また出会う
「やぁ、お嬢さん。また会いましたね」
宿の部屋を出て食事処に向かってみれば、昼間に出会った例の男が席を一つ占領していた。
「だれなのです?」
「昼間出会った人だよ。教国の事色々教えてくれた人」
半ば無視するつもりで横を通り抜けるが、その間にまた声を掛けられる。
「よかったらご一緒しませんか? この通り席は空いておりますので」
たしかに彼が指し示す場所には3席の空きがある。
「えーっと……」
「別に構わねぇだろ。情報くれるってんなら悪い話でもないだろうし」
あー、情報くれるっていうかもう完全に内部の人なんだけど……
今は鎧も脱いでしまっているから、わかりようもないか。
それに確かにあの人の言うとおり、何かしらの情報が得られるかもしれない。
「じゃあお言葉に甘えて」
結局私たちはその誘いに乗ることにした。
「そういえばメルタさん以外には自己紹介がまだだったですね。私はミカル・ペルガメントと申します」
名乗る男は一礼してみせる。ボウアンドスクレープと呼ばれる型だ。
やはり貴族階級の出身なのだろうか。
「私はリーナなのです」
「俺はアランだ」
二人とも簡単に名前だけを名乗る。
「それでミカルさん、僕たちに一体何を聞きたいんですか?」
単刀直入に切り出す。
あまり遠回しに聞いても仕方がないと思ったからだ。
「まぁ焦らないでください。私は別に何かを疑ってついてきているわけではありませんので」
どの口がそういうのだろうか。僕としてはスパイ容疑持ってる説が第一位なんだけど。
「メルタさんから教国に向かわれると聞きまして。僕も仕事で帝国に来ているのですが、道中のご案内でもしようかと思いまして」
それはありがたい申し出だけど、それならばなぜ最初からそう言わなかったのか。
「まず最初に言っておきますが、僕も帝国に潜り込んでいるスパイというわけではないですよ。ただの帝国内の教会の視察役です」
なるほど、そういうことか。
あちこち動き回る予定の僕にくっついていけば仕事もできるというわけだ。
「ではどうして僕に声をかけたんですか?」
一番気になる点を聞いてみる。
「単純に興味があったんですよ。夕日の中、たそがれるお嬢さんに」
そういって僕の方をみて、ばちこーんとウィンクをしてくる。僕こういう手合い正直苦手なんだけど……
「あーと、そういう冗談は置いといて、本当に僕たちの旅についてくるつもりなんです?」
「えぇ、別にどこの教会を見回れ、という制限もないもので。まぁいわば騎士団に入団した人間に対する試練みたいなもんですね」
……うーむ。なんだろうこの微妙な気持ちは。
僕は彼を信用しきっていないけど、彼からは敵意のようなものを感じない。
だからといって味方であるとは言い切れないのだが……。
そんなことを悶々と考えていると、ミカルと名乗った男はパンッと手を叩いて注目を集める。
「とりあえず話は決まりましたね。では明日の朝出発ということでよろしいでしょうか? 」
結局彼の提案を断る理由もなく、そのまま承諾してしまった。
翌朝、僕らは予定通り帝都を出発して、西へと向かっていた。
「今日中に次の街に着く予定なんだよな?」
「うん。ここからだと5時間くらいかな」
一応地図を見ながら確認する。
「へぇ、意外に近いんだな」
「そうだよ。ただ、7か所全部踏破しようとすると結構時間かかるかなぁ」
そこらの観光地みたいにゆっくり観光しながら行くなら全然問題はないんだけど。できるだけ面倒ごとは早く終わらせたい。
「これだけの所を回るのは何か事情があるのですか?」
僕の広げた地図に記されたマーキングを見たミカルが声を掛けてくる。
彼にまで僕の事情を話すつもりはない。教国に報告でもされたら絶対厄介なことになるじゃん。
「色々あるんだよ。それとも教国の騎士さまは女の子の秘密も勘繰るのかな?」
「おっと、これは手厳しい」
そういいながら彼は肩をすくめる。
どうやら特に深く突っ込んでは来ないようだった。
しかしこうやって普通に接してみるとなかなかに面白い男だとは思う。
見た目は二十代前半といったところだろうか。
背は高くすらっとしていてアランよりも高い。髪は短めで、清潔感がある。
目つきは柔らかく、その瞳は少し青みがかっている。肌の色は白磁のように白く、唇は薄めのピンク色だ。
顔立ちは整っていて、どこかの貴族と言われても信じてしまいそうなほどだ。
ただその表情はいつも微笑んでいるようで、それがどことなく胡散臭さを感じさせる。
そして何より、
「…………ねぇ」
「どうかしましたか?」
「あんまりじろじろ見ないでもらえます?」
「あははは。申し訳ありません。あまりに美しい方だったのでつい」
この歯の浮くようなセリフだ。
正直ここまで言われたのは初めてかもしれない。だが、こういう手合いは裏に何かあると相場が決まっている。
「……」
「おやおや、無視しないでくださいよ」
無言を貫く僕にミカルは困ったように笑う。
はぁ、とため息を一つついてから僕は口を開く。
「別にあなたが怪しいって思ってるわけじゃないんだけど、態度がすっごい胡散臭い」
思ったままのことをストレートに伝える。
「うーん、これでも私の素の姿なのですが……」
「あっそ」
適当にあしらう僕に対してなおも笑顔を絶やさない。
なんか調子狂うなぁ。
「でも実際、笑顔で近づいてくる奴ぁ詐欺師か犯罪者と思えっていうしな」
「心外ですね。私は皆さまとお近づきになりたいだけですよ」
そう言ってわざとらしく眉を下げる。
「ま、別になんでもいいんだけど。それより昨日の話の続きだけど、どうして僕に話しかけてきたの?」
僕は気になっていたことを聞いてみた。
「あぁそれですか。単純な興味本位ですよ。あんなところで一人黄昏ていたら気になりません?」
「いやまぁそうかもしんないけど。そもそもなんで声かけようと思ったの?」
「んーそうですねぇ。実は私、昔から人を見る目は確かなんですよ」
そういってミカルは続ける。
「一目見ただけでその人がどんな人物なのかわかるんです。それで、あなたのことは一目見て気になったんです。だから話してみたいなぁと思いまして」
……なんだそりゃ。
自分で言うのもあれだけど、そんなの信じられるか。
「……ちなみにどういう風に見えたのか聞いてもいい?」
「えぇもちろん。まず最初に驚いたのはその容姿ですね。帝国では珍しい赤髪に赤い瞳、それにあの美貌。正直驚きましたね」
「……」
何を言ってるんだろうか、こいつは。僕の髪色がそこそこ珍しいのは知っているけど美貌? 僕の顔は平均的なのは僕が一番よく知ってるよ。
歯の浮くようなセリフとはまさにこのことだろうか。というか、そんなことを言い出したらリーナの方が美人だし……。
「それに身のこなしから冒険者かな、と思いまして。冒険者として帝国を動き回るなら私もご一緒できますし、教国を目指しているなら道案内もできる、そう考えたまでですよ」
「それで、あなたにとってメリットはあるの?」
「もちろん。だっていくら試練とはいえ、一人旅とは寂しいものでしょう? 旅は賑やかな方が楽しいというものです」
「……なるほどね」
どこまでが本当かはわからないけれども、その気持ちはわからなくはない。
とはいえ、その恥ずかし気もなく人に浮いたセリフを言うのはどうかと思うけれども。
それからいくつかの会話を交わした後、夕方には目的地のラキアンの街に着いた。
「ふぅ」
夕食とお風呂を終え、ベッドに腰掛けて一息つく。
今回は部屋は2部屋にわけることにした。さすがにあの胡散臭いのと一緒の部屋は遠慮したかったからだ。
幸い部屋を分けた分片方の部屋代は彼が負担してくれるそうで、これ幸いと男部屋と女部屋にさせてもらった。
「なんか変な人ですけど、悪い人ではなさそうなのです」
「リーナとは普通に話してたもんね。なんで僕にだけ妙に距離が近いんだか」
「きっとメルタの魅力にメロメロなのです。アランにライバル登場なのです」
別にそれであまり興味ない人間に何いわれても、うれしくはないんだけど。
アランはそれをどう思ってるかは知らないけども、今日は一日静かだったなぁ……
さすがにあの男のいる前でこう、くっつくのも変な話だとは思うからしばらくは我慢してもらうしかない。
くっついとけば虫除けになるんじゃぁって? 人前でべたべたするのってやっぱり恥ずかしいじゃないか。
「それじゃ明日もあることだし、そろそろ寝ようか」
僕は部屋の灯りを落としながらそう言った。




