5話 騎士団長のお見舞い
目を覚ました。
ふかふかで柔らかいベッドの上だ。白い壁、消毒の匂い。恐らく、ここは【病室】だろうか。現状がどうなっているか把握しないと…。
カーテンが開いて、騎士が姿を見せる。気品のある凛々しい顔立ち、二十歳前後で中性的な顔立ちをしている。
「すいません。起こしてしまいましたか。今、医者を呼んできます」
美丈夫な騎士が医者を連れてくる。医者は『運動機能に障害が残る事も無さそうですよ』と言ってくれた。少し安心すると同時に、今、自分が置かれている立場が気になった。私の犯行だと疑われているんじゃ…。
「タカリナ様。私は騎士団長のユリエル。私の団に所属していた騎士が大変、失礼な事をしたと聞き及んでおります。心より謝罪させていただきたく存じております」
「私の事はどうでもいいんです。それよりも私に襲い掛かってきた平騎士さんはどうなりました??大丈夫ですか??私、怖くて、つい思いっきり雷の魔法を…」
すかさず言います。
私、少しヤバくないですか?
自分の証言がそのまま受けいられていると見るや否や、間髪入れずにこのセリフですからね。犯罪者の才能があるのかもしれません。あまり嬉しくない事ですが…。
「残念ですが、太郎は死んでしまいました」
騎士団長が無表情で言う。
その表情は堪えきれない悲しみを抱えているように見えた。
私も釣られて泣いてしまう。
「うわああああああ…私、人を殺しちゃったぁぁぁぁ。おかーさん!!!おかぁさん!!!!!」
取り合えず、こういう時は『おかあさん』って言いながら泣いておけばいいんです。大抵の事はどうにかなります。母親のいない人間はいないからです。
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それから3日後…。
ガタンゴトンッ ガタンゴトンッ
私たちは馬車に乗っています。
目指すは「大統領官邸」
「無理もないよ。お嬢ちゃんが死なせちまった平騎士は団長の親友だった男なんだ」
と平騎士が言った。
対面で座っている騎士団長がふさぎこんでいるのを見て、それとなく、他の平騎士に理由を聞いてみたのです。
えええ???なんて事でしょう。
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
かくなる上は自殺するしかない。
私はリュックに入れている短刀を取り出す。
そして、自分の首にあてました。
「うわああああんっ!!騎士団長の大切な人を手にかけてしまった!私はもう生きてられない!死んだほうがマシだ!」
首筋に刀がちょっと当たっている。あご下の近くの皮膚が切れて血がスゥーッと流れていく。さっきまでの静かだった馬車の空気が変わり、馬車内は騒然となりました。
馬車を止めるように指示をしようとする平騎士
他の平騎士もやたら動揺しています。
そんななか、騎士団長ユリエルだけは怒りをおしこらえるようにして言う。
「お願いですから、そういう演技、しないでいただけると助かります」
あまりにも強烈な怒気を感じたので、焦った私。冷や汗がにじりでる。これだけ真っ直ぐな怒りをあてられては「悪ふざけ」をする気も無くなります。
カランカランっと短刀が落ちる音が鳴り響いて、手から短刀が床へと落ちていく。それを見た、平騎士が慌てて、その「短刀」を回収する。
「ひ、酷い!あんまりよ。今にも喉を切り裂きそうな私に向かって…」
うっうっううう…。怖い目で私を見ないで。
私は片手で目頭をおさえて泣いちゃいました。他の平騎士はそんな私の姿を見て、呆気にとられて、騎士団長を責めました。
「団長、いくらなんでもそれは酷いでしょう。タカリナ様に謝ってください」
「申し訳ございませんでした。タカリナ様」
とユリエルはこっちを振り向きもせずに無表情にそう言った。