3 疑念
魔物が人間の国を侵略しようとしてます。
僕の侵略はわりと順調なので、数年以内には目的を達成できるだろう。
だけど、僕の目的は別に人間社会を支配するとか、そういうものじゃない。
問題はそこからとも言える。今のうちにやっておかないといけないことが沢山ある。
「サージェルさん、今晩また僕は国に一旦戻りますけど、後のことはいつも通りにお願いしますね」
「ああ、分かった。気を付けて行って下され」
「緊急の用事は僕の仲間にメモを渡す形でお願いします」
「何度も言わなくても分かってるさ」
サージェルは人間だけど、それなりに信用している。
野犬や鳥のフリをして潜入している魔物の存在も少し教えてあるし。
信頼っていいねぇ。
「ヤツカド殿、私はあなたのためになら、どんなご要望にも応えるよ」
まあ、この人、鬼眼と毒の依存症のせいで洗脳状態に入っちゃってるからね。
ホントにわざとじゃないし、洗脳なんてしなくても十分飼い慣らせる予定だったんだけどな。いつも通り。
ま。いつかちゃんとクスリを抜いてあげようね。僕が目的を達してからの話だけどさ。
大体、鬼眼と毒の投与、ハッキリ言って面倒くさい。
こっちは食欲で鬼眼を発動してるわけで、食べる気のモノを寸止めするのって辛いよ。
魔王様が僕を食べるのを途中で止めるのも、相当キツイことだったんだろうな…。
早くその苦しみから解放して差し上げなくては…。
……魔王様…
…ちょっとね、サージェルのせいかな。
少しモヤモヤしてるんだ。
サージェルが僕に洗脳されてるのを見ていると
僕も、同じ状態なのかなって…。
僕もまた魔王様の鬼眼に囚われて、魔王様に全てを捧げる悦びを貪るようになってしまった。僕の精神が異常をきたしているからこんなにも魔王様のことばかりを想ってしまうのかな。
この思いは全部、異常な精神が起こした錯覚なのかも…。
ずっと探していたものを、やっと見つけたと思ったのに。
でも僕はこういうモヤモヤしてるのは好きじゃないんだ。
解決する手段のメドはついている。
答は近いうちに出せるだろう。
だから今は仕事に集中する。
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夜になり、人間の目には何も見えない暗闇が訪れると、僕はいったん八足の姿に戻った。そして今度は鳥に姿を変える。
ちょっと時間がかかってしまったけど、鳥の形で飛べるようになったんだ。散々マルテルをいじくり回して機能をトレスした甲斐があった。
大型の鳥は移動能力も高いし、何より八足の姿と違って目立たなくていい。
こうやって鳥に姿を変えることで、僕は魔王城とスタキオを往復している。
今回は少し他のコミュニティにも寄っていくつもり。どうせ魔王城に戻っても魔王様とは殆ど顔を合わせられないんだし…。
スタキオから一番近いのはラヴァダイナスだな。
軍事施設の視察も定期的に必要だからまずはラヴァダイナスに寄って行こう。ちょっと他に用事もあることだし。
ああ今ならジュンヤがそっちで訓練に入ってるはずだな。面会できるならしておくか。
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「どうも、ダイナモスさん。抜き打ちチェックですよ」
「おや。ヤツカド殿ならいつでも大歓迎ですぞ」
「ま。抜き打ちチェックというのは冗談で、単に事前の連絡が間に合わなかっただけなんですけどね」
「はは。相変わらず忙しそうだのう」
ダイナモスはちょうど裁判上がりのようで、法服を脱ぎながら僕を迎えた。
いい加減、民事裁判官を増やしてやらないと、コミュニティの長の負担が大きすぎるな。
「ワシはこれから兵営所に向かうので、歩きながら話そう。それよりヤツカド殿、体調の方はもう万全なのか? そんな忙しくしていて大丈夫か?」
「なんです。身体が半壊状態になってたのなんてもう何年も前ですよ」
「そうかも知れんが…、ヤツカド殿ほどの魔物があそこまでボロボロになってしまうとは、ワシは正直魔王様が恐ろしくてならんわ」
セバダンも散々魔王様を怖がってたけど、魔王様を『怖い』という魔物って結構いるみたい。なんでだろ。
魔王様は、お優しくてちょっと甘くて、それでマジメでいつも魔物の未来のことを考えていて、本当に素敵な方なのにな。でも僕も魔王様は美しすぎて怖いと思うけど。
「アレは別に魔王様のせいじゃないんですよ。僕が望んだからなので…」
「そこが魔王様の恐ろしいところではないか…。自分の滅亡すらも望ませてしまうなど…。勿論、魔王様が高潔で素晴らしい王ということは否定しないが…」
『自分の滅亡すらも望ませてしまう』か…。
僕は、そうなのかな。知らない間に、魔王様の術中に嵌っているだけで、僕の意思なんてなかったのかな…。
いけないな、こんな疑問。サージェルのこともあって、引っかかっちゃって。
話しているうちに兵営所に到着した。ここは軍事施設で働く魔物の住居として作られた施設なんだ。軍役に尽くしてもらう以上は、衣食住くらいは提供しなくちゃいけないしね。
そもそも魔物世界に『金銭的な報酬』がない以上、どんな仕事も基本的には魔物達の献身に支えられている。それに応えられるだけの誠実な対応がなければ魔物が集まらない。
「ヤツカド殿の秘蔵っ子が軍隊にいるだろう。呼んで差し上げようか?」
「ジュンヤのこと? 僕そんなに特別扱いしてるかな」
ジュンヤが軍に入るに際しても便宜を図ったわけでもないし、軍の魔物達に『この子を特別扱いしてやってくれ』などと口添えをしたこともない。ただ、ちょっと時々顔を見に行く程度なんだけどなぁ…。
「ヤツカド殿がジュンヤに目を掛けていることは分かる。それに、ジュンヤにはそれだけの実力があるしな」
「へえ? どんな具合ですか?」
「とにかく異常な強さだ。生まれもった爪や牙などがないが、武器などの道具を持たせると見事に使いこなす。身体は丈夫で傷ついても回復が早い。それに使える魔法も多彩だ。通常の魔物であれば体質に合ったタイプの魔法以外はほとんど扱えないものなんだが、ジュンヤは全く違うタイプの魔法も幅広く使える。威力はそれほどでもないものの、群を抜いて器用で多才だ」
…勇者ってのは伊達じゃないんだな。
そんなのが魔王様の敵になったら、しかも一人じゃないとしたら…それは厄介なことだ。
やはり、徹底的な懐柔は必要だ。
「ジュンヤとふたりだけで話してもいいですかね。久しぶりだから寛いで欲しいし」
ジュンヤを撫でてあげよう。
『贔屓』と周囲に思われてもジュンヤの立場が悪くなるかも知れないから、ふたりだけの場所で。
読んで下さってありがとうございます。
ブクマも評価も感想もとても嬉しいです。
おかげで完結まで書き終えられました。
今からでもぜひ…




