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1 権力機構

新章です。

新章も盛り込みたいことたっぷりです。

よろしくお願いします。


 さて。本日も魔王様と楽しく法教育のお時間です。


 といっても純粋に勉強を目的としているわけじゃない。


 そもそも『法律学』というのは純粋学問ではなく、極めて実利的な『実用学問』だ。

 法律はただ存在するものではなく、そこには法律を必要とする理由『立法趣旨』と、その理由を裏付ける『立法事実』がある。


 簡単に言っちゃうと『必要だから法律を作る』わけ。


 立法者である魔王様に立法を打診するにあたり、まずは『立法趣旨』を説明し、ご納得いただいた上で立法行為に取り組んでいただこうと考えている。


 そうやって最終的に魔王様の望みに沿う法律を作っていく。

 魔王様の最高の顧問弁護士たる僕は常にクライアントの望みを叶えることを怠らない。

 そのためのヒアリングを兼ねた法教育なのです。



「今回検討するのは、統治機構の話です。

 つまり権力構造のことですね」


 こんな政治関連の話まで顧問弁護士の仕事なのかと思われるかも知れないけど、実は政治と法律というのは非常に密接な関係にある。

 大学で政治学科が法学部に設定されるのもそのせいだ。


 権力の仕組みは法の制定・解釈の前提になるので、法律家は当然頭に叩き込まなくてはならない。

 従ってこれは僕の専門分野のひとつでもある。


「国を運営するにあたり権力構造というのがあります。

 僕が顧問弁護士として就く前も、魔物社会にも一応そういったものは存在していたことが認められました。

 それは極めてシンプルなもので、『魔王様と魔物』の二者構造。

 つまり魔王様が命令をし、魔物がそれに従う。それだけのものです」


 シンプルな構造は分かりやすくて、原始的な魔物達にとってはそれで充分だし精いっぱいだったのだと思う。

 

 しかし、それだけでは集団としては弱すぎる。


 魔物に『社会』を構築するためにはもっと複雑な統治機構が必要なんだ。


 なぜそのシンプルな構造では『集団として弱い』かと言うと、理由はいろいろあるけど。


 最もたるものは、魔王様が魔物を全部把握することはムリだということ。


 命令をするにしても罰を与えるにしても、完全に網羅出来ない。


 だから命令違反は横行し、罰も一般化させることが出来ず『魔王様に問題にされなければよい』レベルにしかならない。

 そんな脆弱な命令社会で、集団として行動することは難しい。


 命令を広く浸透させる。

 その命令に従わせる。


 魔王様が命令をしたときに、それを網の目のように広く隅々まで浸透させなければならない。

 そして従わせなければならない。

 そうして初めて組織として機能する。


 そのためには魔王様と魔物という二者の構造だけでは不十分。



 そこで僕は、コミュニティごとに四天王を任命することを魔王様に進言し、地方行政を任せることにした。

 魔王様とコミュニティの魔物との間にワンクッション置いた形だ。


 今ではコミュニティごとに裁判所も設置され、少しずつだけど機能している。


 裁判には、法律に定められた義務違反を処罰する『刑事裁判』のほか、コミュニティごとの紛争を解決する『民事裁判』があり、今後民事法を立法した上で、民事裁判は四天王に委ねられる。



 四天王の役割はそれだけではない。

 司法だけではなく『行政』も行わなければならない。


 行政というのは、つまりは政治のことだ。

 都市計画の他、教育制度の実施といったものが最近の行政の役割として挙げられる。


 僕が弁護士だから裁判所を作る方の話ばかりに重点を置いてしまったけれど、魔物の社会化のためには『行政』が重要な課題であることは明らかだ。



「魔王様はその『行政』を四天王に委託する必要があるのです。

 つまり、四天王には好き勝手にコミュニティの政治をさせるのではなく、魔王様の命令に従って、魔王様の委任の範囲で『行政』という仕事をさせるわけです」


「委任、つまり任せることだな。

 ヤツカドは散々言っていたな。

 全部私ひとりでやろうとせず『任せる』必要があると」



 そう、何度も言ってること。

 もちろん魔王様のご負担を軽くする目的もあるけど。


 いくら魔王様が完璧で何でも出来る方であっても、『任せる』ことなくして『社会』は構成できない。


「そうです。そしてその委任をするにあたり必要となるのが法律なのです」

「また法律か」

「今までとはちょっと違うのですよ」


 何が違うかと言うと、この立法は魔王様が四天王に対する命令を『法律』の形で行うものだという点だ。


 今までの法律は魔物一般に対してだったけれど、今度はターゲットが四天王になる。

 これは法律の区分で言うと『行政法』というジャンルになる。



「四天王が相手なら、みなに個別に命令すればいいではないか。

 わざわざ法律の形にする必要があるのか?」


「素晴らしい質問です。

 さすが僕の敬愛する魔王様!

 聡明にして全知全能!

 大好きです!愛してます!!」


「だからいちいちその変な合いの手を入れるのはやめないか、ヤツカド…」


 何度止められても止まらないんだ……。

 魔王様が愛おし過ぎて……。


 いっそ魔王様を称えるための祝祭を開催したいくらいなんだ。

 日本には『国民の祝日に関する法律』というのがあって、それで祝日は決められている。

 もし今、ここが人間社会並みに労働社会になっていたなら『魔王様を称える日』というのを祝日として設けて魔物社会総出でお祝いしたい。


 そうだな、暦が整備された今こそ『魔王様を称える日』を設けてみるか……。

 多分魔王様は恥ずかしがって反対なされると思うのでそこはサプライズ的に僕が権力を濫用して……。


 いや、やはりダメだ。

 そんなことは許されない!


 魔王様を称えるのは年中無休であるべきだ。

 そんな特別な日を設ける必要はない! 


「ヤツカド……」


 なんか魔王様の冷ややかな視線を感じる……。

 そうだった。

 質問をいただいたんでしたね。


「すみません、ちょっと良からぬことを考えていました。

 先ほどのご質問ですが、法律ではなく四天王にダイレクトに命令すれば良いのではないかということでしたね」


「良からぬこと?」

「それはいいですから」



 なぜいちいち四天王に対して法律を作るべきなのか。



 理由は第一に、四天王を公平に扱う必要があるからだ。


 ひとりひとり命令で行っていれば、他の四天王に対してどのような命令を行ったかが分からない。

 すると四天王が「自分のコミュニティが不利に扱われているのでは」という疑念を招く危険がある。

 それは魔王様への不信につながる。

 だからこそ『法律』の形にして、全てのコミュニティに同じ命令を出していることを明らかにしなければならない。



 第二に、明確性や予測可能性の問題だ。


 口頭の命令ではその法律の規制する範囲が明確に残らない。

 そのため四天王が自分に都合よく捻じ曲げてしまう可能性もある。

 また、命令のようにいつ変化するか分からないものでは安心して従えない。

 いつから効力を発揮し、廃止されるまでは効力を有する。そんなよりどころとして法律は機能する。


 もちろん、細かい箇所については個別に四天王に命令することは構わない。

 しかし、個別の命令はそれが正確に実施されることはあまり期待出来ない。

 重大なポイントはやはり法律の形にした方がいい。


「というわけです」


「分かった。

 では法律案を検討しよう」


「それですが、いつもであれば魔王様のご希望を僕が整える形になりますけど、今回についてはやや事務的な内容が多いので、僕の方が作成し、魔王様に説明させていただいた上でご承認をいただく形ではいかがかと思うのですが宜しいでしょうか」

「構わない」



 というわけで本日の法教育とお仕事の話はおしまい。

 これからは僕の毎回の駆け引きが始まります。


「話がまとまったところで、今日あたりいかがですか?」

「なんのことかな」


「またまた魔王様。

 僕と熱い口づけを交わしましょうよ」


 魔王様がため息をつく。


「ヤツカド……、おまえは本当になんというか物好きだな。

 懲りないものか」


「なんで懲りる必要があるんですか。

 毎回楽しみにしているのに」


「私はかなり懲りているんだが」


 何かありましたっけ?


「私にも油断があったんだ。

 もうすっかり食欲をコントロール出来ていると。

 そう思った次には食い過ぎてしまっている」


 うーん、確かに前回のときはキスが濃厚過ぎて僕は3日意識がなくなっちゃいましたね。

 キスの余韻を楽しみたいからもうちょっと加減をして欲しいと思いつつ、それでもやっぱりその瞬間はそれがたまらなくて……。

 僕の快楽のポイントは確かに厄介だなとは思います。


「でも前回はもう一月くらい前ですよ?

 さすがに間が空いてますしインターバルとしては十分なのでは?」


「いや、やはりもう少し間を置きたい……。

 自戒のためにもな」


 自戒……。


 魔王様が自らを戒める必要なんて一切ありません。


 それが魔王様を苦しめるなら僕が代わって差し上げたい。

 でも僕は自省とか自戒とか、そういう感情がないからなぁ。


「責任を転嫁するつもりはないが、ヤツカドも食われすぎてるときには少しは抵抗してくれれば……」


「そんな、僕が抵抗すると思います?」

「……しないな」


 その通り。


 ともかく魔王様が嫌だとおっしゃるのに無理なことはさせるわけにはいかない。

 魔王様が望んだときに僕を差し出すことこそが僕の最も望むところだから。


 といってもここであっさり引くのも僕らしくない。

 もうちょっと魔王様の需要をリサーチしてみよう。


「では魔王様、別の訓練などいかがですか?」


 魔王様の需要、つまり食欲のコントロールをしたいという点に変化はないはずなんだ。

 なら別の手段を提案すればいい。

 そうすれば魔王様の需要を掘り起こすことが出来るはず。


 さすが僕。抜かりはない。

 優秀な弁護士は出来が違う。




 少なくともこのときまでは、僕はそう思っていた。




いつも読んで下さったありがとうございます。

ブクマも感想も評価もとてもとても嬉しいです。


ところで、人物紹介とかキャラクターイメージイラストとか、そういうのってあった方がいいですか?

必要なら、なんとか用意出来ると思うんですが…。


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