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3 愛と忠誠の証明

ヤツカドさんは基本サイコパスなので、一人称で語っていても平気でウソついてたりします。


 僕は今、魔王様の執務室の扉の前にいる。


 魔王様に『顔を見たくない』と言われていたので、一応の妥協案を探りつつ来たわけだけど、これで不快に思われないとも限らない。



「魔王様、ヤツカドです。入っても宜しいでしょうか」


 僕は扉をノックした。

 しばらく間がありマルテルが扉を開けた。


「ヤツカド、お待チどうさ……」


 僕の姿を見てマルテルが言葉を失った様子だ。

 そうだろうなぁ……。


「ヤツカド?」

「そうなんだ」

「……よく分かんないケド、まあイイや。入っテ」


「どうしたヤツカ……」


 あ。魔王様も絶句してる。

 しかしさすがは僕の敬愛する魔王様だけあって、すぐに冷静さを取り戻したようだ。


「ヤツカド、私をからかっているのか?」


「とんでもありません。

 僕の顔をお目に掛けないよう工夫をしてみたのですが」



 今の僕の姿は、つまり……魔王様なんだ。


 僕の顔を見たくないとおっしゃるから、何か別のものに化けようかと思った。

 本来なら色々選択肢があったんだけど、どうも今の僕は非常に動揺しているようだ。


 頭の中が魔王様のことでいっぱいで、魔王様のお姿しか思い浮かべることが出来なくて……。

 普段ならこんなご無礼なことは絶対にしないところだ。


 確かに僕は日頃から魔王様のことをガン見しちゃってるし、何度も何度も魔王様のお姿を心に描いているから、魔王様のことならどんな細かいところも想像出来る。


 それでも、至高の存在である魔王様のお姿を模するなんて、そんな冒涜的なことはするべきじゃない。

 魔王様だってもしも僕が陰でお姿を真似ているなんて知ったら不快に思うことだろう。


 だから誓って今までこんなことはしなかった。


「すみません。やっぱり出直します」

「いや、ちょっと待て」


 魔王様は僕の目の前に進み出ていらっしゃった。

 そしてまじまじと僕の顔を見つめる。


「おもしろいな」


 あれ。

 意外に好評?


「なるほど……面白い。

 自分の姿をこうして外から見るのは初めてだ。

 マルテル、これは私に似ているか?」


「ソックリ!」

「そうか。ふーん」


 なんか魔王様が楽しそうだ。


「ではこのまま用件をお話させていただきますね」

「なんだ。それを見せること以外に用事があったのか」


 そりゃありますよ。

 僕は別に道化師じゃないんですから。


 でもまあ魔王様のためなら道化師にだってなってもいい。


「実はですね、遠方と会話できるという魔法を使える魔物に会いに行ったのですが、その者は既に亡くなっていたんです」


「そうか。それで?」


「その魔法、魔王様はやり方をご存じないかなと思いまして。

 もしも方法論が確立できれば、遠方との連絡が今よりもずっと効率よく出来ることになりますから」


「なるほど。

 私には必要がなかったから考えもしなかったが…」


 魔王様には必要ないだろうなぁ……。

 一瞬で移動できる方なんだから。


 あれも僕は習えないかと思ってやり方を聞いてみたけど、今のところ出来そうにない。

 未だに鳥に姿を変えて飛ぶことも出来ないし。

 こっちはあとちょっとだと思うんだけどな……。


 とにかく魔法によっては難しいもんだよ。


 でも僕の学習能力の高さをもってすれば、近いうちに何とかなるとは思っている。


「私がその魔法のやり方を研究してもいいが、こういうものは必要性が高い者がやった方が成功するだろうな」


 それは僕も考えていたところだ。


 今までの経験から見て特技としての『魔法』は必要性から個人が編み出しているものが多い。

 今回の遠方との会話だって身体が不自由だったから出来るようになったもののようだし、クイが化けることが出来たのもそもそもは自分の姿が嫌いだったからという話だ。


「ヤツカド、出張に行ってはどうだ」


「出張なんてよく行ってるじゃないですか。

 それで必要性が高まるとは思えないんですが」


 大体、帰ろうと思えば1日あれば戻ってこれる。


「おまえ、いつも私のことを愛してるだのなんだの言ってるじゃないか」


「ええ、愛しております。

 この世界でただひとり、僕の愛と忠誠を捧げる魔王様のことを」


「……自分の姿に言われるのは奇妙だな」


「分かります。

 僕もリヴァルドと話すたびに同じこと思いますもん」


「とにかく、その『愛と忠誠』とやらが口だけではないことを証明してみてはどうだ?」


 ……!


 ど、どうしよう……。

 魔王様のこんな挑発的なご発言、初めてじゃないか?


 感激のあまり僕は打ち震えてしまう。

 この挑発に乗らずにどうするよ僕!


「分かりました!

 折角の機会です。

 僕の愛と忠誠を存分に証明してみせます!

 そろそろオルガリッドに顔を出す予定でしたし、例の魔法を開発するまでは帰らない覚悟で行って参ります!」


 あ。魔王様が声を出しておかしそうに笑っていらっしゃる。


「くっくっ……、本当に面白いな。

 私の姿でそれを言うのか……」


 こんなに楽しそうな魔王様は久しぶりに見たな。


「……ヤツカド」

「はい」


「『顔を見たくない』なんて言ってすまなかったな」


「いえ構いません。

 でも撤回なさってもいいですよ?」


「本当に図々しいヤツだ」


「申し訳ありません。

 弁護士ってそういう生き物なんです」


 弁護士と言うのは、権利関係を争うのが仕事だ。

 相手がクライアントだろうが敵だろうが、常に一歩踏み込んで立ち入らなくてはならない。

 謙虚で控えめではやっていけないものなんだ。


「撤回する気はないが、別におまえが見苦しいという理由ではないんだ」


「僕もそうじゃないかとは思っています。

 顔にも自信がありますから」


「ふふ。つまり、おまえの顔を見ていると食べたくなってしまって、誘惑的過ぎるんだ」


「ああ、そっちですか。

 僕そんなに美味しいですか。

 自信持っちゃうな」


 相変わらず魔王様が楽しそうなので、僕も嬉しい。

 それに、魔王様は僕のことがお嫌いなわけではないようだ。

 それが分かっただけでも僕は救われる。


 それにしても……

 僕は他人を操るのが得意な方だったんだけど

 やっぱり魔王様だけは一筋縄ではいかない。

 僕の方が簡単に操られてるじゃないか。

 

 なのにそれがこんなにも幸せなのが不思議だよ。




 そうして僕は、急遽オルガリッドへ出張に行くことになった。

 魔王様に厄介払いされたなんてことは勿論考えない。


 なんとしてでも遠隔通信の魔法を開発し、魔王様と遠方からでもお話出来るようになってみせる!

 魔王様だってそれを僕に期待しておられるに違いない。

 そう思うと、やる気出る。



 ちなみに魔王様のお姿を取ることは、どうやらご不興を買わなかったようなので、また魔王様の前でなら披露してもいいな。





読んで下さってありがとうございます。

ブクマも評価も感想もむちゃくちゃうれしい…。

感謝の気持ち伝わってますか?

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