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05 未来を斬り拓く力

 俺はエクスカリバーが落ち着くを待ってから、彼女に言った。


「刀身を見せてくれるか」


 するとエクスカリバーは「はい、かしこまりました」と頷き、ベッドの上で居住まいを正す。

 きっちりと脚を揃えた正座はお手本のような美しさで、その美しさは生けられた白百合のように清楚だった。


 しかし彼女は次の瞬間、大胆な行動に出る。

 肌が透けて見えるほどに薄いレースのドレス、そのヴェールのような薄布に包まれた豊満な胸をわしっと掴んだのだ。


 そのまま、左右にむにっと押し広げると、谷間を見せつけるように上背を反らす。

 俺は思わずギョッとしたが、これは刀剣が他者に刀身を委ねるときの仕草だったと思い直す。


 いままで子供しか相手にしてこなかったので気付かなかったのだが、成長するとこんなけしからんビジュアルになるだなんて……。


 などと思っているうちに、エクスカリバーの胸の谷間から、剣の柄が飛び出してきた。

 その乳白色のグリップは、忘れもしない俺の手作りだ。


 俺は何十年かぶりにその柄を握りしめ、ゆっくりと引き抜いていく。

 エクスカリバーが「んっ」と軽く喘ぐたびに、まばゆい刀身が現れ、薄汚れた室内に純白の光があふれる。


 すらりと輝く刀身には、曇りひとつなかった。


「うん、ちゃんと手入れがなされているようだな」


「はい、創造主様からお教えいただいたお手入れの方法を、毎日行なっております」


 刀剣は持ち主が手入れするものだが、刀剣自身に教え込めば自己メンテナンスも可能。

 だだそのためには、生後1週間以内に教え込んでおかなくてはならない。


「それにますます強度が増している。俺の手を離れてからも、鍛錬を欠かさなかったようだな。

 それだけ、ヨールー王のためにがんばったんだな」


「それもありますけど、ほんの少しです。

 わたくしががんばったのは、創造主様のためです」


「俺のため?」


「はい。ヘボイストス様がわたくしに『封殺札』を貼ったあと、こうおっしゃったのです。

 これを剥がしてほしかったら、聖剣と呼ばれるほどの活躍をしてみせよ、と。

 もし封殺札を剥がしていただければ、わたくしの活躍の手柄はヘボイストス様ではなく、創造主様のものとなると思い、がんばったのです」


「でも魔王を退けるほどの大活躍をしても、剥がしてはもらえなかった、ってわけか……」


「はい。わたくしはヘボイストス様にすがり、何度もお願いしました。

 でもヘボイストス様は、約束を守ってはくださらなかったのです。

 『お前はヘボが作った聖剣として、永遠に語り継がれるのだ』と……!」


 エクスカリバーはそのときの悔しさを思いだしているのか、また泣きそうな顔になっている。

 俺は衝動的に、彼女を抱きしめていた。


「もういい。もう、そんな心配はしなくていい。

 お前はもう、俺のものになったんだからな」


「は……はいっ……! 創造主様ぁ……!

 わたくしをもう、離さないでください……!

 これから一生、創造主様のおそばにおいてください……!」


 その日の夜、俺はエクカリバーを抱いて寝た。


 刀剣を抱いて寝るのは、初めての剣をプレゼントされた子供がする、一種の『儀式』のようなもの。

 俺はもうそんな歳でもないんだが、エクスカリバーがどうしても一緒に寝たいと言って聞かなかったんだ。


 こうしてエクスカリバーは、俺の『初めての剣』になった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 次の日、俺は長年住んだ寮を追い出された。

 長いこと洗っていない作業服のままで。


 持ち物はたったのひとつ、『エクスカリバー』。

 もはやこの世界で知らぬ者がいない伝説の聖剣は、俺のそばでニコニコ笑っていた。


「おいおい、お前はいま宿無しになったんだぞ。

 夜露で錆びるかもしれないってのに、ノンキなもんだな」


「創造主様とこうしてご一緒するのがわたくしの夢だったんです。

 そのためであれば、錆びくらいへっちゃらです」


「まったく、変わったヤツだなぁ」


「それで、どちらに行かれるのですか?」


「ん、ああ。いっちょ『クロガネ王国』にでも行ってみようかと思ってな」


「クロガネ王国……。たしか、長年に渡ってストロングホール帝国から虐げられている王国ですね。

 この帝国にいる奴隷さんのほとんどは、クロガネ王国から連れてこられた方なのだとか……」


「そうなのか、さすが世界じゅうを旅していただけあって詳しいな。

 かくいう俺も、クロガネで生まれたんだ」


「えっ、創造主様は、クロガネ王国の方だったのですか!?」


「ああ。ガキの頃にオヤジと一緒に捕まってな。

 元々オヤジが鍛冶屋だったから、そのまま帝国(コッチ)でも鍛冶屋をやらされたんだ」


「そうだったのですか……」


「そう暗い顔をすんなって、俺にとっちゃもう過去のことだ。

 久しぶりに、里帰りするのも悪くないと思ってな。

 行き先は、それでいいか?」


「はい! わたくしは、どこへでもついてまいります!」


 と、文無し旅を始めた俺とエクスカリバー。

 しかし俺は、あまりにも世の仕組みというものを知らなすぎた。


 このストロングホール帝国は、力こそがすべての地。

 そのことを痛感したのは、城下町を出てすぐに、野盗たちに囲まれた時だった。


「ヒーッヒッヒッヒーッ! 待ちな、オッサン!」


「どうやらオッサンはヨソ者みたいだな!

 帝国の街道をボディガードなしで歩くのが、どれだけ危険だってのを知らねぇのかよ!」


「女が裸でスラム街を歩くようなモンなんだぜぇ、ヒーッヒッヒッヒーッ!」


「おおっと!? こっちのマントのヤツ、女じゃねぇか!?」


「それも、すげー上玉だ!」


「ちょうどいいや、すっぱだかに剥いてやって、みっちり教え込んでやろうぜぇ!」


 素肌に毛皮という、いかにもガラの悪そうな若者たちが取り囲む。

 彼らの剣も同じ身なりをしていて、筋骨隆々とした褐色の腕を威圧的に剥き出しにしていた。


 俺はその腕を掴む。


「うーん、肌がボロボロでくすんでるということは、そうとう刃こぼれが酷いんだろう。

 それを誤魔化すために塗装して褐色にしてるんだな。

 これじゃ刀剣というよりも、鉄の棒みたいな刀身なんじゃないか?」


 「離せっ、クソがぁ!」と俺の手を振り払い、ヘソから抜刀する刀剣たち。

 案の定、彼らの刀身はすっかり錆び付いており、殴打専用の武器となっていた。


「待て、今ならまだ間に合う。俺が研ぎ直してやるから……」


「やっちまぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 俺の忠告も聞かずに、一斉に襲いかかってくる野盗の群れ。

 俺は「やれやれ」とあきらめたあと、相棒に告げる。


「エクスカリバー。お前がどれほどの力があるか、見せてもらおうか」


「はい、かしこまりましたっ!」


 ……バッ!


 とマントを脱ぎ捨てたエクスカリバーは、胸の谷間に軽い握り拳を作る。

 拳の隙間にすっぽりと現れた柄を握りしめると、そのまま抜刀しつつ振り抜いた。


 それは斬りつけるというよりも、牽制のような軽さだったのだが、


 ……ドゴォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!


 生まれた剣圧は爆風のような衝撃波となって、周囲の野盗たちを紙クズのように吹っ飛ばす。


 それはまさに、『未来斬り拓く』ほどの力であった。

このお話はここでひと区切りとなります! ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます!


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