4話 コーヒーカフェテラスにて
官邸の離れの客室で一夜を過ごした日の翌日、「魔法研究所」で簡単な自己紹介を終えて、施設の中を案内されました。今は魔法研究所で昼食を取っています。食堂と少し離れた場所にあるカフェテラス。真昼の日光にあたらないようにお洒落なパラソルがかかっていて、白いプラスチックで出来た机と椅子。アイスコーヒーとパリッとジューシーなソーセージを、香ばしいライ麦パンで挟んだ料理に噛り付く。ちょっとスパイシーで美味しい!うう…。幸せ。
カフェテラスの席で同席している案内人は【結月葵】ちゃん。18歳の美少女。白衣を着ていますが、腰に剣を帯刀しています。ロック共和国は『剣と科学の国』ですからね。ちなみに私の故郷、アース王国は『剣と魔法の国』と呼ばれています。
私が剣に注視している事に気付いたらしく
「剣ですか。この国の人間は剣が義務教育なので、科学者の私も一応、帯刀しているんです。ちなみにこの刀は科学の力で『改』になっているので、非力な女性でも扱いやすいんですよ。特殊な金属で軽くしているんです」
と結月さんは言いました。
私でも扱えるんでしょうか。科学剣
「それいいわね。私も剣、使いたいし。アース王国も剣と魔法の国って言われているくらいだし、ただアース王国の剣って重いの」
「ちなみに”科学刀”は大量生産されていて、全国の武器屋さんで売ってますよ。もちろん、官邸前にも武器屋があるんで後で見に行きますか?」
いいですね。是非とも行きましょう。
ホットドッグにかじりつきます。
そしてコーヒーを飲み、またホットドッグをかじりました。
「私は最近、自分に失望しているの」
私は結月を見る。
「消えて無くなりたい」
「でしたら、私が開発した丸薬を差し上げます。安楽死用のお薬です。幸せな夢を見るかのように安らかに死ぬ事が出来ます。脳の中枢神経に働きかけて幻覚を見るんです」
結月が<安楽死用の丸薬>を差し出した。
私は何も言わずに『それ』を受け取ってポケットの中に入れた。さすが科学の国だ。そんなモノまであるんだ。
「ありがとう。一応、受け取っておくね。選択肢は多いほうがいいしね。でも結月ちゃんは私が死にたくなってきてるって言っているのに止めないんだね?」
「自殺は究極の自己否定です。鷹理奈さんは自分を否定したくなるような事があったのでしょう」
「うん。私は聖女として、世界の歪みと人間の在り方を正したかった。アース王国の人達は魔王さえ倒せば、世界は平和になると考えているようだけど私は違う。そんな脳筋じゃない。物事はそんな単純な事じゃないの。いい?結月。私達が真に向き合わなければならない問題についての話よ。それは貧困と格差、そして差別。それがない世界をつくるのが、聖女としての私の夢。なのに、それがガチホモ王子に潰されて、生きる意味を失ったの。分かる?」
「すいません、正直、政治のことは専門外なので詳しくは分かりませんがBLは好きですよ。鷹理奈様は恋愛経験はおありですか?」
「ええ。過去、何度か」
私は話します。
「積極的に誘惑するタイプなんです。私は。最初の出会いが『お前の魔法で家族を失った!』から始まって、別れの挨拶が『地獄に落ちろ!』ですからね。短い時間に出会いと別れを経験しているのです」
私は続ける。
「大方、私が魔物を倒す際に魔法攻撃に巻き込まれた人でしょうね。くすくすっ。ウルトラマンが怪獣を倒すとき、地面の下で生活している、ちっぽけな人間なんて視界には入りませんよねぇ」
「鷹理奈様、それは恋愛ではないです。恋愛とは人が人を愛するということですよ」
「愛する?私にはない概念だわ。存在は知ってるけど確認はできてない。必要ない。テストで満点をとるのに理解は必要?いいえ【正解】を書けばいいだけよ。本当に理解しているかどうかなんて誰にも分からない。宗教を見なさい。誰も理解していない。いい?大切なのは真理じゃないの。やさしい嘘で救われる人もいる。そのために私は聖女として、やさしい嘘をつき続ける。世界を照らし続けるために」