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踊り、踊らされ

作者: yuno

僕には中学時代から付き合っている彼女がいる。彼女とは中学の部活が一緒でそれをきっかけに付き合うことになった。告白は僕からした。あのときのドキドキは今でも覚えている。一緒に下校することも多かったし、特に隠してもいなかったから校内でもそこそこ有名なカップルだったんじゃないかと自負している。自意識過剰だとは少しだけ思うけど。


高校は別々のところへ進学した。それでも家は近かったから頻繁に会えた。このままずっと一緒にいるのではないだろうかと思えるほど、順調な交際をしていた。僕のことを一番愛してくれた人だと思う。


だとしても僕らはまだ子供だった。高校が違うことで少しずつではあるが、すれ違うことが多くなっていった。将来よりも別れを意識するようになった。


それは彼女も同じ考えだったようで、突然連絡がきた。最近では回数も減っていたのに。


『別れたい。』

『そっか、ごめんね、俺のせいだよね。』

『ううん、そんなことないよ。』

『今まで、ありがとう。』


そう短い文章を何度かやり取りするだけで僕らの3年間は終わった。

今思えば、彼女はあのとき別れることを僕に拒んでほしかったのかもしれない。彼女は前からそういう子だったから。僕も別れを意識していた時期だったから特に悩まず、答えた。こんなときまで気が合ってしまうのだと思わず笑ってしまった。


それから彼女とは連絡をとっていない。一度も。




僕は最低だ。約3年間付き合った彼女と別れたというのに沈むのはほんの数日で、しばらくしたらケロッとして友達とバカ騒ぎしていた。まあ、高校生で実際バカだから仕方がない。残りの高校生活を楽しもうと決めた。


僕はやっぱり最低だ。同じクラスで気になる人ができた。別れてからそこまで時間はたっていなかったように思う。切り替えが早いのは長所なのか短所なのかわからないけど、男子高校生なんてみんなそんなものだろうし、男なんてみんな一律で最低な生き物なんじゃないかな。


その子は前の子よりも大人びていて、活発だった。バスケ部だったし。前の子は文化部で決して活発とは言えなかった。だから余計に特別に見えていたのかもしれない。


「柚菜ってかわいくね?」

「やっぱそう思うよな。」


仲のいい友達とよくこんな風な話をしていた。柚菜のことが気になり始めたのは周りからの冷やかしや、会話も理由だと思う。


そこから僕の気持ちが確実なものに変わったのは体育祭が原因だった。僕の高校ではクラスごとに分けられた応援団がダンスを踊って団全体を鼓舞する決まりがあった。これがいかにもという感じのイベントなのである。というのも男女ペアになって踊る曲があるのだ。高校生の体育祭っぽくて胃もたれしそうだ。


応援団なんて柄じゃないけど、やってみることにした。話のネタになりそうとか、表面的には当たり障りのないことを理由にして。でも、本当は柚菜が応援団をやると聞いたからだった。


曲やら振付やらを決めるダンス部がさらっと重要なことを言った。


「もしペアダンスで組みたい人がいたら言ってね。」


「!?」


野球部で仲のいい啓介と僕は顔を見合わせた。そんなことがあっていいのだろうか。たかが高校生のダンスで気になる人とペアを組ませてもらえるなんてそんなことがあっていいのだろうか。


「これはやるしかないな。」


僕と啓介の意見は互いの頭の中で妄想したのち、一致した。そのかわり、こっそりと。


クラスのダンス部に伝えると彼女はいたずらっぽく笑った。僕と啓介は照れ隠しで少し強がっていた。


ペアは希望通りに組まれていた。ダンス部の彼女は恋のキューピットなのかもしれない。上手く心をつないでくれるかはわからないけれど。


僕が柚菜と踊るのは有名な恋愛映画の主題歌。これまた何か縁がありそうだ。そのダンスはほんの一分くらいだけど、僕にとっては幸せな時間だった。触れる肩や背中、合わせる手、汗をかくはずなのになぜかいいにおいがする。こんなときでもなんとかして平常心を装う。顔に出てたかもしれないけど。本番のための練習なのに一生本番が来ないでほしいと思っている。しかし、無情にも本番はやってくる。




体育祭の柚菜はいつも以上に魅力的に見えた。普段は見えない色白の肌とか、暑さと興奮で赤く染まる頬とか。競技の真っただ中でも僕の視線は柚菜を追っていた。もちろん、競技は全力で取り組んだけど。


応援団が準備する。


(これが最後か…。)


そう思って少し肩を落としていると、


「最後、頑張ろうね。」


柚菜が近寄ってきて僕に言った。


「もちろん!ミスすんなよ。」

「こっちのセリフなんだけど!」


互いに笑ってはいたけど、なんだかいつものように話せなかった。

体育祭はクライマックス、盛り上がりは最高潮。近い距離でも声量を意識しないと聞こえないほどだった。

そして、僕らの団の出番が近づく。


「ねぇ…」

「ん?」

「最後にしたくない、付き合ってほしい。」


言ってから事の重大さに気づいた。

ついあふれてしまった心の言葉だった。




あの頃の自分は輝いていたんだと思う。限られた時間の中で、その時間を楽しんでいた。もう二度と戻ってはこない。柚菜とは今はもう連絡をとっていない。もちろん、その前の彼女とも。


だけど、今は便利な時代でSNSでその人が今何をして、誰と関わりがあるのかわかってしまう。柚菜もその前の彼女もとても幸せそうだ。特に柚菜は。


(僕は嬉しいよ、君が幸せなら。)


たとえ君の意識の中に僕がいなくても、僕はまだ踊れる。





ありがとうございました。

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