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8 僕たちの未来を守るため

引き続きオルガリッドでお仕事に勤しむヤツカドさんです。


 僕は八足の姿のまま、砂の中を進んでいた。


 海ではロクに泳げなかったけど、砂の中はまるで泳ぐように進むことが出来る。

 ここは柔らかくて心地よい。


 こう言っちゃなんだけど、オルゴイが用意してくれた部屋にはベッドひとつないので、あの床に寝転ぶよりはコッチの方がよっぽどリラックス出来るというもの。


 これくらい離れればいいかな。

 

 あとは静かに待つ。

 そろそろのはず……。


 お、来た来た。

 とても僅かな信号だけど。


「はいはい。こちらヤツカドです。

 サンドラーさん聞こえますか?」


『ヤツカドさん〜、サンドラーです〜。聞こえるよ〜』


「そろそろチャンネル合わせるのも迷わなくなってきましたね」

『そうだね〜。ヤツカドさん慣れたね〜』


 遠隔通信の魔法【テレカン】は、慣れてみれば比較的難易度が低い魔法のようだ。

 最初に信号を発信してそれを感知した受信側が波長を合わせると会話出来る仕組みらしい。


 難易度が低いといっても、僕も最初は信号は聞こえないわ波長が合わないわで大変だった。

 だけど一度通じさえすれば、その相手の波長は分かるようになるので簡単に会話が始められる。


 仕組みを知れば便利そうな点も多い。


 まず、受信側の積極的な協力がないと会話が出来ない。

 これなら一方的に会話を押し付けるようなストーカー行為は防げそうだ。

 最初に送る信号は僅かだから無視しようと思えば無視できる。


 ただ、本当に僅かなので、他のことに気を取られていると気が付かない。

 だからこうして僕も静かな場所にいるわけなんだけどね。


 以前いた世界の『テレフォンカンファレンス』、『電話会議』とも言う。

 これと似たところがある。

 予めスケジュールを組んで時間に合わせて通信するやつ。


 そういう意味では絶妙なネーミングだったと言える……ということにしておく。


『ヤツカドさん〜、どう~?

 サンドラー役に立てた~?』


「本当に助かりました。

 これからマニュアルを作りますので、また分からないことが出たときにはぜひ助けて下さい」


『いいよ~。【テレカン】が広まったら、サンドラーもっといろんな魔物と喋れるようになるかもなんだよね~? 楽しみ~』


 お世辞でなくサンドラーは役に立った。


【テレカン】の技能を教えてくれた点は勿論だけど、それが分析的だから教え方が上手いんだ。

【テレカン】の原理をしっかり理解していて使っていたわけだ。


「喋る相手が欲しいのなら、魔王城や他のコミュニティにもにいらっしゃいませんか?

 それでやり方を広めて下さいよ」


 講師として派遣すれば、僕がやり方を教える手間が省ける。


『うーん~、行きたいけど~サンドラーは砂漠から離れられないから~』


『自分の土地から離れられないから』。

 法律相談を受けるときに、その手の話を何度か聞いたことがある。

 自分の土地を離れることが出来ないから土地は売却出来ないだとか、仕事を変えることは出来ないとか。


 けれどその事情を詳しく聞いてみると突破口があるもんなんだよ。


 なぜ『離れられない』のか。

 原因は親だったり、先祖の墓だったり、農地や林業など土地と絡んだ仕事だったり様々だけれど、そこを解決することですんなりと話が進むことも多い。


 ふふふ。

 有能でやり手の弁護士たる僕に話してごらん。



 ………。


 話を聞いて、簡単に解決法が見つかった。


 サンドラーは不定形な砂の魔物なので、砂で形を作ってある程度は移動が出来る。

 けれど、砂がないところに移動すると砂がどんどんこぼれていき、だんだん減っていってしまうそうだ。

 そして最後には消えてしまうと。

 だから砂がある場所を移動して常に供給されないといけないということだ。


「砂を詰めたコンテナを用意して、そこに入ったまま運ばれて移動すればいいじゃないですか」


「それなら砂減らないね~!

 ヤツカドさん賢い~!」


 まあね。コンテナを運ぶための人員は必要だけど、それはなんとかなるだろ。


 こうして無事、サンドラーに講師を快諾させることができたよ。

 さすが僕。



_______________




 僕はサンドラーとの通信を切り、再び砂の中に潜った。

 まだ日が沈み切っていないので、砂の中の方が快適なんだ。


 ……? うん、また……。 


 砂の中にいると、なんか尻尾の先がムズムズする。

 何かついてるのかな?


 歩みを止め、僕は自分の尻尾を目の前に回して確認してみた。


 尻尾の先がなんとなくふくらんでいる。

 れているのか?


 その膨らんだ尻尾の先に、湾曲した針のようなものが刺さっていた。

 トゲ? これか……。


 抜きたいけど、この八足には『指』もなく器用とは言えないから棘を抜けそうにないな。

 後で誰かに抜いてもらうか……。


 痛みはないから今は気にしないことにして、僕はオアシスの方向に向けて進んだ。


 オアシスの岩場に、目立たないように小さな小屋を作らせている。

 簡単なものなので明日にでも建築は終わりそうだ。

 ここを拠点にして誰か置き、オアシスに来た魔物に住民台帳への記載を促す予定なんだよ。


 砂から顔を出したところ、ちょうど小屋にいたオルゴイと目があった。


「ヤツカド、早いな」


「オルゴイさんこそ。

 小屋はほとんど完成したみたいですね」


「ああ。あと頼まれていた地図。

 アバウトなのでいいんだろ?

 ほら見てくれよ」


 オルゴイは巻かれた紙状のものを差し出す。

 そろろそ日も落ちてきたことだし、人間の姿に化けても大丈夫そうだ。

 細かい作業はこの八足の状態では向かない。


 人間に化けると僕は地図を広げた。


「うん…良さそうです。素晴らしい。

 あともう一点やっていただきたいことが……」


「ヤツカド、アンタ魔物使い荒いな」


「んー……まあ、そうですね。自覚はあります。

 だから無理にとは言いませんよ。

 時間のあるときにやっていただければいいんです」


 自分にも何度も言い聞かせているけど焦りは禁物なんだ。

 魔王様の望みを叶えるために僕は何でもやるけれど、それで有用な人材を使い潰したら元も子もない。


「いや、いいよ。言ってみろよ。

 何をやればいいって?」


 確かに僕は人を利用するのは得意だけど、それにしてもオルゴイにしろみんな要求に応えすぎているような気がする。

 もう少しサボるヤツが出てもおかしくないんだ。

 それくらいは織り込んでいるつもりだし。


 僕自身が休みなく働いているのは、とにかく愛する魔王様の望みを叶えるため。


 だけど、他の魔物は?

 なぜ働くんだろう。


 まさか魔物って働き者なの?


「オルゴイさん、僕の要求に応えすぎです」

「なんだよ。やれって言ったのはヤツカドだろ」


「そうなんですけど、なんでそんなに働くんです?」

「アンタがソレ言う?」


 オルゴイはくすんだ金髪の頭をぼりぼりとかいた。

 こういう細かい仕草が人間っぽいから、話しているとときどき僕も人間に戻ったような気分になるよ。


「ヤツカド、俺は感心してるんだぜ?」

「何をです?」

「ヤツカドが必死に働いているのは、俺たち魔物を守るためなんだろ?」


 ……えーと……?


「魔王様に聞いた。

 悪辣な人間どもに対抗する手段として『社会』を作るためにヤツカドが働いてるってさ。

 自分たちの未来を守るために協力しろって言われたよ。

 みんなのために寝る間も惜しんで働くなんてなかなか出来ることじゃない。

 大したもんだ」


 あー……なるほど。

 途中いろいろ省かれてるけど、間違ってはいない。


 僕自身としては、ぶっちゃけ魔物の未来なんてどうでもいい。

 人間にやられて死ぬなら死ねばいいんだ。


 どうなっても僕はうまく立ち回って生き残ることが出来るだろうし。

 魔王様さえお守りできればそれでいい。


 魔物の未来を望んでいるのは、魔王様。


 魔王様が望むのであれば、僕はこの身に代えてでも実現する。


 だから、まあ……魔物の未来を守るために僕が働いているというのも嘘ではない。


「その通りです!

 僕たち魔物の未来のためにがんばりましょう!」


 そういうことにしておこう!

 魔王様のご説明に乗らせていただきました!


「おおヤツカド!

 なんて立派なんだ!

 俺も出来る限りのことはするぜ!!」


 オルゴイも納得してるようだし、これでヨシ!



 それにしても、さすがは聡明なる魔王様。

 王様やってるだけあってカリスマ性があるんだな。


 そういうとこも全部ひっくるめて、愛してます。




読んで下さってありがとうございます。

ブクマも感想も評価もうれしいです。

感謝の気持ちを込めて…。

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