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7 新たなる挑戦

盛大な独り言(?)をオルゴイくんに聞かれちゃったヤツカドさんです。


 オルゴイは僕に軽く何かを投げた。

 受け取ってみると、それはネズミだった。


「これは?」


「スナネズミ。

 ヤツカドあんた、生き物食うって言ってたろ?」


「ええまあ」


「そんなんで良ければ少し獲ってきてやろうと思ってさ。味見用」


「……それはご親切にありがとうございます」


 親切でやってくれたことだし、一応礼を言ったものの……。


 ネズミかぁ……。


 僕はもともと日本人なので、ネズミを食べる食文化がない。

 出身がベトナムやペルーだったなら抵抗がなかったかも知れないが。


 こっちの世界に来てからも、なんだかんだ言ってビーフやら刺身やら、つまり僕の食文化的に歓迎できるものばかり食べていたからな……。

 人間も食べたことあるけど、あれはちょっとした例外というか。


 確かに成長期のときなど、無意識に近い時には樹木だろうが岩だろうが食べてしまっていたけれど、正気の状態でネズミを食べるのは……。


 しかも未調理!生だぞ。


 百歩譲って、これも流行のジビエ料理と考えるとしても……。

 せめて……せめて焼いて食べれば……。


「ヤツカド、嫌いなら別に無理して食わなくていいさ」

「嫌いというよりは、食べたことがないものなので……」


 悩む……。


 確かに食べないという選択肢もあるけれど、でもオルガリッドで食えるものっていったら、ネズミの他はヘビやトカゲだって話だから、どれもそう変わらない。

 どの道何か食べなければならないなら、新たな食文化に触れるのもいいんじゃないか?


 海外旅行に行って「食べたことがないから食べない」なんて言っていたら、折角海外に出ても新しい味覚に巡り合うチャンスを失うだけだ。


 脳は、常に新しいものを摂取してこそ発展を続けるもの。

 ここは新たな可能性にチャレンジするべきでは……?


 ………。


 結局、僕はいったん八足の姿に戻ってからスナネズミを食べてみたよ。

 どうにも人間の姿のまま生でネズミを食べる気にはなれなくて……。


 味は……。

 小さすぎてさっぱり分からなかった。


 折角だからもっとちゃんと味わってみたかったな。


 次は人間に化けたときに食べて……いや食べないよ?



______________




 それはさておき、僕は遠隔通信の魔法の開発についてオルゴイに一通り話した。


「なるほど。それであんなことを……。

 って説明を聞いてもやっぱりあんたが疲れているようにしか思えないんだが」


「そう言わないで下さいよ。

 当該魔法を使える魔物が死んでしまってノーヒントなんです。

 何か手掛かりとか心当たりありませんか?」


「あるな。もっと早く俺に相談すりゃ良かったんだ」


 ん? まさかの?


「魔王城の近くで遠くと会話できる魔物って話を聞いてピンと来たぜ。

 その会話の相手がオルガリッドにいるんだよ。

 会わせてやるからついてきな」



 僕はオルゴイに案内されて再び砂漠の洞窟に戻った。


「サンドラー?

 サンドラー近くにいるかい?」


 洞窟の前でオルゴイはどこへともなく声を上げた。


「いますよ~」


 声が聞こえる。

 どこだろう。


 そう思っていると、目の前の砂が盛り上がって小さな砂山を作った。


「ここです~」


 不意にその砂山の中心に穴が空いたと思うと、そこがパクパクと動いて声が出ている。

 ああ、そうか。サンドラーというのは砂の不定形な魔物なんだな。個性的だなぁ。


「サンドラーさんですか?

 初めまして。ヤツカドです」


「ヤツカドさん~、こんにちは~。

 サンドラーです~」


 喋り方は少々間延びしているものの、まあまあしっかりしているな。


「サンドラー、ヤツカドはおまえさんの友達の話を聞きたいんだってさ」


「そうなんです。

 オルゴイさんの話では、サンドラーさんは魔王城の近くに住む魔物と離れた場所から会話していたと聞いたんですが」


「してたよ~。

 でも最近応答がないの~」


「その魔物は最近亡くなったとのことです」


「そっか~。死んじゃったのか~。

 もう動けないっていってたもんな~。

 会いたかったけどサンドラーは砂漠から出られないから~」


 そういうタイプの魔物なのか。

 本当にいろんな魔物がいるな。


「この度はお悔みを申し上げます」


 別に親戚とかではないだろうけど、一応。


「ん~。そうね~。

 寂しくなるな~」


「なぜサンドラーさんは遠く離れた場所にいる魔物と会話することになったんです?

 もともとお知り合いだったんですか?」


「それはね~、あいつだけだったの~。

 通じるのが~」


 これはかなり重要な情報のような気がする。

 しっかり聴取しなければ。


 僕はサンドラーに対してかなりしつこく質問攻めにした。


 サンドラーの間延びする喋り方は、少々まどろっこしかったけれど大体の概要がつかめてきた。


 まだ推測の段階なんだけど、遠隔通信の魔法はどうやら双方に能力がないと使えないらしい。

 言われてみればもっともかも知れない。

 電話にしろ無線にしろ、送信機と受信機があって初めて機能する。

 一方だけの設備では通信なんて出来るものじゃない。


 そうだとすると、僕が魔王様と通信するのであれば魔王様の側にもその技能を会得していただく必要があるということだ。


 そうなればまずは僕がこのサンドラーと交信できるようになればいいんだ。

 それで技能を体得した上で、通信したい相手にその方法を教えればいい。


 あとは、その技能がそれほど難易度が高くなければ助かるんだけどね。



_______________




 それからの僕は、夜はオルゴイと住民台帳作り、昼は洞窟の奥でサンドラーから遠隔通信の魔法のレクチャーを受けた。

 寝ているヒマなんてない。

 といっても僕には睡眠はほとんど必要ないことだし。


 有翼種の定期連絡便で逐一、クイ達とは連絡を取っている。


 魔王様も読んで下さっているかな。

 遠隔通信の魔法、必ず手に入れて帰りますからね!


「ところでサンドラーさん、この遠隔通信の魔法……いちいちそう言うの面倒くさいですね。

 名前とかないんですか?

 ほら鬼眼きがんみたいなの」


「ヤツカドさんは鬼眼きがん使えるの~?」

「ええまあ」


「そっか~。鬼眼きがん便利でいいよね~。

 獲物取り放題~」


「遠隔通信の魔法だって、使えれば便利だと思いますよ」


「そうでもない~。

 相手も使えないと意味ないし不便~。

 だから誰も興味持たないし~。

 名前もつけられてないの~」


 ああ、なるほど。

 多くの魔物が興味を持つ魔法については誰かが積極的に名前をつけるだろうけど、ほとんど使用者のいない魔法は興味を持たれないために名前も必要がなかったというわけか。


 つまり……


 また僕が名前つけるの?


 何度も言ってるけど、僕にはネーミングセンスが乏しい。

 四天王の二つ名やらコミュニティの名称をつけるのにどれだけ苦労したことか。


 もういい。もういいよ。

 名前を付けることに僕の貴重な脳のリソースを費やすことは社会的損失だ。

 適当だ適当!


「じゃあ『テレカン』って呼ぶのはどうですか?」


 もう知るか。

 僕にやらせるのが悪い。


 というわけで、この世界における遠隔通信の魔法の名前は【テレカン】に決まりました。





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