結婚してくれるってことか?
「決めた。もう十分な貯金はできたし、俺は流浪人として人助けの旅に出る!」
俺が宣言すると、マカは呆れたように額に手を当てた。
「はぁ、まぁあんたのステータスアップは5分しか持たないし? 冒険者登録は間違いなく無理でしょうね。でもあんたはあくまでレベル2なの! 危険は冒さず、村の見張り役に徹していた方がいいんじゃないの?」
確かにマカの言う通りかもしれない。だが、そんな小さな枠に収まるような生き方はしたくない。
「いや、でもなんか放浪してる強者って格好いいじゃん?」
「いやいや、それってただの無職じゃん。あんた通常時はレベル2なんだから、私が傍にいなきゃ生きていけないでしょ?」
マカの意外な言葉に、俺は若干驚いた。
「ずっと傍にいてくいれるのか? それってつまり、俺と結婚して養ってくれるという解釈でいいんだよな?」
「ハァ、違うわよ。あんたのことは異性として見れないし」
地味に傷つくことを言ってくるな。
「そもそも、ヒモになろうだなんて虫が良すぎるのよ。あんたには身の丈にあった仕事が必要だわ」
「仕事? でも俺、農作業とかはしたくないし、スキルポイントもいざという時のためにとっておきたいんだよなぁ」
だがそれではフリーターたる冒険者にすらなれないニートで終わる。いや、ニートではなく「流浪人」と名乗っていれば、格好はつくか?
「いや、あんたからそのバカみたいな量のスキルポイント取ったら何が残るってのよ! つべこべ言わず就職しなさい!」
「何の職に?」
「私の護衛よ」
「は?」
人類最強の冒険者に護衛など必要なわけがない。
「お前なら自分の身くらい自分で守れるだろ」
「そうね。人間として生活していれば、ね」
どういう意味だろうか? いや、なんとなく察しはつく。魔王エルディムのステータスは明らかに人類の限界値、つまり9999を突破していた。奴のような人外と本気でやり合うには、もしもの時のために俺が必要になるというわけか。
「でも魔王なら俺が倒した。魔王軍幹部も後を追って殉死したようだし、他にそれほどの脅威があるとは思えないんだが」
「あんたが知らないだけで、人の形をしているだけの人外は、この世界にたくさんいるものなのよ」
遠い目をして、諦めの表情を浮かべながらマカは呟いた。
「お前がそれ言うか?」
敢えて場を和ませようと茶化してみる。マカだって一般人からすれば十分人外だからな。
「うるさい! とにかくこの世界はあんたが思ってるより広いし、闇も深いの! いいから私の傍付きという名目で護衛をしなさい!」
「分かったよ。就職しなきゃいけないのは事実だしな」
「ようやく自分の立場を弁えたようね」
「それに、俺もその『深い闇』とやらに、興味が出てきたしな」
俺は不思議と気分が高揚していた。どんな闇が待ち構えているのだろうか? それに、「世界の闇」という響きがまたカッコいい。
「あんたが期待しているようなものじゃないわよ。下手したら、魔王よりよっぽどたちが悪いかもね」