4話 野戦病院にて②
「野戦病院の病室」と言っても、ドアに入ってすぐのところにベッドがあり、グルグル巻きにされた重症者がそこに詰め込まれている部屋です。私は今、電撃で気絶した騎士と一緒にいます。ちなみに重症者だった6名の患者は、全員、心臓麻痺で、私に死亡が確認されました
私の名前は鷹理奈。アース王国の元聖女。王子様から婚約破棄されて国外追放されて、追放先の隣国、<ロック共和国>にて、早速、大ピンチを迎えております。どうすればいいのでしょう?詰んでますよね?この状況。
魔法は万能なようでいて、万能ではありません。実際、私は同性愛者の弟を治療できなかった。脳は電気信号によって成り立っている。ですから電気ショックで治療可能だと私は信じていた。その結果、弟は私を憎み、アース王国から追放した。両親からの依頼でやった事なのに。弟と話す機会があれば今度こそ心から謝罪がしたい。ごめんね。
ですが、今はそんな事を考えている状況ではありません。先ほども言いましたが、脳は電気信号で出来ている。雷は電気、今こそ雷の魔法で<自身の限界>を突破する時なのです。私は気絶している騎士の頭を持ちあげて、手から騎士の脳に<雷魔法>を流し込みます。
「あ゛あぁ゛!!」
目から血の涙を流して痙攣する騎士。
ど、どうした事でしょう。恐らく脳が焼き切れてしまったのです。白目を向いて死んでしまいました。
失敗です。当たり前ですよ。そんな付け焼刃でうまくいくほど、魔法はうまく出来ていないのです。脳の電気信号でうまくコントロールして、『今回の事件を忘れてもらおう』と思っただけなのです。
あああぁぁぁ。もう絶体絶命。なんて事をしてしまったんですかぁ!!私は!!
騎士の死体の傍に落ちていた剣が目に入る。
やるしかないのか。
安楽死させた死体の近くに置かれている銀の洗面器を取ってきて、〈氷魔法〉で水をつくり、〈炎魔法〉で沸騰させて、剣の切っ先を煮沸消毒する。
そして、ぐつぐつ煮立った洗面器の水に剣をつける。
死体だらけの部屋でそんな事をしている私はもはや、ホラーです。知らない人が見たら怖いでしょうね。私だってビビります。でもそんな事を言ってられません。
左腕にかけている<風のシールド魔法>も解除。
そして、ふーっ、ふーっと肩で息をする私。今、覚悟を決めました!!!
ええい!ままよ!!
剣が自分の肩に勢いよく突き刺さる。
肩に激痛が走る!!!
「きゃああああああああああ!!!!!」
半狂乱になった私の叫び声を聞きつけて、ドアに入って駆け寄ってくる医者と看護師。
「ど、どうされました?」
「こっちの騎士は死んでる」
「こ、この…この騎士が私に襲い掛かってきてそして、雷の魔法で反撃を…」
それだけ言うと、私は意識は朦朧となっていく。そのまま気絶した。