番外if・もしもアリアがお料理したら
今回メタではありません。ifです。
アリア様に厨房入りを全否定され、あえなくお蔵入りしていた手料理ネタです。
本編アリア様がすやすや寝ている間にお楽しみください。
アリア三歳、前世チートはまだ諦めない!です。
――他の前世知識が使い物にならないので、料理にチャレンジする事にいたしました。
まあ、同じ料理があるからって、味のレベルが同じかはわかりませんものね?
前世のレシピが素晴らしかったら、レシピ本とか書いてもいいかもしれませんわ。
「お嬢様、ここは貴族のご令嬢が立ち入られるような所では……」
「わたくしがやりたいと言っているのよ。通しなしゃい!わたくしの命令が聞けないの?」
立ちはだかる料理長を、一喝して退かします。
――なによ。あなたが言い出したんでしょう?
え?言い方?
知りませんわ。このわたくしが、どうして使用人に頭を下げなければいけませんの?
そんな事より、お料理ですわ!……って、なんで床が濡れてるんですの!?汚いですわ!!
ガチャガチャ器具がうるさいですわ!音を立てないのがマナーでしょう!?
ちょ、声が大きいですわ!男の怒鳴り声こわい!?
なんですのあれ!?肉?あれ生肉ですわよね?前世で見ましたけど、リアル生臭い!!ちょっと、切るんですの?切れるんですのそれぇ!!?
バキンて……。バキンて言いましたわ…………骨が。
「お嬢様……やはりお止めになった方が……」
「へ、へいきでしゅわ!わたくち、ぜんぜん!ぜんっぜん、へいきなんでしゅかりゃね!?」
……製菓スペースに辿り着くまで地獄でしたわ。
ひょろりとした感じの、まだ若い料理人が、クッキーの材料と共に待っていました。
「ちゃんと、用意したんでしょうね?」
「はい、勿論です。全部の材料の重さを量りましたよ」
……なんか苦笑してませんこと?
「なによ?」
「いえ、最初は誰でもそうですよね……」
ひょっとして、いつもは目分量でやってる?秤を探して全部量るとか、面倒だったってこと?
レシピ本はダメかしら……。
まあいいですわ。それなら、初めてとは思えないこのわたくしの料理の腕前で、驚かせてさしあげましてよ!!
「オーッホッホッホッホ!」
*
……なんて思ってた時期が、わたくしにもありました。
「くっ……なんで混ざらないんですの!?」
付き添いの料理人が、脱力した感じで笑っています。
屈辱ですわ!!
ボウルは支え難いし、泡だて器は握り難いし、バターが重いですわ!前世でやっていたのと全然違うじゃない!!
――え?正直すまんかった?
そうよね。あなたが三歳で使ってた料理道具って、ままごと用のミニチュアですわよね!?
三歳児に本物の調理器具なんて扱える訳ありませんわ!!
……結局、料理人が混ぜている泡だて器に手を添えているだけになりました。
挟まっているわたくしが邪魔なのか、前世のわたくしより手際が悪いです。
まだ……まだですわ!
砂糖や粉を入れるタイミングは、きちんとわたくしが見極めているんだから、少しは感心されているはず……!!
ちょっと厚さのムラが気になりますけど、生地を延ばしたあとは、わたくし一人で型抜きしましたわ!
「さあ、百七十度で、十分くらい焼いてちょうだい」
「百七十度!?お嬢様、体温計をかまどに入れるつもりですか?割れちまいますよ!」
「……え゛?」
かまどの温度、測れないの?
じゃあ、どうやって……え。勘?経験?火を見ればわかる??
そ……そうなの……。
「あなたに任しぇるわ……」
……焼きあがったクッキーは大して美味しくもなかったです。
庶民女が周りに施して日頃の感謝をとか言ってましたが、それ何の嫌がらせかと思いました。
二度とやりませんわよ!!!
料理人の戦場を、小さい子供がうろうろしてはいけません。
良い子の転生者は、一般的家庭の台所を借りましょう。