波間に働く
就業時間が終わり外に出ると、既に室内灯が目立つくらいには真っ暗だった。
歩いて十分ほどの立体駐車場に向かう。
うちの会社には駐車場がないが、通勤費もない。
出勤するのに千円かけている。
給料が安定していて、残業も極めて少ないから許している。
むしろ、ホワイト企業保険みたいなものだと思っている。
会社は駅へと続く大きな道路に面している。
駅までは徒歩三分くらい。
そちら側は飲み屋街で輝いているが、私は逆方向へ歩く。
こっちはバーや個人経営の飲み屋がぽつぽつと建っている。
駅の方と比べると、とても静か。
寂しさを感じるが、少しでも駐車代を安くしなくてはならない。
会社まで徒歩で負担にならないギリギリの距離の立体駐車場はこちら側にある。
そういえば、半年前くらいにおいしい焼き鳥を出す店に行った。
この道の外れにあった気がする。
本当においしかった。
焼き鳥が酒に合う、という言葉の意味を初めて知った。
懐かしくなったから、寄りはしないが店の佇まいを少し見ようと思った。
無くなっていた。
正確には閉店していた。
つい数週間前のことらしい。
貼り紙にはそう書いてあった。
理由は経営不振らしい。
にわかには信じられなかった。
焼き鳥を作っていたおじさんが、多くはないけど少なくもないくらいお客さんが入っている、と言っていた。
経営は安定している、と。
怖くなった。
良いも悪いも長続きするものではない。
それなのに、安定が永遠だとは言いきれない。
なにかしらの理由で安定が崩れることはある。
そのとき、私はどうすればいいのだろう。
そのとき、私はどうなるのだろう。
安定に頼りきったら、きっと人間はなにもできなくなってしまうのだ。
なにも考えられなくなるほど、真っ白な頭で足を動かす。
歩いて十分ほどの立体駐車場に着くと、出庫注意灯が輝いていた。