2話 野盗の襲撃
馬車に揺られて行く先は何処。聖女である私が罪人のように国外追放処分を受ける事になってしまいました。聖女であり、「名門ハインベルト家」のご令嬢である私が何でこんな目に合うのでしょう?
窓から見える光景はいつもと変わりませんが、私には暗澹たる未来が広がっている気がします。
同性愛者だったんだ。王子様。
金髪碧眼で可愛らしい私の顔が窓に映ります。同性愛者にこの私の魅力が分からないのは当然ですね。
まさか弟が原因で国外追放される事になるとは。トホホ。自分が蒔いた種とはいえ、自業自得というやつかもしれませんね。しかしそんな事を考えていても意味は無いですし、気持ちを切り替えていきましょう。
まず、私は鷹理奈。17歳。元聖女にしてアース王国の王子の元婚約者。肩書きに元が多いのはこの際、気にしない事にしましょう。ちなみに私が聖女と言われる所以には“全属性”の魔法を使える、稀有な存在という事があげられます。土、風、炎、氷、雷、この世には基本的に5属性の魔法があって、私はどの魔法も達人級なのです。基本的に万能です。
どんな魔物も私の前では紙クズ同然。
しかし私自身は脆い。毒を盛られたら死にますし、剣を一突きされただけでもあの世行きです。「生身の肉体」だと言っていいでしょうね。兵隊に充分な警護をされたうえで魔法攻撃を放つ事で強大な魔物を撃退できるのです。だから兵隊さんたちにはいつも感謝をしています。
「王国を取り囲んでいる壁」の外を出て、馬車はぐんぐんと前へと進んでいきます。
そして国境の付近にさしかかりました。
私はその間、本を読んでいました。キャンプ様が残した膨大な資料のうちでも難解な著書です。キャンプ様というのはこの世界の最大の宗教で、彼は何と私達とは違う世界から来たそうで、これでも私は大学でキャンプ様のいた『異世界』について勉強していたんです。
本を読みながら欠伸をしていると
ガクンッツ!!!
「ヒヒッヒヒーンッ!!」
馬の鳴き声と共に、馬車がガクンっとすごい音がして止まりました。
椅子から立ち上がって「な、何事?」と焦って、前にある布をめくって御者のほうを見てみます。
御者が矢に射抜かれている!
ええ?!
し、死んでる?!
何者かに襲撃されたようです。
私を護衛している兵隊さんが私を取り囲みます。
「タカリナ様、どうやら野盗の襲撃にあったようです!馬車の外は危険です。ここにいてください」
や、野盗?
王国の兵隊が外に出て、悲鳴が聞こえます。
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
ええ??何が??何があったんだろう??
私は馬車の外に飛び出す。
どうやら兵隊たちが野盗と戦っていて、敗戦濃厚の様子。
でも安心してください。
私には「風のシールド魔法」が常に「自分の周り」にかかっています。これは、いかなる攻撃からも私の身を守ってくれるのです。横転した馬車の屋根の上に「よいしょ」っと登って、ぼんやりと戦いの行方を見守る事にしました。
「高みからの見学といきますか」
戦いを見物していると、野盗に追い被られて兵隊が追い詰められています。そしてこっちに気づきます。
「助けて下さい。聖女様」
当たり前です。
人を助けるのが聖女なんですから。
たとえ婚約破棄されて、聖女をクビになったとしても私は人を助ける事を辞めませんよ。
<火炎放射!>
「ぎゃああぁぁ!タカリナ様ァ」
指先から放射される火炎に野盗たちと一緒に味方の兵隊さんが炎に包まれてしまいました。
周りは一帯の森が、火の海です。
兵隊さんは野盗に追い被られていたので、野盗に攻撃ようと思って攻撃したら、味方の兵隊さんにも火が乗り移ったのでしょうね。
なんて事をしてしまったのでしょう。
私だけはこの炎の中でも無事でした。風のシールド魔法が私の身を守ってくれていますし、そもそも私は「魔法攻撃」そのものがデフォルトで「無効化」されるのですからね。
それでも心は大丈夫ではありませんでした。
ショックのあまりに呆然としている私。
「やってくれたな。姉ちゃん」
炎に包まれながら野盗が私に剣の切っ先を向けて、振り下ろす。
ギィィィンッ!!
その瞬間、私の周囲を回転している風のシールド魔法が野盗の剣を腕ごと、引きちぎっていく。
「ぎゃあああああ!!!」
これが「風のシールド魔法」です。
私に危害を加えようとする攻撃から自動で守ってくれます。かまいたちのような鋭さを持つ<回転運動>なのです。
「あばばばばばっ!!」
ゴロゴロ ゴロゴロ(転がる音)
血しぶきをあげる手を抱えながら、声にならないような悲鳴をあげる野盗。更には地面の火にくるまれれて、火だるまとなり七転八倒しながら地面を転がっていく。
「これでは先が思いやられますね」
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図から始まった、私の旅路、これからどうなってしまうのでしょう?
恋愛になるまで少し時間がかかるかも