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17 黙秘

ヤツカドさん、牢屋が板についてきました。


「あの、リヴァルド?

 僕牢屋に入ったままなんですが。

 扉を開けていただけませんか?」


「だって……、開けたらヤツカド帰っちゃうでしょ……?」

「そりゃあまあ」

「じゃあ開けない……」


 えーと、リヴァルドさん?

 あなた僕よりずっと年上なんですよね?

 長く生きてる魔物ですよね?


 なんでこんな子供じみたことしてるんすか。

 子どもに化けて精神まで幼くなったんじゃないでしょうかね。


 ちなみに今の魔物世界においては監禁を罰する法律はない。

 だからリヴァルドのやっていることは、別に法律には触れない……。


 うん。帰ったらもうちょっとだけ刑法の内容を充実させよう。

 そろそろもう少し法律を増やしてもいいと思うんだ。

 四天王のそれぞれのコミュニティに裁判所が出来る日も間近なことだし。



「リヴァルド、僕を必要として下さるのは光栄ですけど、ここに閉じ込められていたら何も出来ないですよ?」


「別にいいよ……。

 リヴァの傍にいてくれれば……」


 なんかむちゃくちゃなこと言ってるぞ。


「リヴァもほんとはヤツカドを牢屋に入れるつもりなかったの……。

 ヤツカドを動けなくして、リヴァのお部屋でくつろいでもらうつもりだったのに……」


 今度はちょっと怖いこと言ってるな。


「でもヤツカド、全然お魚効いてなかったし……」


 魚?


「さっきヤツカドがたくさん食べたお魚……。

 あれね、毒あるの……。

 全身が動かなくなっちゃうんだよ……。

 なのにあんだけ食べて、ちっともヤツカド気が付かないんだもん……」


 そうなの?


 毒が入ってたのかぁ。

 そうかぁ。


 いや、僕も実は薄々感じてたんだ。


 毒魚だってことじゃなくて……。


 多分、僕に毒は効かない。

 少なくとも口から摂取するタイプの毒はね。


 なんかね。なんでも食べれるんだよ僕。有害物質でも。

 口の中の消化液も強いけど、体内の消化液はもっと強力みたいでさ。


 もし僕みたいなのが元の世界に戻ったら、放射性廃棄物の処理に使われてしまいそうなレベルで、強力な消化液を持ってるっぽい。


 だからまあ、毒のことでリヴァルドを責める気はない。

 あの魚本当に美味しかったからな。

 また食いたい。


 ……いやそんな場合じゃなかった。


「僕は魔王様のものですから、ずっとここにいるわけにはいきませんよ」


「いいじゃん……。ここにいて……。

 魔王様だって別にそれほどヤツカドのこと気にしてないでしょ……」


 ぐ……

 それを言われると……。


「ね……? ヤツカド……、リヴァのものになって……?

 そしたらすぐに出してあげる……」


 どうしようかな。


 もちろんリヴァルドのものになる気はないんだけど、ここは口だけでも同意したフリをして牢屋から出させれば楽に済む。


 リヴァルドは後で怒るだろうけど、別にそんなの僕が知ったこっちゃない。

 強迫による意思表示は取消し出来るものなんだ。

 法教育の一環としては良い勉強になるだろう。


 ただなぁ……。

 口だけでも魔王様を裏切るようなことは言いたくないんだよ。

 リヴァルドはどうでもいいけど、魔王様への僕の愛と忠誠心には一点の曇りもないんだ。


 それにリヴァルドは僕を慕ってくれているようだし、利用できる魔物だ。

 好感度を落とすのもあまり良いとは思えない。


 とりあえず嘘をつくのは他に手がなくなってから。

 今回は少しやり方を考えよう。


「リヴァルド。大人しく出さないと怒りますよ」


「別に怖くないもん……。

 その牢屋は頑丈だよ……。

 魔王様が処置を施してくれたヤツだしね……」


 はあ、魔王様はここの牢屋も手掛けているのか。

 本当に働き者過ぎますよ。

 さすが僕の敬愛する至高の存在……。

 ですけどあまり根を詰めないで下さいね。


「出さないつもりなら、これから僕はリヴァルドと口をききませんからね」


「え……うそ…?

 そんな、ヤツカド……」


 それくらいで動揺するの?

 大丈夫かこの四天王…コミュニティちゃんと管理出来てるの?


 いや、出来てるんだろうなぁ。

 僕の見る限り仕事は完璧だった。

 たまに変なとこがあるんだな……。



________________



 あれから丸一日経ってしまった。


 帰るのが数日遅れてもどうってことはない。

 ただ、今日には魔王様にお会い出来ると思ったんだけどなぁ。

 楽しみにしていたのに……。残念だよ。


 僕は別に暴れるでもなく、牢屋の中でのんびりしていた。


「ねえ……ヤツカド、もっとゴハン食べる……?

 なんでも好きなもの持ってきてあげるよ……」


 僕は返事をしない。


「ね、ほら……、これも美味しいよ……」


 リヴァルドは僕の機嫌を取ろうと、魚や貝や、とにかくいろいろ持ってくる。

 黙って食べるけど、口はきかない。


「ねえ、ヤツカド……何か言ってよ……」


 黙秘。

 検察が使うあの手この手の黙秘破りの尋問に比べたら、リヴァルドなんて子供同然だ。

 まだ1日だけど、これが3日でも1週間でも僕には問題ない。


 リヴァルドは僕の近くから離れようとしない。

 眠るときも牢屋の近くで僕を見ながら眠りについている。


 リヴァルドにも仕事があるだろうに、ずっとここにいていいのか?


『仕事しろ』そう言いたいのはやまやまだけど。

 僕は何も言わない。


「お願い……ヤツカド……、おしゃべりしよ……?」


 切なそうな表情をしてもダメ。

 残念ながら僕は他人に同情するようなタイプじゃないから。


 大体リヴァルドに同情の余地ないだろ。



 そのとき、不意に僕を呼ぶ声が聞こえた。


「ヤツカド」


 僕の全神経が一瞬で引き付けられる。

 リヴァルドの声じゃない。

 このお声は……!


 次の瞬間、僕は目を疑った。


 だって目の前には、僕が焦がれて焦がれてずっと頭の中に思い描いていたお姿があったから……。


「はい」


 僕は一日ぶりに口をきいた。


 なぜ魔王様がここに……


 どうでもいい。


 お会いしたかった、魔王様……!






読んでくださってありがとうございます。とてもうれしい…。

ブクマも感想も評価もうれしい…。

うれしいことたくさん…。

れ、レビューってもらえることあるのかな…

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