3話 野戦病院にて
「野盗とは言え、彼らは人間。出来れば殺したくはありませんでした。キャンプ様もこんな私をお許しにはならないでしょうね」
大抵の人はキャンプ教を信じています。なので私もキャンプ教の事を信じています。だからキャンプ教の事を口に出せば、大抵の事はどうにかなります。キャンプ教は弱者を守るための宗教なのです。
「キャンプ様は寛大な御方です。それにどうせ野盗どもは捕まれば縛り首ですよ」
と騎士に慰められます。
ポロン♪ポロンポロン♪ポロン♪
気をよくした私は調子に乗ってリズムを刻みます。
ここはロック共和国の入国審査の一室。部屋の中で、私はピアノを弾いています。ちなみに曲はラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』。
ピアノを弾くのを辞めて窓の外を見る。
この部屋から一歩でも出ると<ロック共和国>。王様がおさめる王国とも、貴族がおさめる公国とも違って、ここは平民の中から選挙で選ばれた大統領がおさめている国です。<自由と平和を尊ぶ国>と聞いておりますので、<平和主義者>の私に向いているのかもしれませんね。
そしてドアから出る
出た後に「ロック共和国の民」になったんだと、しみじみとする私。
「すぐ目の前の馬車にお乗りください」
と騎士に言われた。
なので、目の前にある馬車へと乗り込む。
「私はどこへ行くのですか?」
「アース王国の王子様にはこのまま平民として捨て置けなどと言われていますが、仮にも聖女様と言われた貴方にそのような扱いは出来ないと大統領様が住む場所と生活費を提供してくださるそうです」
それはいいですね。
ですが、うまい話には裏があるもので
「ただ聖女様の魔法で協力して欲しい事がありまして」
来た!
やっぱり無償というわけにはいかない。
「聖女様の魔法を見せていただきたいのです」
馬車が向かった先は<病院>
モンスターの被害で病院の数が足りないのか、医療崩壊の現状を目の当たりにしました。病院とは名ばかりの簡素な貧乏旅館の一室でした。ドアを開けると薄暗い部屋の中で、ベッドによこたわり包帯をグルグル巻きにされた人たちが嗚咽をあげています。医者でなくとも、彼らはただ死を待つだけだというのが分かるものです。その中で医者や看護師と思われる人間が走り回っていました。
騎士が医者と看護師に少しの間、立ち去るように指示すると、彼らは外へと出ていきます。そして騎士は私の方を見ます。
一体、私に何をさせるのでしょう?なんだか嫌な予感がしてくるのですが。
すると、騎士の人が私にペコリと頭を下げます。
「彼らは私と同じ騎士団の騎士たちです。貴方の魔法で彼らを救っていただきたい」
救う?
私は手をかざしながら、顔をひきつらせます。
「え?救う?」
『おぉ、聖女様ァ、お助けください…うぇぐっ』と言う、掠れるような嗚咽が包帯でぐるぐる巻きにされた重傷者から聞こえてきます。
「お願いします。聖女様」
騎士は必死です。
「え?でも…。本当にいいんですか?」
「お願いします。ここにいるのは私の戦友なのです」
「いいんですよね?」
騎士はコクりとうなずきました。
ええい!ままよ!!
<雷魔法>
手から雷撃を放って、重傷者の心臓に電撃の糸を通す!ビクンッと動いたと思うと彼らは目を見開いたまま動かなくなる。しばらくその様子を見ていた騎士が口を開く。
「え?今…何を?」
「え?だから苦しそうだから、安楽な死を…?
え?私、何かやっちゃいました?」
騎士の顔がみるみるうちに青ざめていく。
「ま、魔女だ!!魔女だ!!」
えええええええええ???
「魔女だ、誰か来てくれぇえ!!」
<電撃魔法>
言うか言わずかの一瞬で、騎士の身体は痺れたかのように跳ねて、動けなくなり、地面にはいつくばります。風魔法の<凪>で外部との防音効果のある風の壁をつくる。これで風の壁の外側には話声が漏れない。そして痺れている騎士を揺り起こす。
ユッサ ユッサ (揺さぶる)
「痺れていますね。私の質問に答えて下さい。貴方はこの私に何をさせようとしていたのですか?」
「あ…?あ゛…」
駄目です。駄目みたいです。少し雷魔法の威力が思いのほか、キツかったのでしょう。気絶しています。ドアの外には医者と看護師も待っていますし、状況から察するに絶体絶命みたいですね。ロック共和国に来て早々、病院に来てこのような事が起こるなんて信じられません。
旅館の部屋の一室です。医療崩壊が起こってます