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5 記録は命

ヤツカドさんの侵略計画です

 ダイナモスには軍の中でも比較的人間に近いタイプの形で選りすぐりの魔物を何名か見繕ってもらい、スタキオ国周辺まで来るように頼んでおいた。


 ちょっとね。これから少々乱暴なことがあの国で起こる予定なので、そいつらの力で加勢させようと思ってさ。

 僕はそういう粗暴な行為は性に合わないから。


 スタキオ国についての僕の計画は今のところ予定通り。


 あの国は魔物達の世界から最も近い人間の国なわけだけど、この小さな隣国だけ見ていればいいわけじゃない。

 この隣国と同盟を結ぼうが戦争で勝利しようが、その向こうには更に人間の社会が広がっていて、より大きい国がある。まだまだ人間が沢山いる。


 だったら、この小さい隣国を手に入れて、そこを防衛線にしようと思っている。


 この国を支配すれば人間を僕らの国に近寄らせないことが出来る。魔物の存在をまだしばし人間からは隠すことが出来るだろう。


 まだまだ魔物の国は社会的成熟性は発展途上だし、出来ればもう少し存在を隠して発展させておいた方がいいと思うんだ。


 クイ達の作成した、隣国の内政状況について調査報告を見た。

 圧政続きで民衆は貧困に喘ぎ、度重なる増税の影響で貴族すら没落している様子だった。

 ちょっとつつけば革命が起きそうだったんだよね。


 体制を維持する価値ある隣国なら同盟も手だろうけど、そんな価値はないと僕は評価した。


 だからその革命の中心人物になりそうな人物にアタリをつけて懐に入り込み、一枚かませてもらうことにした。


 触れ込みとしては遠方の国の特使として国王に傭兵を流す名目で。

 スタキオ国の国王は自己保身と自己顕示欲が強く、とにかく強い軍隊を欲しがっていた。

 だから強力な傭兵を他国から招致しても不思議じゃない。


 革命を計画するサージェルとしては、国王に戦力が流れるのは防ぎたい。

 むしろ戦力が喉から手が出るほど欲しかっただろう。

 サージェルは特使である僕が国王に会う前に介入し、国王ではなく革命軍の力になるように説得してきたよ。


 それも全部計画のうち。

 革命後にそれなりの地位と褒賞をもらうという成功報酬式の約束で僕はサージェルに加担することになった。


 基本的に弁護士の報酬って、最初に訴訟で扱う額の数割の手付をもらって事件が終わってから成功報酬をもらうという形なんだけど、今回は出血大サービス。手付ナシの成功報酬式だよ。


 サージェルには少しは怪しんでもらってもいいと思って色々設定を埋めたんだけど、あいつ単純なヤツだったから深い設定は殆ど使わなかった。

 わざわざ怪しい点を作って、それを埋めることで信憑性を高める作戦だったんだけどなぁ。


 …僕が協力しなかったら、こいつじゃとても革命なんて成功しなかったんじゃないかな。悪い人間じゃないんだけどねぇ。



 数年かけて国王周辺の上層部には手を回しているので、王宮に仲間を多く送り込むことが可能になった。これなら市民を巻き込まずに王宮だけで事が済みそうだ。

 革命ではなくクーデターだね。


 大々的な革命戦争が起きて民衆が大量に犠牲になるよりは、僕が手を貸して王位とその周辺だけキレイにげ替えてしまう方が犠牲が少なくて済む。


 僕としても、市民に犠牲が出ることは出来れば避けたい。


 その理由はもちろん人道的な理由なんかじゃない。これこそが僕の目的の重要な点だった。


 決行まではまだ少し時間があるから、今のうちに僕は最後のツメを仕上げないと。


 クーデターが成功すれば上層部は僕の息のかかった人間ばかりになる。はからずもリーダーのサージェルは僕の支配下にあるわけだから魔物が隣国を支配したと言ってもいいだろうね。



 どこかの物語で、魔物が王様に入れ替わり最後には魔物の正体が暴かれ退治されるというのがあるけれど、僕に限ってはそうはならない自信がある。


 物語の結末がそうなってしまうのは、単に王に成り代わった魔物が王の器じゃなかったに過ぎないんだ。


 だってさ。

 もしも民衆が生活に満足していれば、国のトップが魔物だろうがどうでもいいことなんだ。

 圧政で苦しいから「あ、ひょっとして王様は怪物なのかも」という発想が出るわけでしょ。


 物語の魔物が討たれるのは『魔物だから』ではなく、『王の座』にいる者が目先の私欲に走り、王としての職責を遂行しなかったから。


 僕はね、サージェルの望んだ通り、スタキオ国の民衆たちに平穏で安泰な国をプレゼントしたいんだ。税負担も軽くなるだろう。魔物社会と同様に福祉も充実させるし、個人を大切にしてあげたいね。

 きっとみんな喜ぶよ。


 だから、僕がもらうささやかな代償なんて多分誰も気にもしないだろうな。


__________________

 


 魔王城の謁見の間で僕は愛しの魔王様のお姿を見上げる。

「計画は順調です。すべて魔王様のお力のお陰です」


 計画を実現するため、魔王様に僕はちょっとだけ頼みごとをしたんだ。


「ああ、気をつけてな。ヤツカド。あまり無理をしてはいけないぞ」

「お心遣い痛み入ります」


 ああ、魔王様、魔王様。

 大好きです。愛しています。


 好きで好きでたまらないんです。

 本当は、お会い出来ない日々がとてもつらい。

 だけど、今は魔王様の望みを叶えるため…。


 

 言いたいことは全てのみ込んだ。


「では僕はこれで」


 魔王様に会う時間はとても少ない。でも魔王様は僕を望んで下さっているんですよね。

 お待たせしておりますが、必ず僕は魔王様の望みを叶えてみせますから。


__________________


 一点だけ…

 僕には気になることがあったんだ。

 しばらくモヤモヤしていたあの件。


 その解決策は、ここにある。

 八角法律事務所に…。


 以前にも言ったと思うけど、弁護士にとって記録は命。記録は自分にとっては備忘録にもなるし、マメな記録は自分を守る、と。


 八角法律事務所に戻ると、僕は過去の記録を見返してみた。


 僕はずっと記録をつけてきた。

 この世界に来た当初は書き物をする媒体がなかったけれど、頭の中で記録を作り、後日それを記憶そのままに紙や石板に記した。


 だから僕がこの世界に来てからのことが事細かに文書として残っている。

 そのときの僕の所感も含めて。


 僕が何を見て、何を感じ、そしてどう対策を立てていたか。

 この記録が僕の疑問に答えをくれる。



 ・・・・・・・・。

 ほらね。

 やっぱり、記録は僕を守ってくれる。



 あのときは気が付かなかったけど、そうだったんだ。




読んで下さってありがとうございます。

ブクマも評価も感想も、とてもとても嬉しいのです。

完結まであとちょっと。

お楽しみいただければ幸いです。

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