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4 君は僕のもの

勇者のジャンヤは魔物の軍隊に入ってます。

 兵営所の一室に通されそこで待っていると、ノックをしてジュンヤが入ってきた。


「ヤツカド様!!」

「元気そうだねジュンヤ。視察に来たからついでに様子を見に来たよ」


 ジュンヤはやはり人間なので魔物と違って日々の変化が目に見える。今はいくつだったかな。13歳くらいかな。体型はちょっと女性っぽくなってきたのかも知れないけど、相変わらずジェンダー観がないため少年のように見える。


 まだまだ人間の子どもの年齢とはいえ、軍隊に入って鍛えているからか、体つきはがっしりしてきている。

 筋肉がついて引き締まっているから細く見えるけど、多分普通の女の子と並ぶとだいぶ違うんじゃないかな。


「わざわざ、ボクを気にかけて来て下さったんですか…?」

「うん、そうだね。いつも君のことは気にかけてるよ。どう? 軍隊は」


「ボクには合ってるみたいです。思う存分身体も動かせるし、いろんな攻撃魔法を実戦に即して使えるようになるのも楽しいから」

「そうか。それは良かった。何か必要なものとか困ったことはない? 僕に出来ることなら協力するよ」


「困ったこと…ってわけでもないんですけど…」

「何かな。遠慮は要らないよ」


「学校に行っていた頃と違って、魔王城が遠くて…ヤツカド様にお会い出来ないのが寂しいです…」


 ああ。そうか。ホームシックみたいなもんか。

 ラヴァダイナスから魔王城のある密林はちょっと距離もあるし、簡単に帰ってこれないもんな。バケットとも会えなくて寂しいだろう。


「そうか、寂しかったんだね。おいで。撫でてあげる」

 僕はジュンヤに手を差し伸べた。


「ヤツカド様、ボク、特別なんですよね?」

「うん? そうだね。君は特別な子だよ」


 おおっと。


 ジュンヤが勢いよく僕にぶつかってきた。

 勢い良すぎるよジュンヤ。僕が床に押し倒されてる格好になっちゃってる。まだ子どもなのにさすが勇者、大の大人を倒すなんてパワフルだなぁ。いやまあ、僕が弱いのか…。


「ジュンヤ、ちょっと、立つからどいて」

「ヤツカド様、ボク…」


 ジュンヤは僕の口に、自分の唇を合わせた。


「きゃうっ!」

 弾かれたようにジュンヤが後ろに倒れた。


「大丈夫かジュンヤ。ダメだよ。僕は口から強力な消化液を吐くタイプの魔物なんだから…」

 ジュンヤは口を押えて唸ってる。


 本当に大丈夫なのか? 舌が溶けちゃってない?


 ジュンヤは仕草で「大丈夫」と言ってるようだ。少し俯き、両手で口を覆っている。

 手元がなんだか光っているぞ?



「…ふう、もう大丈夫です。すみません」

「何今の? 光ってたよね」


「回復魔法です。ボク結構多才に色々魔法が使えるんですよ」

「あ、ああ…聞いてる。すごいね」


 回復魔法かぁ。それは実用的でいいな。

 とか言ってる話じゃなかった。


「ええと、ジュンヤ? なんでこんなことしたの? 危ないなぁ」

「す、すみません、知らなくて…。ヤツカド様の消化液って強力なんですね」

「まあね。お陰で何でも食べられるんだよ」


 僕の知る限り、僕の消化液をものともせずにキス出来る相手なんて魔王様以外にいない。

 ああ、魔王様のキスが恋しいな…。


「で? 一応マナーの話をするけど、相手の承諾なく勝手に他人の身体に触れるのは良くないよ」


 危ないし。僕も魔王様の承諾なく抱きついて心臓刺されたりしたから身をもって知ってます。


「ご、ごめんなさい…ヤツカド様…。嫌いにならないで…」

「いやこんなことで嫌いなったりしないよ。子どものやったことだしね」

「子ども扱いもしないで欲しいです」


 おや。反抗期だったかな?

 魔物と違って厄介な成長期がないから助かると思ってたけど…人間にも色々あるからな。


「ボク、本気なの分かって欲しくて…」

「大丈夫、分かってるよ。君は良い子だ」

「分かってません。ボクは本当にヤツカド様のお力になりたくて…。ボクの全部を捧げたいんです。だから、ボク…」


 …えっと…。

 別にジュンヤに鬼眼きがんとか使った覚えはないな。


「ヤツカド様は魔王様に、こうやってご自身を捧げてるって聞いてたから…」


 あ。そういうことね…。

 やっぱり結局僕のせいなのか。


 僕も散々ぶっ倒れたりしてるから、知れ渡っちゃってもおかしくないな。

 ごめんなジュンヤ、教育に悪いオトナで。


「ジュンヤ、君はまだ若いんだから、そんな軽率に自分を捧げちゃいけない」

「軽率なんかじゃありません。ボク、ずっとヤツカド様に憧れてました。特別だって言ってもらえて夢みたいで…。大好き、大好きなんです。ヤツカド様。ボクの全部を受け取って欲しいんです」


 ジュンヤの表情は真剣そのものだ。

 なら子どもと思って扱っては失礼だね。僕も真剣に向き合わないと。

 プロの技を見せてあげる。


 僕はジュンヤの頭を優しく撫でてやった。


「ジュンヤ。今さらだよ」

「え…」


「かわいいジュンヤ。君はね。もうとっくに僕のものなんだよ。今さら何をしようと変わらない」

「ボク、ヤツカド様のものなんですか?」


「そうだよ。僕が君を見つけたときからね。だから君がどんな選択肢を選ぼうと、どんな道に進もうと、例えどこに行っても君が僕のものだということは変わらない」

「そうなんですか? ボクはもうヤツカド様のものだったんですか?」


「違うかい?」

「いえ、違わないです。そうだと思います。ボクはヤツカド様のものです」

「だろ?」


「今さら何を捧げるとか、そんなの要らないんだよ。君が幸せに生きてくれればそれでいいんだ」


 それで僕は十分目的を達する。


「で…でも、ボク、ヤツカド様にしていただいたこと、なんにもお返し出来てないし…」


「君と会うことが出来ただけで、僕はもう十分なものをもらってるんだよ」


 僕の説得は一種の凶器って話を以前にもしたね。

『勇者』の君が魔王様の脅威になることは、僕は絶対に許さない。

 そのために僕は君を優しく縛ってあげる。『言葉』という僕の特技でね。


「だからジュンヤ、君が僕のものだってこと。それだけ覚えておいて」

「はい…はい、ヤツカド様。ボクはヤツカド様のものです。ずっとです。絶対忘れないです」


「嬉しいよ。僕のジュンヤ」

「はい…ボクもヤツカド様のもので幸せです」


 頭を撫でられて気持ちよさそうにうっとりとする様は、本当に魔物の子のようだ。

 君は僕の期待通りに育っているよ。誰も君が魔物であることを疑ってはいない。


 確かに君は僕のもの。


 だけど

 僕は魔王様のものだから、君には何一つあげられない。


 けど、別にいいよね?



読んで下さってありがとうございます。

ほんとに、すごく励みになりました。

この感謝の気持ち、伝わるといいな…

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