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3 八角法律事務所は今日も大忙しです

経営者弁護士は、法律事務所を大きくしなければ気がすまないという生態を持つようです。


「クイ、調査班の報告書はまとまったか?」


「あ!ヤツカド!戻ってたんだな!

 調査班の報告書だけど、もうちょっと待ってくれよ」


 調査班のメンバーは自分では調査報告書を作らない。

 八角やつかど法律事務所のスタッフが彼らに聞き取りを行い調査結果をまとめるという方式を取っている。


「聞き取り役のスタッフがまだ慣れてなくてさ」


 最近、うちの事務所はまたスタッフを増員した。

 何度目だろうな。

 既に総勢20名を超えている。


 スタッフの取りまとめはクイの役目なので、さすがにキツそうだ。

 任せろと言うから丸投げしてしまっていたけど、そろそろサブリーダーも増やさないといけない。


 法律事務所あるあるなんだけど、忙しいと思ってスタッフを増やすと、そのスタッフの教育や管理で更に仕事が忙しくなって、そのスタッフが使えるようになる頃にはなぜか更に仕事が増えているという無間地獄みたいなところがあるんだ。


 うーん、もうちょっと使える魔物が増えたら、支部を作るのもいいな……。


「ヤツカド、また更に忙しくなりそうなネタ考えてるだろ!

 あんたが考え事してると絶対そうなるんだ!」


 クイも分かってるじゃないか。


「そう言うなって。本当にクイのお陰で助かってるよ。

 そうだな、あとで甘やかしてやろうか?」


「マジか!?」


 魔王様を見習って、僕もスタッフを甘やかさないと。


「ヤツカドさん!ぼくも!」


 離れた場所からケルルが叫んだ。

 あいつもいたな。


「はいはい。

 僕は自分の執務室で既に上がってる報告書を整理しているから、仕事がはけたらキリのいいところでふたりともおいで」


「おう!」

「はーい」


 自分の執務室に入ると、扉の向こうからクイの声が聞こえる。


「いいかみんな!

 仕事が効率よく進んだらヤツカドが甘やかしてくれるからな!

 みんなもいつか甘やかしてもらえるよう頑張れ!」


「おー!」


 ……クイ、一体なにをやってるんだ……。

 変なインセンティブ作ってないか?


 というか僕は将来的にはあのスタッフ全員を甘やかさなくちゃいけないのか?


 金が……!

 この世界に金さえあれば……!

 金で解決するのに…!!


 実はまだこの魔物世界には通貨を設けていない。

 金がない世界というのも、まあ何とかなるもんなんだ。

 変に商業主義に走ってしまうと、じっくり人材を育てるのには合わないから。


 それにしても、どうもこの魔物社会の独特な感じは、いつまで経っても慣れないな。

 なんなんだ。



________________



 いけない。執務室で仕事に夢中になっていた。

 かなり時間が経ってしまったみたいだ。


 僕が集中してる間は、クイ達は緊急の用事以外声を掛けてこない。

 お陰で作業に専念できたので、かなり捗った。


「ヤツカド? いいか?」


 僕が伸びをしているのを気配で察したクイが、扉の向こうから声を掛けてきた。


 クイは何かの気配を読む能力に優れている。

 ちなみにクイにも色々特技があるけど、まあ今必要な情報じゃないな。


「いいよ。どうぞ」


 クイは僕の執務室に入った。


「ほら、追加の報告書」


 そう言って僕の目の前に、聞き取りの終わった調査報告書を積んだ。

 また僕の仕事になりました。


「ああ、ありがとな」

「で?」

「ん? そうか。

 甘やかしてやるって話したっけ。おいで」


 クイが近くに寄ってきたので、僕はクイを抱きしめて頭を撫でた。

 

 なでなでなで。


「こんなもんか?

 何か希望があれば言っていいんだぞ」


「希望?」


「いや、いつも撫でてるだけだしさ。

 僕はどうも魔物のスキンシップがまだ理解出来てなくて」


「なんだよ。ヤツカドはまだまだ子どもだなぁ」

「ほほう……?」


 クイに子ども扱いされるとは僕も焼きが回ったもんだ。

 いやまあこの世界ではクイの方が年上なんだけどな。


「魔物のスキンシップなんて、特に決まったもんがあるわけじゃねぇけどさ。

 でも希望言っていいなら……」


 クイの顔が赤いな。

 やっぱりいい大人ともなればスキンシップを要求するなんて恥ずかしいことだろう。

 そりゃそうだ。



めて欲しい」


 舐める……。猫か?

 動物なら確かにそういうのはあるだろうけど……。


「それはやめた方がいいと思うな。

 僕の舌は消化液が付着してるからクイが溶けてしまうよ」


「あー、そうだな。やめとく」


 それに正直、抵抗あるぞ。

 一応人間みたいな外見をしているクイを舐めるとか?

 僕はそういう意味では人間を捨てていません。


「じゃあさ、じゃあ、オレがヤツカドを舐めるのは?

 舐めていいか?」


「……僕を舐めるの? どこ?」

「え? 顔とかかな?」


 顔か……。顔なら問題ないかな。

 特にヤバい場所ではなさそうだし……。


「一応聞くけど、クイの唾液って毒性とかヤバい特質はないんだな?」

「ねぇよ! ヤツカドと一緒にすんな」


 ひどいな……。


「まあいいや。

 うちの優秀なパラリーガルのためだ。

 好きなだけ舐めてくれ」


 覚悟を決めて舐められることにした。


 クイが喜んで僕の顔をペロペロと舐めてくる。

 頬から鼻から、口も。


 うーん…… 僕の口は危ないから気を付けて欲しいな。

 人間に化けてるときは消化液出さないようにしてるけど、何かの弾みで出しちゃうこともあるから……。


 それにしても僕は一体何をされているんだろう。


 仕事を頑張るパラリーガルをねぎらっている……んだよな。


 けどこれも魔王様のため……。

 魔王様のために、最高の仕事の成果を上げるためだ。

 そのためなら僕はなんでも出来る……。


 まてよ……?

 この調子でいくと、まさか僕は20名ほどのスタッフから同じような要求をされるのか?


『魔物のスキンシップなんて、特に決まったもんがあるわけじゃねぇけどさ』とクイは言っていたことだし、こんなのはクイだけだと信じたい……。



 ちなみに、のちほどケルルからも似たようなことをされました。




読んで下さってありがとうございます。

ブクマも評価も感想もむちゃくちゃ嬉しい…。

お楽しみいただければ幸いなのです。

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