12 ジュンヤ
勇者の観察中です
魔王城に戻る前に、僕は鬼眼で獲物を狩り、爪で丁寧で皮を剥ぎ、それを火にかけ、バケットから譲ってもらった調味料をかけてそれをジュンヤに振舞った。
僕は肉は生で食べる方が好きだけど、多分人間にはキツイんだろう。
「ヤツカドさま、きがんってすごいですね! あんなにかんたんにえものをかれるなんて!」
「うん。便利だよ」
ちょっと厄介なところもあるけどね。まず魔物相手に鬼眼使ったら死刑だし。
「ボクもできるようになれないかな」
「うーん、こういう技能は向き不向きがあるからな…」
そもそも人間って魔法使えるんだろうか。
アレは魔物が使うメソッドだから『魔法』なんだろ?
「ボクにそなわってるぎのうってなにかあるかなぁ…」
それは言い出すんじゃないかなと思ってたんだ。
本人にも自分は魔物だと信じさせておくために、ちゃんと設定は用意してあるよ。
「ジュンヤだってすごい技能を持ってるじゃないか」
「え? なんかあります?」
「太陽の光を浴びても全然ダメージを受けない。なかなかそんな魔物はいないよ」
そう。魔物は一般的に日の光がニガテだ。僕でも避けたいくらいなんだ。
これをジュンヤの『魔物としての技能』ということにしてしまう。
それなら不自然じゃない。
魔物は個性豊かだから、こういう特技があってもおかしくはない。今後ほかにも魔物と違う部分が出てきたら、みんな『こういう個性なんだ』で説明してしまおう。
堂々としていれば嘘ってなかなかバレないよ。嘘が得意な僕が言うんだから間違いない。
「そういえばそうかも! ボクはたいようのひかりとってもきもちいいとおもうけど、バケットはぜんぜんなんだ。いっしょににっこうよくしてくれないもん」
「バケットは暗い場所が好きなんだよ。あんまり無茶なこと言ったら気の毒だ」
「わ、わかりました。ヤツカドさま…」
素直な子どもはいいね。バケットはちゃんと良い具合に育てたようだ。
ところで『勇者』に関してちょっと考えたんだけど…。
勇者は人間の中では数万人に1人くらいの割合で生まれるという話を魔王様に聞いた。
恐らく、特殊な才能のある人間を魔物の討伐に利用してたんだと思うんだよ。
でもそれはあくまで『魔物と人間』が争っていた頃の話。
人間が魔物との接点を失い、人間が魔物の存在を忘れてから長い時が経っている。
ということは『勇者』って不要な存在とされてはいないだろうか。
ぶつける相手がいなかったんだから。
ひょっとしてなんだけど…
数万人に1人の特別な才能を持つ子ども…。
その才能は、利用できる場所のない時代ならむしろ忌み嫌われてしまうんじゃないだろうか。
異端者として。
中世の魔女狩りのように。
ジュンヤは『特殊な才能』があると分かったから、捨てられたんじゃないだろうか。
もしもそうだとしたら…。
ちょっと楽しいね。
誰かが捨てた『不要なもの』を活用して『残念、君には道具を活かす才能がなかったんだね』ってせせら笑うの、楽しいよね。自分が有能だってことを実感できるから。
ジュンヤ、君を立派な魔物に育て上げるの、僕は楽しみになってきたよ。
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「さてと。ジュンヤ、そろそろ行こうか」
「あ、はい」
肉を食べた後の火の始末もしたし、ぼちぼち魔王城に向かうことにする。火を起こす打ち石のような道具はジュンヤの持ち物で、ジュンヤはそれを荷物袋にしまった。
「荷物、重そうだね。持とうか」
「だいじょうぶです! みためほどおもくないし。はいってるのはきがえと日用品くらいで」
「なるほどね」
そうだった。人間だから着替えを『化けて』調達するわけにはいかない。物理的な服を使わなくちゃいけないんだ。それに日用品かぁ。多分、ケルルがいろいろ分かってると思うから、その辺はケルルに任せておこう。
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「うわあ…」
魔王城に着くなり、ジュンヤは好奇心いっぱいであちこち見て回っている。
「ヤツカドさま、すごいです! みたことないようなまものがいっぱいいる! こんなにいろんなまものがいるんだぁ…」
「うん。ここの魔物達はほとんど言葉をしゃべれる連中だからね。何か分からないこととか知りたいことがあれば話し掛けてみてごらん。友達も出来るかも」
僕が初めてここに来た頃は、言葉を喋れない魔物が多かったんだけど、かなり僕が積極的に働きかけをした結果、喋れるようになった者は多い。
やっぱりやれば出来るんだな魔物って。
声帯がないとか決定的にしゃべるのに適さない魔物もいるけど、声帯のある形状に化けることで喋ることが出来るようになることもある。以前の僕やリヴァルド、そしてケルルみたいに。
「ともだち、ほしいです」
「学校に行けば若い魔物が集まるから、友達を作りやすいかもね」
魔物の『若い』って、多分だけど50歳くらいまでかなぁ…。
ジュンヤは長生きしても、他の魔物よりはずっと早く死んでしまうんだろう。
生きている間にうまいこと活用できる機会があるといいな。
「さてと…。僕はまず魔王様に報告に行くから、君は法律事務所で待ってて。ケルルがいるから心配要らないよ」
「は、はい。わかりました」
ジュンヤを招く事前の承認は取ってるけど、報告はしないとね。
魔王様のお顔を見れる機会を逃すのは惜しいし。
なにせ最近、タイミングが悪いのか魔王様とお会いする機会が少ないんだよ。
何度か魔王様の執務室や私室に足を運んだけど留守がちみたいでさ。僕が仕事に穴を空けた関係でまだ残務があるのかな。
でも謁見の間にはよくおられるので、お会い出来るときにお会いしておきたい。
僕はジュンヤを法律事務所に預けて、魔王様の元に向かった。心が躍っちゃう。
読んで下さってありがとうございます。
ブクマも評価も感想も、むちゃくちゃ嬉しいです。
すでに完結まで執筆済ですが今からでもぜひ。
掘り下げて読みたいなど思ってくださるリクエストなどいただければ、完結までなら書けるかも。いったん完結で閉じてしまったらもう足さないつもりなので…