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6 愚王の責任

戦争とかバトルとかのシーンがお好きな方には申し訳ない…。

そういうのヤツカドさんはあまり好きではないようです。

 クーデターやっちゃいました。


 あっけないと言わないで欲しいな。それなりに大変だったんだ。


「さあ、どうします? サージェルさん。国王の命はあなたの望み通りですよ」


 サージェルの目の前には、スタキオ国の王が縄に縛られた状態でうずくまっている。

 何かいろいろ悪態のようなものをついているようだけど、僕には関心がない。僕の脳は単なる雑音として処理してしまう。


 スタキオ国の国王。


 私腹を肥やし続け、重い税負担を民衆に課し、その税収は自分と親しい者を優遇することにばかり使い続けていた強欲な王。


 自分の国を守るためと言う名目で軍備ばかり増強し、強い自分の姿に酔い、それを褒め称える形ばかりのおべっかに喜び、そんな愚にもつかない者のために大金を貢ぐ自惚れの強い王。


 どんなに民衆が飢えに苦しもうが、親しい貴族が豪遊することでみなが幸せなのだと思い込み、国のありのままの姿を見ようともしない視野も見識も狭い王。


 法典を恣意的に解釈し、法を好きにねじ曲げ、支配の根幹たる法を自ら歪めて国の秩序をみだし己の地位を危うくした無知蒙昧な王。


 つまりは愚王。王の器ではない。


 こんなものが『王』を名乗っていたかと思うと、王の名に傷がつく。

 王の名は、やはり魔王様にこそ相応しい。


 愚かであることは罪ではないけれど、それが国の王ともなれば話は別だ。国のリーダーが愚かであることにより、あまりにも被害が大きくなり過ぎる。



「さて。現実的な選択肢は2つでしょうね」

 サージェルに僕は優しく囁いた。


「ひとつ。王が代わったことを民衆に知らしめるため、公開処刑をする」

「他に選択肢なんてあるのか?」


「ふたつめ。この王宮にいる王とそのオトモダチを跡形もなく消し去る。民衆は誰も気が付かないし、気が付いたとしてもどうしようもない。そして何もなかったかのようにあなたが玉座に座る」


「…そんなことが出来るのか?」

「あなたが望むのでしたらね」


 僕が食べちゃえばいいんだし? 人間を食べるのは僕の国では罪じゃないんで。


「…いや、やはり公開処刑をしよう。王が変わったことがハッキリ分かれば民衆も安心するだろう」


「そうですね。サージェルさんなら民衆をガッカリさせることはないでしょう。『なんだ王が変わったと言っても何も変わらないじゃないか』なんて思われないようにね」


 サージェルが愚王になり果ててしまえば、そんな未来もあるかも知れないけど。でも多分大丈夫。


 これは本当に僕、わざとじゃないことは分かって欲しいんだけど、サージェルは今や僕の言うがままだからさ。


 僕はね、この国の人間達に豊かで幸せに生きて欲しいんだよ。



 そして翌日は好天の処刑日和。

 開かれた公開の舞台で国王の処刑がなされる。


 晴れ渡る空の下だから、みんなからよく見えるだろうね。

 自分が苦しむ原因を作ったこの愚王、せめて処刑でも見て留飲を下げるといい。


 なお僕は太陽の光は苦手なので見ることが出来ないけど。

 別に興味もないし。



 王様ってさ、やっぱり権力が大きいだけあって責任も重いと思うんだ。だから王が犯した罪の場合は大抵はその命で償っても足りないくらいの重罪だよね。遠慮なく殺していいと思うよ。


 王は権力も責任もあまりに重すぎるから、近代国家は王政を取らなくなっちゃってるくらいだ。


 権力が大きければ犯した罪の被害は大きい。それは国としてハイリスク過ぎるんだよ。


 また、罪が大きければそれに伴い負うべき責任も大きくなる。個人ではその責任を負いきれない。ぶっちゃけ命もらうくらいじゃ足らないんだ。


 そんな命懸けの統治なんて普通は望まない。


 その点、民主主義のように権力を分散すればその分責任も軽くなる。政治責任について死をもって償うことがなくなっているのも近代国家の特徴と言える。


 だからまあ、権力や責任の分散は実は統治者側にとってもメリットの高いものなんだ。基本は国民の自己責任に責任転嫁できちゃうしね。


 いつか魔王様の重圧も軽くして差し上げたいところだけど…。


 魔王様であればあの重圧に耐えられるのではという気もしないでもない。僕の魔王様はそれだけ偉大な方だから。



 さて。処刑も恙無つつがなく済んだところで


「では、そろそろ報酬をいただくことにしますね」


 新しい王様、サージェルの許可があるから、ここから先は順調に進むと思う。


_________________


 スタキオ国の残務処理やら報酬受領に当たっての調整やらいろいろあって、なかなか魔王城に戻ることが出来なかったけど、やっと今日、僕は魔王城に戻ってきた。


 いつものことながら魔王様の執務室では魔王様にはお会い出来ないと思うので、謁見の間でお会いしましょう。

 良い報告が出来るとは、ちゃんと予め連絡してあるんだ。


 いやもう、だめだな。浮かれちゃって。

 落ち着かないや。


 でも僕らしく、ちゃんと落ち着こう。

 まずは冷静に、これからの状況を整理しよう。


 まずは、魔王様にお会いする!

 そして! 魔王様の美しいご尊顔を拝見する!!

 魔王様の美声を耳にして、感激に打ち震える!!

 それから…


 ああ、もう胸がいっぱいだよ。

 ダメだこれ。冷静とかムリでしょ。


 そして謁見の間。

 ずっとずっと心の中で思い描いていた魔王様のお姿がそこにあった。

 なんて美しいんだろう。


「ヤツカド、良い報告があると聞いたが」

「ええ、ええ。そうなんです。報告して良いでしょうか?」

「もちろ…」


 魔王様の返事すら待ちきれなくて、僕は立ち上がり、そのまま魔王様のお傍に近づき


 魔王様に口づけをした。

 心を込めて。


 諮問機関の魔物が並んでいるこんな公衆の面前だったけど、僕としたことがガマン出来なかったみたい。


 とっさのことで魔王様も驚かれたようだけど、でもすぐに受け入れて下さった。そして激しい勢いで僕の生命を奪い取っていかれる。


「や、ヤツカド!」

 数秒遅れて魔王様が我に返ると、僕を強引に引き離した。


「すみません、ちょっと我慢できなくて」


「…ヤツカド、何ともないのか?」


「これが報告する内容なんです。魔王様」



次回、ラストです。

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