表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

波間に働く

作者: 春乃和音

 就業時間が終わり外に出ると、既に室内灯が目立つくらいには真っ暗だった。

歩いて十分ほどの立体駐車場に向かう。

うちの会社には駐車場がないが、通勤費もない。

出勤するのに千円かけている。

給料が安定していて、残業も極めて少ないから許している。

むしろ、ホワイト企業保険みたいなものだと思っている。




 会社は駅へと続く大きな道路に面している。

駅までは徒歩三分くらい。

そちら側は飲み屋街で輝いているが、私は逆方向へ歩く。

こっちはバーや個人経営の飲み屋がぽつぽつと建っている。

駅の方と比べると、とても静か。

寂しさを感じるが、少しでも駐車代を安くしなくてはならない。

会社まで徒歩で負担にならないギリギリの距離の立体駐車場はこちら側にある。




 そういえば、半年前くらいにおいしい焼き鳥を出す店に行った。

この道の外れにあった気がする。

本当においしかった。

焼き鳥が酒に合う、という言葉の意味を初めて知った。

懐かしくなったから、寄りはしないが店の佇まいを少し見ようと思った。




 無くなっていた。

正確には閉店していた。

つい数週間前のことらしい。

貼り紙にはそう書いてあった。

理由は経営不振らしい。

にわかには信じられなかった。

焼き鳥を作っていたおじさんが、多くはないけど少なくもないくらいお客さんが入っている、と言っていた。

経営は安定している、と。




 怖くなった。

良いも悪いも長続きするものではない。

それなのに、安定が永遠だとは言いきれない。

なにかしらの理由で安定が崩れることはある。

そのとき、私はどうすればいいのだろう。

そのとき、私はどうなるのだろう。

安定に頼りきったら、きっと人間はなにもできなくなってしまうのだ。




 なにも考えられなくなるほど、真っ白な頭で足を動かす。

歩いて十分ほどの立体駐車場に着くと、出庫注意灯が輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ