恋愛はVRゲーム世界の中で
「はあ……」
ため息が漏れる。
VRゲームによる恋愛ゲーム世界。
現実では出来なかった素敵な恋愛を夢見て始めたのだが。
「こんなはずじゃ……」
目の前に広がるVRなリアル。
それに打ちのめされる。
RPGなどが主流のVRゲーム。
その中にあって、恋愛を主眼に制作されたこのゲームは珍しい部類に入った。
内容はというと、プレイヤーに複数の恋人候補キャラがあてられる。
それらとのふれあいをもとに、最終的に相手を決めるというもの。
ギャルゲーや乙女ゲーの内容そのままというものだ。
ここは恋愛ゲームなので仕方ないだろう。
ただ、相手になるキャラクターはプレイヤーの好みにあわせたものになるという。
事前に好みを入力し、更にゲーム開始時に脳波を読み取る事で、限りなく理想に近いものが自動生成される。
売り文句の一つであったその機能は本当だった。
このゲーム世界にやってきたプレイヤーの多くは、目の前に好みの異性(あるいは同性)がいるのを見て狂喜乱舞した。
しかし、大変なのはそこからだった。
「ねえ、今日はでかけようよ」
恋人候補のキャラが声をかけてくる。
よくあるキャラからの提案である。
これに応じる事で、好感度が上がっていく。
なので、基本的には受け入れた方が良い。
しかし。
今のプレイヤーにとって、それは苦痛でしかなかった。
出かけるとなると、金がかかる。
その金を入手するためには働かなくてはならない。
働くとなると、VR内でのこと、結構大変だったりする。
なにせ、実際に体を使って動かねばならないのだから。
そうして稼いだ金を使ってデートになるのだが。
そのデートで金を消費する。
消費した金を補充するために、働きに出なければならない。
その繰り返しは、プレイヤーを疲弊させた。
「生活のために働くのと変わらないじゃない……」
いつしかそんな愚痴をこぼすようになった。
目的が生きるためなのか、恋人候補のためなのか。
その違いしか無い。
しかもだ。
断れば断ったで、好感度が下がる。
それも、本命以外ならどれだけ下がってもかまわないだろう。
そう思うのだが、ゲームはそんな甘えを許してくれない。
本命以外の誘いを断り続ければ、本命の好感度も下がる。
断られた事を恋人候補同士で情報共有するからだ。
彼らは、「断られた」という事実を話し合い、「ひどいね」「あんまりだよ」と陰口をたたいていく。
そうして本命の好感度も下がっていく。
その為、好感度を高い水準で維持するためには、誘いを断れない。
可能な限り受け入れていくしかない。
幸い、好感度の下がり方は、断った本人以外はさほど大きくはない。
何回かのデートで回復可能な範囲だ。
だが、数人の誘いを断れば、直接断った場合と同じくらいの好感度低下を招く。
その為、本命以外にも好感度維持のために何人かの誘いは受け入れねばならない。
この好感度管理が大変なのだ。
誘いを受ければ金が飛ぶし、金を呼び戻すためには仕事をしなくてはならない。
ゲームの中においても仕事をし続ける羽目になる。
この仕事を恋人候補と共に出来れば、解決はかなり楽になる。
一緒の仕事をすれば、その分だけ好感度が上がるからだ。
なのだが、これはこれで手間と面倒がかかる。
恋人候補達も、基本的には仕事をしている。
そういう設定になっている。
プレイヤーはその仕事についていかねばならない。
職業選択の自由なんざありはしない。
それがプレイヤーでもこなせる仕事ならば良い。
なのだが、たいていの場合そうはならない。
王宮勤めの高級官僚だったり、大臣達の跡取りだったり、大貴族の御曹子だったり。
はては大商会の跡取りや若手幹部、国一番の工房の腕利き職人だったり。
英雄と呼ばれる凄腕の魔物狩人、いわゆる冒険者だったり。
とにかく全員が高レベルである。
そんな者達と共に仕事をするとなれば、プレイヤーもレベルを上げねばならない。
このゲーム、プレイヤーにも様々な技能がある。
日常生活に必要なものから戦闘に用いるものまで様々と。
それらのレベルを上げていかねば、とても恋人候補のキャラクターと肩を並べる事は出来ない。
そのレベルを上げるには、仕事をこなすことで得られる経験値が必要だ。
しかし、それだと従事してる仕事に関わる技能しかレベルが上がらない。
恋人候補の仕事に関わらないものがあがる可能性が高い。
ならば、恋人候補のしてる仕事を職業にすれば、という事にもなるが。
既に述べた通り、相手の職場は普通ではない。
高いレベルが求められる。
そんな所にレベル0の素人状態でいけば、失敗続きとなる。
経験値は手に入らず、恋人候補の好感度も下がる。
そういった場合に備えて、訓練施設というのもある。
これはあげたい技能の経験値を得るための施設だ。
ここでなら、レベルを上げたい技能の経験値を手に入れる事が出来る。
しかし、この訓練には時間と金がかかる。
訓練としてこなす作業に成功する必要もある。
失敗し続ければ、当然得られる経験値も低くなる
なのに、訓練所での作業も結構難しい。
馴れればある程度成功するようになるのだが。
そうなるまでは、得られる経験値が低い状態が続く。
そのくせ、授業料は結構お高い。
そんなわけで、好感度を保つならば、基本的にはお誘いを受けねばならない。
でないと悲惨な事になる。
現実には存在しない理想の恋人。
それを求めてやってきたのに、それを失う事になる。
だから誘いは断れない。
どんなにつらくても苦しくても。
だったら現実で頑張ればいい?
ゲームに時間を費やさず、現実で時間を努力にあてるべき?
そこまでゲームで努力できるなら、現実でもやれるだろう?
そう思う者もいるかもしれない。
だが、それが出来たら苦労しない。
現実では誰にも全く相手にされない。
持って生まれた外見・容姿も。
培ってきた知識や技術も。
磨き上げねばならなかった人間性も。
その全てがない。
ただでさえ、年齢的にもういってしまっているから、かけるべき時間もない。
そんな状態で頼れるのは、もうゲームだけ。
ゲームでなら、素敵なハンサムからかわいいシャイボーイまで群がってきてくれる。
仮想であろうと、そんな現実を手放せるわけがない。
「わたしには、もうこれしかないのよ……」
悲壮な覚悟と決意と諦めがプレイヤーに覚悟を促す。
現実で頑張ればいい。
それは確かにそうだろう。
だが、頑張っても報われない。
それも現実なのだ。
現実で頑張れればいいなら苦労はない。
いや、頑張る事は出来るだろう。
その結果が求める状態に至らないのだ。
ゲームならそうはならない。
確かに多大な努力は必要だ。
だが、努力に結果と成果が結びつく。
それを求めて、今日も多くの乙女がプレイヤーとして活動していく。
夢や幻でしかないハッピーエンドを求めて。
夢や幻でも、ハッピーエンドになれるのだから。
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