第4章
『始まりました、第66回 全日本アマチュア双六選手権決勝戦!
実況は私、下池 段、解説には過去に本大会で優勝経験のある
現役プロ 雪原 優斗先生をお呼びしております。
雪原先生、本日は宜しくお願い致します』
『こちらこそ宜しくお願い致します』
会場のボルテージは既に最高潮。
決勝を見守るためだけに集った、五千人を超える観客の熱気が凄まじい。
『待ちに待った決勝戦当日となりましたが、雪原先生いかがでしょう?』
『決勝メンバーは、プロと変わらない実力をお持ちの方ばかりですよね。
優勝者は賞金300万円に加えて、いきなりのプロ昇格ですから、
皆さんかなり意気込んでいると思いますよ』
『その通りですね。それでは早速、熾烈な激戦を潜り抜けて
決勝戦まで勝ち進んだ三人を迎え入れましょう』
会場が波打った。いかに双六という競技が現在、人気沸騰しているかが分かる。
ここから、実況者が出場者の名前を一人ずつ読み上げていく。
『一人目は、ギャンブル依存症に陥り、金も家族も失った。
だがしかし、今年で46歳無職のこの男は、
一年前に出会った双六を唯一の武器に携えて
地獄の底から、いざ這い上がり! 武坂 雄三!』
選手入場口から大量の炭酸ガスが噴射される。
流れる煙からは、経歴にそぐわない整った格好をした中年男性が現れた。
「気合いは十分、今日も一発当てたるでぇ」
『二人目は、天才以外に呼びようがない。
双六の英才教育を受け、幼少期から数々の賞を総なめにし、
その名を全国に轟かせた。
17歳にして、あとはプロ昇格を残すのみ! 安室 源治!』
次は、秀一と同年齢の青年が登場。
彼は特に何も言わず、ただ観客席に向かって一礼した。
遂に秀一の順番が。
『三人目は、言わずと知れた伝説的選手である大和田 太郎の
最強遺伝子を受け継ぐ。公式大会初参加ながら、
破竹の勢いで決勝戦まで駆け上がってきた! 大和田 秀一!』
観客に拍手で迎えられた彼が覚えているのは、不安や緊張感だけではない。
どういう訳か、今まで抱くことのなかった期待という感情が、
心の隅に生まれていた。
大勢いる来場者の中から、秀一に手を振る人が目に入った。
「あ、東島さん!」
東島のにこやかな笑顔は、張り詰めた彼の心を瞬く間に内側から解す。
そして、彼女の隣には、太郎の姿があった。
「じいちゃんも来てくれたんだ……」
試合がまだ始まっていないのにも関わらず、秀一は頬に涙を感じた。
いや、ここからが勝負だと、彼は右腕でそれを拭う。
『選手が出揃いましたので、改めて開会宣言をさせていただきます。
只今より、第66回 全日本アマチュア双六選手権決勝戦スタートです!』
秀一は歓声を背に受け、瞳を閉じ、覚悟を決めた。
お遊び感覚ではなく、本気でこの勝負に、いや双六に向き合うと。