1話 大統領と会う
取り囲まれたレンガ塀の中にある広い敷地に、大統領官邸は建っておりました。アース王国の王城と違い、大統領官邸って感じです。
官邸にある、メイドの女性の案内により建物の中を歩いていきます。そして部屋の前に止まったかと思うと「こちらです」と言われ、私のみがその部屋に通されるようです。騎士団長と平騎士はその場で立って待ちます。
その部屋の中に入ってみると、「執務室」でしょうか?テーブルにはティーカップ、そしてエッグタルトが並べられています。もちろん、手をつける事はありませんが。そこで待つ事、15分。
三十代後半の男性がドアを開けてやってきます。黒のスリープのようなものを全身に着ていていました。
「おぉ、これはこれは、金髪の御嬢様。君が素敵な子猫ちゃんなのかい?」
この国の人間はセクハラが挨拶なのでしょうか?
「That's right、大統領様。私はアース王国の元聖女、鷹理奈でございます」
私が隣国の大統領の顔を知らないはずもないですね。1度、パーティの席で見た事はあります。話した事はありませんが。
「めちゃくちゃカワイイね。おじさん、萌える。だから“住む家”と”護衛”と給金”もつける」
「ありがとうございます。平民の身分にまで落ちた、この私にそのような賛辞と処遇に光栄至極に存じます」
「お行儀がいい。実によく躾が行き届いているようだ。ところで、そこの書状を見てごらん」
「はっ!閣下。こ、これは···」
なんとアース王国王子と私の弟の結婚式の招待状ではありませんか?大々的に結婚すると世界各国に宣伝をするのですか!!
いやいや言ってましたけど。普通は愛人にとどめておきますよね?世間体がありますからそれにそんな王国、世継ぎがいないので、戦争勃発の原因にもなりますし、他国からも舐められて、ますます国が滅びる原因にもなります。聖女を追い出すし、苦笑するしかありません。滅びの一途。順調に、今さら、戻ってきてくれと言われても『もう遅い』に近づいてますね。本当に苦笑するしかありません。
「おそれながら大統領閣下。この書状はアース王国王子と弟の結婚式の案内状でございます。我が国の恥を晒すようで、大変、心苦しいです。男同士で結婚だなんて自然の摂理に反しているとしか思えませんし、キャンプ教の<同性愛禁止>という事項を破っているわけですから、きっと早晩、神の怒りを買う事でしょう」
「いい事を言うな。マドモアゼルは。美しく、賢く、そして何よりも正しい」
大統領は威厳ある様子で微笑んだ。
この大統領の本職は科学者。魔法を使えないロック共和国の国民に、科学と剣の腕を磨く事を方針にしているらしい。よくみて見れば知的なイケオジかもしれない。
「ありがとうございます」
大統領はこの年でまだ独身。という事は、結婚すれば大統領夫人か。少しおっさんですが、見た目も十分、若々しいし、許容範囲とも言えなくは…。いや、駄目ですね。年の差がありすぎます。私は17歳ですから犯罪です。
少し妄想が過ぎましたね。
「ところで」
はい。
「俺とアース王国の王子はガチホモ仲間だったんだ。それをお前の弟がかっさらっていった」
結婚式の招待状を私から取り上げてクシャリと潰す。
が、ガチホモ仲間?!
「心情的には恋敵の姉だ。だが俺はお前の魔法に興味がある。だから生かしてやっている。それを忘れるな!」
は?
私の目が点になりました。
「あと、さっきの言葉、もう1度、言ってくれる?男同士の結婚なんて自然の摂理ってところからさ…。キャンプ教のくだりも、あと神の怒りがどうとかも言ってたな」
「ええええええええええええ??!!!!」
ガタガタ…震えて、声にもならない声が口の中から…ガタガタ、歯の根が噛み合いません。あががが。はぎゃー。何だそりゃあああ。この世はガチホモに支配されていた。
私の人生、どうなっちゃうの?