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2 薬物ヨクナイ

人間社会でいろいろやってるヤツカドさんです。

「どうもな…引っかかる…思い出せない…」


 僕を客人として扱う人間のサージェル。彼には大望があり、その目的のために人を集め着々と計画を進めている。僕もお手伝いをしているし。それはいいんだけど…。


「サージェルさん、ちょっと飲みすぎじゃないですか?」


 酒をよく飲むんだよなこの男。調査によるとそんな酒好きという情報はなかったから、記載漏れでなければ最近の習慣ということか。

 困るんだよね。ここで目的を阻害するような要因を作られると。


「酒…酒に酔うのとは違うんだよ」

「何がですか?」

「それが思い出せない」


 支離滅裂だなぁ。


 僕は酒は人間やってた頃からあまり飲む方じゃなかった。アルコールに弱いわけじゃないけど酒に溺れて人生を破滅させたヤツを何人も見ていたから。ストレートに言うと酒に溺れる連中をバカにしていたな。今もだけど。


 大体、同業者の弁護士ですら酒で失敗するヤツがいるんだぞ。折角司法試験も通ったし、何より金儲けが自由に出来る楽しい自由業。その身分を手に入れながら棒に振るとか、やっぱバカじゃないか?

 それくらい合理的に物事を考えられなくなるのがアルコール依存症と言うヤツだ。


「ヤツカド殿、聞いてくれよ…」

 絡んでくる。迷惑だな。


「酒を飲んでいると、思い出せそうになるんだ…、あの、すごい快楽というか…」


 おや?


「自分を全て捧げたくなるような、恍惚感というか…」


 あー…この症状。多分アレだ。

 ゴメンな、サージェル。それ僕のせいだわ。


 鬼眼きがんの効果だ。

 記憶は消したつもりだったけど、感覚だけは残っちゃったんだなぁ…。


 サージェルの取調は時間を掛けてすごく詳細に行ったから、何度か毒液も注入してる。それも良くなかったか。


 ひょっとして今まで解放した人間、みんなそんな感じだったりして。


 僕も経験があるから分かるんだけど、鬼眼きがんってすごく気持ちがいいんだよ。


 その後食われかかってしまうとマルテルみたいにトラウマになるけど、それさえなければあの感覚は快楽と言ってもいいだろうね。


 あの感覚が忘れられないのか、サージェル。

 気持ちは分かるよ。


 正直、酒に溺れられてしまうのも困るんだ。僕は早く魔王様の願いを叶えなくちゃならないんだから。


 だからまあ、ちょっとふたりで出掛けようじゃないか。

 夜も更けてちょうどいい。広くて誰もいない場所に。僕たちだけでさ。


_________________



 魔物の説明書って、本当にあったらいいのにね。

 それならこう、いちいち試行錯誤しなくて済むというのに。


「ヤツカド殿」

「サージェルさん。計画は順調ですね。王位はじき、あたなのものになるでしょう」


「そうだな。そうなればもう民を圧政で苦しませはしない。私がこの国を安泰に導いてみせる」

「僕もお手伝いさせていただいた甲斐があるというものです。あなたのことを民衆は待っているでしょうね」


 サージェルはちょっと単純だけど利己的な性格ではない。マトモな状態ならかなりマトモな人間なんだ。もともと貴族の出身で育ちも良いみたいだし。


「ところでヤツカド殿…、また、お願い出来ないだろうか」

「いいですけど…ほどほどにしましょうね。悪化するから」


「分かってる。さあ、市民ホールに行こう。こんな夜中だから誰もいないだろうし、明かりをつけなければ問題ない。二人で楽しもう…」

「言っておきますけど、楽しんでいるのはサージェルさんだけですから」


 真夜中の市民ホール。僕はサージェルとふたりきり。

 明かりはつけないけど、僕には見えてるから問題ない。サージェルは僕が案内している。


「さて、ここならいいかな。人の気配はしないし」

 万が一人がいても、この暗闇の中なら何も見えないだろうしね。


 市民ホールは住宅街からやや離れているし、何より…

 この国の市民は重税の影響で生活に全く余裕がない。夜中に明かりをつけることすら贅沢になっているようだ。


「ヤツカド殿…、早く」

「サージェルさん? やっぱり依存症になってません? 少し控えた方が」

「頻度は上げてないから大丈夫だと思う」


 本人はそう言うけど、多分大丈夫じゃないね。


 だって…。こうして僕が尻尾を出してもサージェルは動揺もしない。


 僕は鬼眼きがんでサージェルに快感を与え、毒針でそれを持続させる。


「ああ…、ヤツカド殿…。これは本当にたまらない…。私を食べて下さらないか…」

「食べませんって。サージェルさん、ちゃんと最後まで協力して下さいよ」


「分かった、分かってるから…。ヤツカド殿の頼みとあらば何でもやろう…。だから次も頼むよ…」

「はいはい」


 僕もね、ホントに知らなかったんだよ。

 鬼眼きがんの快楽が一瞬ならまだマシだったんだけど、毒の影響で数時間、その快楽状態が続くわけでしょ。それですっかり依存状態になってしまうらしいんだ。


 何度か繰り返すうちに、記憶を消す効果は出なくなっちゃって。

 代わりに依存症を発症してる。


 サージェルは僕が魔物だということはもう知っているんだけど、さすが依存症というべきか『魔物だろうが構わない』という精神状態になってしまったようだ。


 いや、悪いことをしたな。

 そんなに悪いとは思ってないけど。


 別に廃人にしたいわけじゃないから、ほどほどにしてる。

 僕の言うことを聞いてくれるから、たまのご褒美くらいでさ。


 ともかく、一応言っておくけど。

 薬物は危険だから絶対やめた方がいいよ。


 世の中には悪い奴がいて、他人を薬漬けにして食い物にする連中がいる。そういう連中に引っかかってしまったら、できるだけ早く警察なり薬物依存症センターなりに駆け込んだ方がいいと思う。

 でないと一生が台無しになっちゃうよ。


 ね? サージェルさん。

 どうですか? 気持ちいい?

 僕のこと好きでしょ? 全てを捧げたくなるほどに。


 僕もサージェルさんのこと嫌いじゃないですよ?


 圧政に苦しむ人民を救うために、革命を起こして王位を簒奪さんだつしようなんて、なかなか出来ることじゃない。偉いです。


 だから僕はそれを手伝ってあげてるんです。

 そして、ささやかな報酬をいただく。

 僕の望みはそんなものですから。



 さてと。


 尻尾を出しちゃったから化け直さなくちゃ。鬼眼きがん使った後だから目の色も赤くなっちゃってるし。


 化け直すには、こういう広い場所じゃないとダメなんだよね。

 そこがちょっと面倒だなぁ。



読んで下さってありがとうございます。

ブクマも評価も感想もとても嬉しいです。


あと数話で完結です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 未来の王様を妲己や楊貴妃もかくやの骨抜きぶり 怖ろしい人(?)ですねヤツカドさん
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