああ……わたくしに、国王陛下も戦くチートがあったなら!!

 そんな事を思いながら顔を上げると、王太子は、呆気に取られたご様子で、お兄様を凝視してらっしゃいます。


「……ジュピター!?お前、どうしてここに!」


 一体何を言ってらっしゃるんでしょう?この王太子は。


「何かおかしな点がございますでしょうか?私は、いつも、アリアの傍におりますよ」


 嘘おっしゃい。いつもじゃないでしょう、お兄様。


 しれっとお答えするお兄様に、何故か目を剥いた王太子。

 こちらを向いたかと思うと、妙に下の方に視線を固定して、息を飲みます。

 と思ったら、急にずかずか寄ってきて、わたくしの手を掴み上げるではありませんか!

 ちょっと!マナー違反にも程がありますわよ!?


「これっ!ジュピターにもらったのか!?」

「……え、ええ。そうですけど?」


 わたくしの手に握られているのは、閉じたままの扇子。

 帆船でいらっしゃったのがどなたがわからなかったので、一応出してみたんですけどね……。


 こんなマナーのなってない婚約者の為に、わたくしが陰で礼儀を尽くす必要、ある!?


 怒りに燃えるわたくしに、王太子は謎の剣幕で詰め寄ります。


「なんで受け取ったんだ!!身に付ける物は、もらったらいけないんだぞ!?」


 ……へー。

 そうですのぉ。こんな小さな頃から()()を知ってるくせに、大きくなったら、婚約もしていない段階で、ヒロインに舞踏会用のドレス一式とか贈っちゃうんですのぉ。

 ドン引きですわぁ。


 ――え?ヒロインが用意できないんだから仕方ない?

 あなた馬鹿なの?お金だけ渡して、ヒロインに買わせるなら、ギリギリセーフなんですのよ。ヒロインが、自分に見合ったお店で買えばね。

 ……王族御用達でオーダーメイドした一級品を、男爵令嬢に着せる。

 誰がどう見たってバレバレ!!


 女性が、男性から、身に付ける物を受け取る。

 これ即ち“愛を受け入れる”というメッセージになりますの。


 それを、婚約も無理な格差カップルが、公式の場であからさまにする……。

 もはや一生囲うと宣言したも同然!!居合わせた人に、肉体関係すら疑われかねないレベル!!

 これを、ヒロインの無知に付け込んでやるですって?

 最低ですわ!!

 ――は?ライバルを牽制?独占欲?愛の証??

 それ、女性の名誉を踏み躙ってまでやる事ですの!?

 言っておきますけどこれ、前世で言えば、ベッドの上でのキスシーン……いえ、もう際どいところまで脱いで抱き合う動画を、顔出しでネットに上げるようなものですのよ!?

 そんなとこまで人前に晒すな!変態!!

 責任取ればいいってもんじゃないでしょう!

 その程度の常識も学ばないヒロインもどうかと思いますけど!やっぱり、攻略対象どもが下種すぎですわ!!!


「おい!聞いてるのか!?」


 そんなこんなな罵倒、まだヒロインと出会ってもない五歳児に向ける訳にもいかず、黙っておりますと。

 当然の事ながら、苛立った王太子にゆさゆさされます。


「聞いておりますわ。聞いておりますけれど……そのマナー、相手によりますでしょう?」


 さすがに、家族は例外です。

 家族のプレゼントでアウトなのは、下着くらいですわ。


 一体何を騒いでいるのかしらと小首を傾げるわたくしに、王太子は、どうしてか顔を真っ白にされまして。


「――お前!!駆け落ちする相手はいないと、言ってたじゃないか!!」


 はあ?


 ぶぐぉっ、という変な音が、お兄様の方から聞こえました。


「ア、アリア……。王太子殿下に、何を、吹き込んだんだい?殿下が、随分と、面白……お困りじゃ、ないか……」


 色々震え過ぎですわ。それで笑いを堪えてるつもりですの?


 「何を」って。

 そう言えば、無駄にへこんだ王太子に、わたくしだって駆け落ちくらいできるから気にするなとか励ました覚えがありますけれど……。

 兄と妹が駆け落ち?近親相姦ですの?たかが扇子をもらっただけで??

 ……ぶっ飛び過ぎですわ。


 なにやら、果てしなく嫌な予感がするので、お兄様は無視して、王太子に確認します。


「殿下……もしや、この扇子をごらんになった事がございまして?」

「ああ!ジュピターが、“大切な女の子へのプレゼント”だと言って、見せびらかしていたぞ!」


 ……そうですか。

 とても素敵な扇子です。艶やかな漆黒に、螺鈿のように金が埋め込まれた、精緻な彫刻。花の部分にだけ、一筋か二筋の赤い糸が織り込まれている、大輪の薔薇の、黒レース。見れば見るほど麗しい扇子です。

 お母様にもあらためていただいて、“美”と“気高さ”を意味する紋様の刻まれた、淑女が持つにふさわしい、それはそれは良い扇子だと、お墨付きをいただいていたのですけれど。

 それで安心してしまったわたくしは、まだまだだという事ですのね……。


 燃え盛る怒気に怯んだのか、王太子の手が緩んだ瞬間。

 わたくしは、一足飛びにお兄様に掴み掛かりました。


「お兄さまぁ!!わたくしが処刑されたら、どぉしてくれるつもりだったんですの!!?」

「ご、ごめ……!だって、“大事な女の子って妹かよ!”ってなるところで、まさか駆け落ち……カケオチ……!!ふぐぅ!」


 王太子を笑うな。不敬兄。

 破滅するなら一人でやってくださいませ!



「……え?兄妹?」


 どこからか間抜けな声が聞こえた気もしましたが。

 まさか、婚約者の家族構成も知らないとか言いませんわよね?

王太子は、齢五歳にして、つまに逃げられる悪夢にうなされている。

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