緊急クエスト
マカはそんな不吉なことを言ってきたが、俺は大して気にしなかった。
翌週。
ついに魔王討伐の事実が公表され、各国の魔王領への進出が始まった。俺たちの済むカルネス王国と、隣国のオレイン皇国だ。現在停戦状態にあるこの二国は、間違いなく魔王領に眠る天然資源や財宝を巡って争うだろう。
「マカはまさか、世界平和のために動くつもりなのか?」
王都へ向かう馬車の中で、俺は問う。人類最強の力を以てすれば、この二国の争いを止めることも可能だろう。
「いや、そんな大層なことはしないわよ。国同士のことは、両国首脳の判断に任せるべきでしょ。そんなことより、私たち冒険者の仕事は、魔王軍の残党を狩ること」
「それもそうか」
幹部以外にも、魔王軍には厄介なモンスターがいると噂だ。冒険者の仕事は、まだなくならないようだ。
「あんたのチートのことは黙ってたほうがいいでしょ?」
「そうだな。そもそも誰も信じないと思うが。知られても面倒なことにしかならんと思うし」
「でしょうね」
そんなことを話していると、王都の入り口に着いてしまった。周囲を城壁に囲まれた城塞都市にして、王国の首都カルネシア。かつて魔王による超長距離攻撃を食らい半壊したこの都市も、今では見事に復興している。当時の爪痕として、巨大な池ができてしまってはいるが。
「そういえばあの池……」
「そうね。魔王エルディムの【暴王の咆哮】によって刻まれたものね。あんたが身一つで受け止めちゃったけど」
「そうじゃなくて、当時は魔王の絶大な魔力に呼応するようにして、闇の能力を宿す人間が多く生まれたんだろ? そんな奴らの力がどんなものか、見ておきたくてな」
俺の要望を聞いて、マカは呆れたように肩をすくめた。
「まぁもう二十年前のことだし? 忌み子として殺されてなければ拝めるでしょうけど……可能性は薄いでしょうね。ていうか、あんた『闇』関連のもの好きねぇ」
「そりゃあなんかカッコいいからな」
王都の冒険者ギルドに入ってみると、掲示板は【緊急招集】の文字で埋め尽くされていた。
『魔王領へ向かう商人の護衛任務』や『先遣隊としての魔族の掃討任務』などなど。クエストというよりもはや国からの命令に近いような依頼が、破格の報酬で並んでいる。
「これは……結構稼げそうね」
「いや、俺たちにはこの前稼いだ金塊があるだろ」
「だから、私はあんたと結婚したわけじゃないの! 財産を共有するなんてことはしないわ!」