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15 あなたの望みを叶えます

クイさんの集めた情報は宝の山だったみたいです

 僕が寝ている4年の間にクイが『あらゆる手段で情報を集めた』と言っていた。その集まった情報資料を読んでいるけど…これは…言うだけのものはある。


 クイ、よくこんなこと調べたな。どうやったんだろう。あいつ本当に有能過ぎるわ。もう僕の片腕として欠かせないな。


 主に人間の生息状況に関する情報なんだけど…。本当にどうやって調べたんだ。


 分かったこと。


 魔物の世界に最も近い人間の国『スタキオ国』の存在。

 そこでは王政が敷かれている。人口は約20,000人。


 山に囲まれた盆地で、もともとはもっと遠い場所に国を構えていたらしいけれど、二百年ほど前に戦争に敗北して逃げ込んだ先で国を興したということだ。

 比較的新しい国で小規模だな。


 盆地で開拓によって領地を広げることが困難であるため、口減らしも兼ねて開拓使として遠方へ地区ごと人を送っているということだ。

 魔物に接近しているのは、その開拓使団の連中らしいと…。


 使われている文字も判明している。言語自体は魔物の使うものと似通っているが、文字は全く違うものだ。それはそうなんだ。魔物世界の文字は僕が日本語を元に充てたものだから。

 その人間の使う文字も、既に分析・解読済み。すごいなクイ…。


 法律の存在はあるらしいが、法典のような文字化されたものは首都にしか置いておらず、国王の恣意的な解釈で運用されほとんど空文化しているとか。これは法治国家とは評価できないな。

 

 技術の発展の度合いや、文化的な習慣や食糧事情、服飾についても記載がある。


 そして内政状況。これがまた興味深い。

 信じられん。特にこの人間のリスト…。ここまで事細かに…。


 …とはいえ、ここで羅列しているとキリがないな。別紙添付書類参照っと。


 これだけの情報があれば、僕が潜入して入手しようとしていた情報はもう手に入ったも同然だ。するともう一段階進んだことが可能になるだろう。



 魔王様に内密にご相談しなければ。


_________________


 内密な相談であれば、魔王様の執務室か私室での相談になるわけなんだけど…。


「今日も魔王様はいらっしゃらないって?」

「そうなの。ゴメンねヤツカド」


 ドアを開けたマルテルは申し訳なさそうに言う。

 最近、魔王様が謁見の間から戻られる時間なのに、いつ行っても魔王様のお姿がない。


 そんなにお忙しいのかな。

 お忙しいとしたら、間違いなく僕の責任なんだろうなぁ…。


「どうしても魔王様にご相談したいことがあるから、執務室で待たせてもらいますね」

「え、でも…いつ帰るか分からないよ…? また今度にしたら…?」


 なんだかマルテルが焦っているような…。


「なんか様子がおかしいですねマルテルさん」

「え!?ええ!? 別に!何も!!おかしくない!!よ!!」


 いや、普通におかしいだろ…。


「マルテルさん…いつもなら『いつ帰るか分からないけど入って待ってて』とか言いますよね?」

「そんなことないよ!! ホント!!」


 ウソだ。というかコレで分からないならどうかしている。


「ひょっとして、魔王様…、僕に会いたくないとか…」

「…!!」


 マルテルが何も言わない。ビンゴか…。

 なんてことだ…ショックだ…。

 どうりで全然お会いする機会がないなと思っていたんだ…。


 トラウマになっちゃったのかな魔王様の…。僕を殺したことに責任を感じてらしたから…。気になさらなくていいのに…。


「すみません、分かりました…。僕、自分の部屋に戻りますね…」

「ゴメンねぇ…ヤツカド」


 僕は恐らく誰の目からも明らかなくらいに項垂うなだれていたと思う。


 自室に戻り、ソファに腰かける。


 それでもやはり相談はしなくちゃいけないから…。僕は魔王様に宛てて【テレカン】の信号を送った。遠隔通信での会話なら魔王様も受けて下さるかも。


・・・・・・・


『ヤツカドだな』


 通じた。魔王様の声が聞こえる。泣いちゃいそう。


「そうです僕です。魔王様、お会い出来なくて寂しいです」


 何しゃべってるんだ僕は。まずは仕事の話が優先なハズなのに、そっちを先にしてどうするよ。


『すまないな、ヤツカド。私はもう、おまえにとっては危険な存在でしかないようだ』

「そんなの、今更じゃないですか。魔王様は危険な方です。もうとっくに僕の命も含め全部魔王様に奪い取られてしまいましたよ。失うものなんて何もないんです」


 通信の向こうで魔王様がため息をつかれるのが分かった。


『おまえがおかしくなってしまったのも、もともとは私の鬼眼きがんのせい…。あれさえなければおまえはもう少し自由だった』


 魔王様の鬼眼きがん…。確かにあれがきっかけだった。


 だけど、あれが始まり…?

 何かが違う…。


 でも今は、答えが見つからない。


「申し訳ありません、魔王様。僕がもっともっと強ければ良かったのに。魔王様が十分満足できるほど大きくて強かったら魔王様にこんな思いはさせなかったのに…」


 いつだって僕は、ほんの少し努力をすればどんな望みだって果たしていた。

 今回は本気だった。本気で大きく強くなりたいと願っていたのに、全然だったじゃないか。

 こんな無力感を感じたのは初めてだ。


『ヤツカド、おまえは何も悪くない。私はおまえが生きてくれただけでもう十分だ。これ以上は何も望まない』


「僕には、もう何も望まないということですか? 魔王様が僕に会いたくないと、それだけを望むとおしゃるのであれば、僕はその望みを叶えます…」


 非力な僕にはこれくらいしか出来ない。


『ヤツカド、それは違う』

「どの点がですか?」


『おまえに会いたくないなど、そんなことは全くない』

「別にそんな気を遣って下さらなくてもいいですよ」


『私は、おまえに会いたいよ。ふたりきりで』


・・・・フタリキリデ

 え? マジ?


『おまえに触れて、甘やかしてやりたい。撫でて、抱きしめて口づけして、おまえを味わいその存在を感じることが出来たなら良かった』


「…えっと、そこまでおっしゃって下さるんですか? 魔王様」

『なぜ? おかしいか?』


「本当に? 本当にそれを望んで下さるんですか?」

『…あ、ああ? 何か間違ったことを言ったかな』


 魔王様は、とんでもないことを言いましたよ。

 もう撤回とかしないで下さいね。


「ね、魔王様。僕、何度も言いますけど、僕は魔王様の望みを全部叶えて差し上げます」

『うん…?』


【テレカン】の向こうで魔王様が当惑しているのを感じるな。


「魔王様、お会いした頃にも言いましたが僕は問題解決の専門家です。どんな問題でも解決出来るんですよ。あなたの顧問弁護士として、あなたのために」


 だから魔王様が望むなら、どんなことであっても僕はそれを叶える。

 死ぬ運命だった僕がこうして生きているのは魔王様がそれを望んで下さったからなんですよ。


 愛しい愛しい僕の魔王様。


 確かに聞きましたからね。

 魔王様がこの僕を望んで下さると。


 僕はその望みを叶えるためになら何でもやっちゃいますから。


 近いうち必ず素晴らしいプレゼントを致します。

 キレイに魔王様好みの装飾を施して、ご満足いただける品質を整えて。


 ですから、もうちょっとだけ待っていて下さいね。



「少しだけお時間を下さい。必ずや今ある全ての問題を解決し、魔王様の望みを叶えて差し上げますから」



ヤツカドさんに変なスイッチ入っちゃったところで本章終わりです。


読んで下さってありがとうございます。

ブクマも評価もむちゃくちゃ嬉しいです。

感想いただいた日なんて、調子にのって筆が進み過ぎてすべってしまうくらいです。

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