人類最強の剣士
後日、会合と研修を経て、俺たちは魔王領へ向けて出発した。高位の冒険者たちばかりを集めた先遣隊だ。先遣隊の任務は、魔王城までの最短ルート上にある障害、モンスターをできるだけ取り除くことだった。
「といっても? 魔王は誰かが殺しちまって、幹部も後を追ったんじゃ、大した脅威はないだろ。そうですよねぇ? マカさん?」
一人の大柄な男がマカに同意を求めてきた。俺が魔王エルディムを討ったという事実は、幸い知られていないようだ。
「そうとも限らないわ。道中、未知のモンスターや、幹部に匹敵する実力者と遭遇する可能性もある。気は抜けないわ」
「へぇ、さすがは人類最強。真面目ですねぇ。ま、俺は小金稼ぎができればいいんで、適当に流しますがね」
「言ってる場合? あれを見ても同じことが言える?」
「え?」
見ると、遥か遠くの岩肌が、ゆっくりと剥がれていくところだった。黒っぽい岩肌は徐々に透明に変わり。やがて純白の輝きを放つに至った。
「何だ……あれ?」
「見て分からない? クリスタルドラゴンが擬態を解いたのよ」
クリスタルドラゴンは、岩肌など周囲の環境に合わせて身体の色を保護色に変えることが出来る。通りで今まで気づけなかったわけだ。
だが、真に恐ろしいのは、クリスタルドラゴンでさえ擬態して身を守る必要があるほどの天敵がいるということだ。
この魔王領は、魔王亡き後もやはり危険だ。それも常軌を逸して。
「クリスタルドラゴンだ!」
皆口々に歓声を上げる。
「悪いがこいつは俺たちの獲物だ!」
「マカさんの手を煩わせるまでもねぇ!」
そう意気込み、男たちはドラゴンの弱点たる首めがけて攻撃を浴びせる。
「バカ、そんな意図の見え透いた攻撃じゃ……」
マカが叫ぶより早く、男たちの武器は鋼鉄のような硬さを誇る首に弾かれた。彼らは、一秒と経たないうちにクリスタルドラゴンの剛爪の餌食となった。血の雨が降り注ぐ。
「くっ、バカが」
「これが……魔王領……」
前に来たときは3分で踏破したので気づかなかったが、ここはとんでもない魔境のようだ。まぁ、魔王領なのだから当然なのだろうが。
「五秒で終わらす!」
マカが剣を右上段に構える。
これは……本気でやるつもりだな。
直後、弾丸のようなスピードで飛び出したマカは、迫る敵の腕を三等分に切り裂いた。そして、真ん中の腕の破片を蹴り飛ばし、再生を阻害する。そのままクリスタルドラゴンの上あごを蹴り上げて強引に口を開かせ、舌を切り裂き、喉に押し込んだ。沈み込む舌根によりクリスタルドラゴンは窒息死した。
目にも留まらぬ早業。これが人類最強か。