表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/19

愛の勝利

「来い!私が相手だ!」


 私の挑発を合図に、シャザードから攻撃魔法が、こちらからは迎撃魔法が発動した。互いへ向かって、真っ直ぐに魔力の光が伸びる。


 私は金色で、シャザードは赤。だが、魔力の差か、経験の差なのか、私には防御するだけしかできない。これでは、勝てない。


 そのとき、少しだけシャザードの注意が逸れた。その理由は、私にも分かった。

 ほんとうに微かだったが、粉塵の向こうから私の魔力を感じたのだ。


 これは。この魔力は。この気配は……。


「殿下!」


 それはクララだった。彼女は両手でナイフを構え、そのまま体ごとシャザードに突進した。

 いや、違う。あれはナイフではなくて、髪に飾る簪だ。


 そして、彼女の髪飾りには私が渡したペンダントが付けられていた。魔力はそこから感じられたもので、それがシャザードの判断を一瞬だけ遅らせた。


 もちろん、素人の攻撃がシャザードに届くわけもない。クララは防御魔法にあたって跳ね飛ばされた。

 僕の目に、彼女のペンダントが砕け散るのが映った。


 それでも、シャザードは攻撃中に不意をつかれて、精神にわずかな乱れを生じた。

 そして、その微細な動揺が、魔法の制御に一瞬の隙を作ったのだった。


「くそっ!身の程知らずが邪魔を」


 シャザードがクララに気を取られた瞬間、私はセシルに向かって叫んだ。


「今だ!」


 セシルから全魔力を込めた攻撃魔法が放たれ、シャザードの肩を貫いた。

 心臓を狙ったはずだったが、シャザードはギリギリのところで急所を外すべく身を翻した。


 だが、その衝撃で私への攻撃魔法が止まった。左肩から血を流すシャザードの目は怒りに燃えて、セシルを捉えていた。


「きさまら、女の分際で、よくも…」


 セシルに向けて攻撃魔法が放たれた瞬間、私は彼女の前に立ちふさがってシールド魔法を張った。

 なんとか直撃は防げたが、先程の攻撃よりも魔力が強化されている。


 私の残り魔力は少なく、もう長くは持ちそうにない。魔力も体力も限界が近づいている。


「クララっ!逃げろっ!」


 私の声に反応して、シャザードがクララを見た。クララは狙われた獲物のように、身動きができなくなっていた。


 クララが攻撃される!間に合わない!


 私がそう思った瞬間、後方から一直線のまばゆい閃光が走り、強力な攻撃魔法がシャザードに向けて発射された。

 私たちとクララ、二方向への魔法を出すために、シャザードの注意力が一瞬散漫になった、その隙きを狙った攻撃だった。


 稲妻のような鋭い光が、後方からシャザードの心臓を貫いた。シャザードは胸を抑えて膝をつき、口から血を吐いた。そして、不気味な笑みを浮かべて言った。


「きさま、生きていたのか」

「ああ。待たせたな」


 シャザードは嬉しそうにくくっと笑うと、さらに血を吐いてそのままその場に倒れた。

 後方から黒い魔道士のマントを来た人影が現れた。


「レイ!無事だったのね!」 


 私の後ろにいたセシルが駆け出した先には、確かにレイがいた。

 衣服はボロボロで、体中に傷を負っていたが、それはレイに間違いなかった。


 抱き合うセシルとレイを見て、私はクララへ駆け寄った。クララは目の前で起こったことへの恐怖で立ちすくんでいたが、私が抱き寄せるとふっと力を抜いて体を預けてきた。


「クララ。無事でよかった」

「殿下も」


 胸にすがりついて震えるクララを、私は強く抱きしめた。腕の中に感じる体温に、クララが生きていることに、私は彼女を守ってくれたものすべてに感謝した。


「シャザードは、死んだのですか?」


 私の腕を解くと、クララは倒れているジャザ―ドのほうを見て言った。

 その周囲には血溜まりができていて、レイがシャザードの胸に手を置いて、瞼を閉じてやっているようだった。

 少しだけ震えるその肩に、セシルがそっと寄り添っていた。


 シャザードはレイの師で、共に西の賢者の弟子だった。かつては同じ志を持ったものだ。

 なぜ、袂を分かつことになったのかは知らない。それでも、共に過ごした時間には、相手を偲ぶだけの価値はあったのだろう。


「クララ、見なくていい。君には、こんな血なまぐさい世界を見せたくないんだ」


 私がそう言うと、クララは首を振ってこう答えた。


「殿下の見るものなら、私は何でも見たいんです。殿下の聞くものを聞いて、殿下が感じることを感じて。殿下と同じことを知りたいんです」

「クララ……」

「大丈夫です。私、案外図太いんですよ!先輩は、アレク先輩なら、知ってますよね? だから、多少のことではへこたれません!」


 それは知っている。彼女が、いつでもどこでも頑張ってきたことを。

 なかなか馴染めない学園でも、いつも無理をしながら、それでも前を向いて努力していたことを。


「そうだね。知ってる。君はずっと頑張っていたね」

「でしょう?だから、王宮暮らしにも、きっとすぐ慣れると思うんです」


 君は王宮を出て、もう戻ってこないはずだろう。そう不思議に思うと、クララは笑ってこう言った。


「先輩は、心配性なんですよ!自分がぬくぬく育ったからって、私まで真綿に包むみたいに扱わなくてもいいんです。私は野生児ですからね!もし、王宮で誰かに意地悪されたら、ちゃんと顔パンチしますから!」


 王宮で顔パンチ! 私は思わず笑ってしまった。そんな私を、クララは嬉しそうに見ていた。


 クララは何があっても変わらない。ずっと太陽のように、明るく輝くだけだ。この子の伸びやかな気質は、きっと生涯、損なわれることはないだろう。


 クララは私の手を取って、真っ直ぐにこちらを見つめた。その目は真剣そのものだった。


「だから、私を、殿下の後宮に入れてください。辛いことなんてないですよ。絶対に大丈夫!だって、殿下がそばにいるんでしょう? 手のかかるご主人さまのお世話は忙しくて面白くって、きっといつもいつも笑ってばかりいると思います」

「クララ、それは……」

「私を側室にしてください。絶対に殿下を、笑顔にして差し上げますから!」


 そういって、クララは満面の笑みをうかべた。そして、私は、そんな彼女を抱きしめずにはいられなかった。


 私が愚かだった。彼女を手放すことなんてできない。私の選択は間違っていた。


 クララは、私の命だ。何があっても、彼女となら生き延びられる。生き残ることを諦めないでいられる。生きて戦い抜く力が持てる。

 生きること。それが勝つこと。死んでしまえば、戦うこともできない。

 彼女がいなかったら、私は自分の命に執着しなかった。命を惜しまないものが、命を守れるわけがない。


 王族に必要なのは、命を捨てる覚悟ではなかった。愛するもののために生き延びたいという、命に対する執着だった。それが大事なものを守る力になるのだから。


 私たちはそのまま口付けを交わした。それはお互いがお互いを求めることを確認するような、深い愛の証だった。もう誰にも、私たちを引き離すことはできない。


 そして、それはセシルとレイも同じだったと思う。愛し合う者たちを別つのは、死のみ。それでいい。それでいいんだ。


 そして、クララの案内で、私たちはヘザーとローランドの元へ急いだ。

 しっかりと手を握り合う二人は、もう意識はなかったがまだ息があった。


 私が救命魔法をかけ、カイルをかついできたレイが、出口を塞ぐ落下物を取り除いた。

 出口の外側には私が魔伝で呼び寄せた救護員たちが待機していて、ローランドとヘザーを担架に乗せて運んでいった。


 そして、その後から現場の救護と敵の身柄拘束のために、騎士や兵士が会場に入っていった。


 けが人は多数出たが、死亡者は北方の魔術師シャザードのみ。

 予定通りではなかったが、この夜をなんとか無事にやり遂げたと言っていいだろう。


 そして、私はついに、王族の宿命に勝った。人として、幸福を望める人生を手に入れた。


 そう実感したのは、あの夜から1ヶ月ほどが過ぎた頃、私の腕の中ですやすやと眠るクララの寝顔を見たときだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ