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4 コミュニティ管理の基本

四天王オルゴイさんのとこに出張です。


 四天王のひとり、オルゴイが管轄しているコミュニティ


『オルガリッド』


 『砂蚯王さきゅうおうオルゴイ』の名前に『arid(乾燥した)』を組み合わせて名称を付けたことからも分かるように、ここは乾燥地帯だ。


 赤茶色の砂漠、そして巨大岩石が立ち並ぶ。

 この岩石に挟まれるように洞窟が点在し魔物達がそこで住居を構え生活している。


 通常の生物であれば生きるのに過酷なこの場所を好み、適応して生きているわけだから、ここの魔物達はなかなか生命力が強そうだ。


 他のコミュニティ、ラヴァダイナス、アルパドリュー、そしてベンシックリヴ。

 それにここオルガリッド。


 こうして並べてみても、どこも人間の手が及ぶ危険性が低い。

 つくづく魔物は人間と距離を取って生きていこうという姿勢が見られる。

 お互いに干渉せずに生きていければ問題は起こらないはずなんだけど……。


 人間はせせこましく土地を相争い奪い合うよな。

 少なくとも僕の生きていた世界なら、こういった砂漠地帯ですら原油などの天然資源を求めて戦争が起きたりするわけでさ。


 結局、安全な場所なんてものはないんだろう。

 人間と距離を取って、ずっとやっていけるわけはない。


 いつか、戦争になる日が来るんだろうか。 


 それならそうで、法律家として僕に出来ることもある。



 そんなことを考えつつ、僕はオルガリッドに向かってひとり歩き続けていた。

 今回は魔王様が送って下さらなかったので、自力でここまで来たわけだ。


 方向は間違っていないはずだけど、砂地が続く。

 景色も見飽きた。


 そうこうしているうちに、なんとかオルガリッドに到着した。

 僕は砂地を歩くのは得意みたいで、かなりのスピードで進めたんだけど、それでも二晩かけてしまったよ。


 昼間も移動を続ければずっと早く着いただろうけど、できれば昼間は歩きたくない。

 砂の中にもぐってやり過ごした。


 意外に砂の中にいるのは心地良い。


 そういえば今の僕の姿って、八本の足に長い尻尾のちょっと変わった形だなって思っていたけど。

 ほら、だいぶ太くなってしまった全方位警戒器官を前に持ってくるとちょうど……砂漠で見掛けるサソリに似ているような気がする。


 真っ黒いサソリ。

 すると触覚か角かと思っていたコレ、触肢しょくしなのかな?


 以前、オルゴイに砂の中に引きずり込まれたときにも思ったけど、ひょっとすると砂地は僕に合ってるのかも知れない。


 ただ、仮にそうだとしても、ここじゃあベンシックリヴのような海の幸も期待できないし、正直僕としてはあまり進んで来たい場所ではない。

 どうせ長期出張になるならベンシックリヴの方が良かった。


 いやいや。長期になるかどうかは僕次第だ。

 遠隔通信の魔法さえ開発すれば、早々にここからおさらばできる。


 といっても魔法の開発なんて僕はやったことがない。

 せめてコツを教えてもらえれば助かったのにな……。


 つくづく技能を持った魔物が死んでしまっていたことが悔やまれる。

 もっと早く訪ねていれば間に合ったかも知れない……。




「よく来たな!ヤツカド」


 四天王『砂蚯王さきゅうおうオルゴイ』が岩に囲まれた洞窟の入り口で出迎えてくれた。

 ミミズのような下半身で伸縮しながら歩む様子はやはり特徴的だ。

 砂の中の移動であれば蛇のように蛇行するよりもコッチの方が砂の抵抗が少なくて楽かも知れない。


「どうも、オルゴイさん」


 オルゴイの視線に合わせるため、僕は八角人志やつかどひとしの姿を取った。


「外はホコリっぽくてたまらないからな。

 中に入れよ」


「ええ、お邪魔します。

 そうそう、これお土産です」


 僕は触肢に引っかけて持ってきた袋のまま、オルゴイにそれを渡した。


「おお!頼んであった『茶菓子』だな!ありがとよ!」

「うちのパラリーガルの渾身の作ですから楽しんで下さい」


 クイの開発した『茶菓子』は好評で、八角法律事務所では来客に振舞っている。一度食べたオルゴイもいたく気に入ったようで、今度尋ねるときには土産として頼まれていたんだ。



 オルゴイの執務室に通された。


 しかしここも殺風景なもんだな。

 最近、魔王様や僕の執務室に調度品が揃っているのを見慣れてしまったため、なおさら物寂しい。


 とはいえここで余計な口出しをすると僕の仕事が増えるから黙っておこう。


「まあ適当に座ってくれよ」


 床に直に座るのか……。

 確かにオルゴイの体形を見る限り、椅子に座るよりトグロでも巻いていたた方が座りが良さそうではある。


「ヤツカド、今回の滞在は長いのか?

 毎回用事が終わるとすぐ帰りやがるからなぁ」


「どうですかね。

 今回は僕には課題がありましてね。

 それ次第かな」


「へえ? 課題ねぇ」


 もちろん、その課題ばかりに専念しているわけにはいかない。

 やるべきことは山ほどある。



「ところで裁判所の建築は順調ですか?」


「後で現場を見てくれよ。

 そろそろ完成するぜ」


「さすがオルゴイさんです。

 あなたの指揮があればこそですね」


「ああ、まあな!」


 とりあえず褒めておこう。

 気分よく働かせるためにはとにかく褒める。



「裁判所といえば、オルガリッドからの刑事事件の報告が少ないようですが、あまり事件は起きないんですか?」


 魔物は寿命が長く、魔物の世界は人口の増減が少ない閉じたコミュニティであるため、深刻な事件が起きることは少ないようだ。

 しかしそれでも今まで同族殺しを禁じる法がなかったこともあり、魔物には同族を殺すことに対する抵抗が低い。

 だから殺害事件も起きるときには起きるもの。


 実際、他のコミュニティでは何件か起きている。

 それに比べるとオルガリッドからの報告は極端に少ない。


「ん~……。実はそれで少々問題があってな。

 相談に乗ってくれよ」



 聞くと、どうやらオルガリッドに棲む魔物達は土中に潜って生きている者が多く、オルゴイも棲息者の所在や人員を把握出来ていないとのことだった。


「だから仮に事件があっても、俺も気が付かないで終わると思うんだよな」


 誰かが消えても分からないということか。それならやはり……


「そろそろ住民台帳、作りますか」


 住民台帳というのは、政府機関や役場が住民を統一的に管理するための制度だ。

 支配者から見れば住民を管理出来るに越したことはない。


 魔王様であれば魔物達の所在や状態を玉座に座ったまま全て把握することが出来るようなんだけど、いちいち魔王様を通さなければ住民の管理が出来ないというのでは社会として機能しない。

 四天王のレベルで管理できる状態にしておきたいと僕も前々から考えていた。


 しかし魔王様のお力抜きでこれを作るためには、住民の協力は欠かせない。

 例えば魔物の出生にしろ死亡にしろ、魔物が自ら届け出てくれなければ住民台帳の迅速なアップデートが図れない。


 『出生』については、魔物が生まれる『混沌』と呼ばれる地核の場所は決まっているため、魔物が生まれる場所はある程度特定される。

 そこに見張りを置いているためおおよそのところは把握できる。


 しかし『死亡』は、そうはいかない。

 周囲の魔物が届け出なければ把握出来ない。


 従って魔物の自発的な届け出を促すため、住民台帳に登録されることで住民にメリットがあるよう制度を設けなければならない。

 またそのメリットが住民に広く認知されることも必要だ。


 その意味で住民台帳が機能するまでには、それなりに時間もかかる。

 早く取り組むに越したことはないな。


「へえ、住民台帳ねぇ。

 じゃあいっちょ作ってみるか。

最初はどうすればいい?」


「まずはオルゴイさんの把握してる範囲で良いのでアバウトに作りましょう。

 その後ゆっくりと住民台帳記載のメリット等を制度として作って、魔物達が自分からそれを正確なものにしていくんです」


 住民台帳を作るにあたり、ひとつ考えていることがあった。


 僕の知る範囲では、台帳に記載される住民の情報は、氏名、生年月日、性別、住所等だけれど、別にそれに限ることはない。

 特技なども把握できれば人材の活用がぐっと楽になるじゃないか。

 これなら魔法の活用も加速するぞ。


 ここオルガリッドで住民台帳を作って、それをモデルケースにして他の四天王のコミュニティでも発展させよう。


 もちろん、例の遠隔通信魔法の開発も同時進行しなくてはならないし、やることはいっぱいだ。

 どこに行ってもむちゃくちゃ忙しくなってしまうのはどうしたことか……。



「ま、とりあえず今日はゆっくり休んでくれよ。

 ヤツカドの部屋も用意してあるからな。

 メシは何を食うんだ?」


「なんでも食べられますけど、生き物が好きかな。

 何か美味しいものがありますか?」


「そうだなぁ。

 この辺ならスナヘビやスナネズミかな。トカゲとか」


 ……蛇やネズミやトカゲかぁ。

 そりゃ何でも食べるけど……。


 僕、それなりに美食家なんだよ……?


 早く帰りたくなってきた……。


 いやいや、それもこれも魔王様のため。


 魔王様、僕は魔王様のお力になるべく、頑張りますから!





読んで下さってありがとうございます。

ブクマ、感想、すごく嬉しいです。

読んで、下さっているんですよね? 信じてますよ!

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