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1 論文を書こうと思います

後日談、3本ご用意いたしました。

時系列的には、スタキオ国を侵略した後くらいですかね。

 魔物社会は書物といえば今のところまだ教育用に作られたものが数十種類ある程度で、書籍としての文化は未発達だ。


 それに比べると、人間社会の方が書き物の文化が発達しているようで、王侯貴族に関して言えばその邸宅にはときどき書籍が見られる。

 印刷技術はまだないのかな。量産されているものはほとんどないようなんだけど。


 クイが人間の書き文字を翻訳したお陰で人間の書籍も翻訳班に回すことにより魔物社会で文書化出来るようになった。

 また何冊か持ち帰って翻訳班に回そうと思う。


 僕の方はさすがに数年人間社会に潜り込んでいるからね。とっくに人間の言語も読めるよ。


 そういや僕もそろそろいい年齢だから、論文でも書かないといけないな。

 法律家たる者やっぱり著作の数本持っていないと。

 学問研究は法律家の務めだからね。


 特に僕のように実務に精通している弁護士の場合は実務ならではの視点が入るから実用書としても価値がある著作になるはずだ。


 時間を見つけて執筆したいもんだ。

 なかなか忙しくて時間が取れないけどさ。


 そのためにも参考文献の精査は大事だ。

 人間社会に出入りするついでに、価値ある蔵書のある場所を片っ端から見て色々書物を物色している。


 先日なかなか興味深い文献が揃った蔵を見つけたよ。

 宗教施設の地下にある古い蔵で、そこの蔵書はもう遥か昔のものなんじゃないかな。動物の皮を使った紙とはいえ、よく保存が持ったものだね。


 古めかしい文体で読みづらかったけど内容は非常に興味深かった。

 なにせ、ずっと昔…。魔王様が魔王になる前のものだよ多分。


 古い古い魔法の本。

 これってファンタジー小説なのかな? それとも実用書?


 人間と魔物の『契約』の話。

『契約』というなら、法律家としては読まなくっちゃね。


________________



「この本の魔法ね~、研究してみる~」


 例の古い文献。内容はどうやら契約に絡む魔法の本のようだったので魔法研究所の所長であるサンドラーに書籍を回した。


「お願いしますね。単なる宗教的なファンタジー作品の可能性もありますけど、もしもこれが魔法の一種ならちょっと面白いなって思って」


「うん~、ちょっと見る限りサンドラーも興味あるね~。ちゃんと研究してみないと分かんないけど、理論的には魔法技術として成立してそうな感じはする~」

「やっぱりそう思います?」


 もしもこれが魔法技術論だとしたら『契約法と魔法の関連』『強制力や執行法の魔法活用による実現』といったテーマで論文が出来そう。

 当事者が『人間と魔物』というのも興味深い。人間がどういうふうに魔法に絡んでくるのか、ぜひとも理論を明らかにしたいところだ。


 魔物社会の論文第一作目はやはりこの僕の著作にしたいよね。


_______________


 さてと。書籍は魔法研究所に回したし。

 これで今回の出張の用事は大体済んだ。


 魔王様に報告に行こうっと。時間的には既に謁見の間から退室なさっている頃だから、魔王様の私室か執務室かな。ついでにイチャイチャ出来るといいなぁ。


「魔王様、ヤツカドです。私室の方ですか?」

「ヤツカドか。出張ご苦労だったな。入りなさい」


 魔王様のお許しをいただいてお部屋に入ります。


 ふふっ。魔王様だ。魔王様…。


「愛しの魔王様、報告とキス、どっちからにしますか?」

「ああ、愛しのヤツカド? まずはキスからかな」


 ・・・・・・・


 すみません。僕ね、今ちょっと床にのめり込みそう…。ええと、ええと…。


「ま、魔王様…?」

「なんだ」


「いやその、なんですかその『愛しの』って…魔王様らしからぬお言葉は」

「なんだ不満だったのか? ヤツカドの真似をしただけなんだが。気に入らないならやめよう」

「やめなくていいです」

「どっちなんだ。分からんヤツだな」


 魔王様、僕どうしよう…。脳みそ沸騰しそうですよ。


「そしてなぜキスからなんですか。魔王様らしくもない。まず何よりもお仕事優先な貴方が」


 嬉しいですよ? 嬉しいですけど…。

 そういうときこそ、冷静にならないと…。

 というか嬉しすぎてどうも疑り深くなっちゃうな。何か裏があるんじゃないかと。


「いや、今までは先におまえを食べてしまうと全く仕事にならなかったが…。今はもうその心配はないわけだ」

「まあそうですね」


「ならば、短時間で済む方を先にして、ゆっくり仕事の話をする方が効率的なのではないかと思ったんだが」

「はあ、なるほど…」


 僕たちのキスを事務的に済まそうというのはどうかと思うんですけど。


「それに私としても、出張でおまえに会えなかった分、おまえが美味そうに見えてな。先に食べてしまった方が仕事に集中出来ると思うんだよ」

「ああ、すみませんお待たせしてしまったみたいで。じゃあキスからで」


 いやもう、人間から生命を税金でいただくようになってから僕は本当に助かってる。


 僕自身は肉を食べる方が好きだからあんまり生命そのものには興味ないんだけど、魔王様に僕の生命を召し上がっていただくには、やっぱりその供給がないと持たないからね。


 人間には感謝してるよホント。だから僕は頑張って君たちを守ってあげるんだ。

 牧場の羊のように大切にするからね。


「あっと…」

 魔王様の恐ろしい勢いの捕食…。キスの後に、僕はちょっとふらついてしまった。


「大丈夫か?」

「ええまあ。問題ありません」


 やっぱり魔王様の食欲が増している気がするんだよね。

 頑張って納税者を増やさないといけない。


 この場合は、ひとりあたりの納税額を増やすよりも納税者を増やす方がいい。

 ひとりあたりの納税額を増やしてしまうと、つまり人間が早死にしてしまうことになる。そうすると人間の再生産が追い付かなくなってしまって、納税総量が目減りしてしまう。


 それより何とか支配領域を増やし納税者を増やしつつ、納税者の寿命を延ばし出生者数を増やして納税額の総量を上げる方向で政策を行わないといけない。

 大事なのは人間から絞り上げることではなく、サイクルを築くことなんだ。



 ともかくキスが済んだ以上は仕事仕事っと。


「では出張の報告に入りますね。人間の文献の収穫内容、そして人間の領土を広げるにあたり次の候補地についての調査結果と、計画の素案について…」



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